令和6年読書の記録 川添愛『世にもあいまいなことばの秘密』
先日、「トランプ氏また暗殺未遂」という見出しを読み、私は一瞬、トランプさんって昔暗殺未遂起こしてるん?と思いましたが、蓋を開けてみたらトランプさんが再び暗殺されそうになったというニュースでした。見出しは短い文章で表現しないといけないので、たまにこういう誤解が生じます。
言葉というのは、伝え方を間違えると思いも寄らない伝わり方をしてしまうことがあり、それを逆手にとって言葉遊びができるのも面白いところではあるのですが、伝えることを生業にしている場合、できる限りの注意をしてその曖昧さを無くしていく必要があります。
言語学者の川添愛さんの本はこれまでも何冊か読んでいて、リズミカルでどこかコミカルでもある文章が私大好きなんであります。
この本では、言葉のすれ違いの事例を紹介しつつ、それらをもとに言葉の複雑さ、面白さについて紹介してくださっています。
例えば、
●冷房を上げてください は
温度を上げてほしいとも下げてほしいとも捉えられます。
●お医者さんの奥さん は
お医者さんである奥さんなのか、
お医者さんにとっての奥さんなのか。
●私には双子の妹がいます は
私の下に双子の姉妹がいるのか、
私が双子のうちの姉であるのか。
●頭が赤い魚を食べる猫 には
何通りの解釈があるか。
こういう事例を繰り返し確認していくうち、どんどん言葉の曖昧さに敏感になっていきます。
世の中には曖昧な言葉が溢れかえっており、そんななかで円滑にコミュニケーションがとれている私たちってなかなかのもんなんじゃないかとも思います。
SNSなどではお互い顔も知らない人同士が「曖昧な言葉」の捉え方の齟齬により、しなくてもいい喧嘩に発展してしまうこともあるようです。
この本に掲載されていたのは例えばこんな事例。
とある署名活動が行われていた頃、その活動に賛成している人と反対している人がネット上で意見を戦わせていました。そんなとき、その署名活動についてSNSで「まだ署名やってるよ」と書いている人がいました。
この「まだ署名やってるよ」は、
署名活動を揶揄して「まだやってるよ。やっても意味ないのに」と言っているのか、それとも「まだやってるから協力してくださいね」と呼びかけているのか、は書き言葉のみの場合、判断しかねますよね。
ということは、つまり、アクセントや抑揚、表情などのない「書き言葉」においては、相手に誤解されないよう細心の注意を払わなければならないということです。
また、ラジオのように耳にしか訴えかけることができない手段においては同音異義語などについて気を配らなければなりません。
言葉って、言語って、本当に面白いし、危なっかしい。読む前より、ちょっと言葉に真摯に向き合えるようになれる一冊。
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涌井慎です。
私の著書『1人目の客』や1人目の客Tシャツ、京都情報発信ZINE「京都のき」はウェブショップ「暇書房」にてお買い求めいただけます。
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