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洗脳の入り口:自己開発セミナーの実態【怪談・怖い話】

俺はその日、何の気なしに昔の友人からの誘いに応じてしまった。最初はただの自己啓発セミナーだと思っていたんだ。昔からの幼馴染である斎藤が「自己開発セミナー」に参加しないかと誘ってきたのだ。斎藤とは小学校からの仲で、何度も家に泊まりに来たり、一緒に夏休みの宿題をしたりしていた。大学は別々になったが、社会人になってからもたまに連絡を取り合っていた。

「ちょっと怪しいんじゃないか?」とは思ったものの、仕事のストレスもあって気分転換になるかもしれないと参加を決意した。斎藤が言うには、「新しい自分を発見する機会」だという。そんな言葉に引き寄せられ、俺はある週末にそのセミナーへと足を運んだ。

セミナーは都心のビルの一室で行われた。部屋に入ると、同じように招かれたらしい20代から30代の男女が集まっていた。最初は自己紹介から始まり、和やかなムードで進行していた。しかし、昼食を過ぎたあたりから雰囲気が一変した。

最初は和やかだったセミナーの雰囲気が一変した

昼食後、セミナー講師がスクリーンに映し出したのは、なんとキリストの聖骸布についての映像だった。聖骸布とは、イエス・キリストが十字架にかけられた際に包まれたとされる布のことで、歴史的にも宗教的にも非常に重要な遺物だ。なぜ自己開発セミナーでこんな話が出てくるのか、疑問に思いつつも俺は興味深く聞いていた。

しかし、話は次第に宗教色を帯びてきた。
「信仰とは何か」「自分を捧げることの意義」など、次第に自己啓発というよりは宗教的な教えに偏っていった。俺は次第に不安になってきたが、斎藤の手前、途中で帰るわけにもいかなかった。

二泊三日のセミナーと聞かされていたが、実際に参加してみると、ただの宗教勧誘だったのだ。初日の夜、信者たちは参加者全員に対して「真の自己を発見するためには、まず心を開くことが重要だ」と繰り返し説得を試みた。

信者たちに囲まれ、脱出を試みるが…

二日目の朝、俺は就職活動の面接があると言って帰ろうとしたが、信者たちに囲まれてしまった。「ここで得られるものは、どんな面接よりも重要だ」としつこく説得され、なかなか帰してもらえなかった。なんとか強引に突破して帰宅したが、その後も電話攻撃が続いた。

「興味もないしもう行かない」と言っても、「そんなはずは無いでしょう?」と取り合わない。
「これから面接に行くんだから電話を切るぞ」と言っても、「あなたには面接よりももっともっと大切な事があるでしょう!!!」と食い下がる。

その頃、携帯電話なんて持っていなかったから、家の電話が鳴るたびに胸がざわついた。就職活動中ということもあり、電話に出ないわけにもいかず、俺は次第に追い詰められていった。

この一件を機に、斎藤との付き合いも自然とフェードアウトしていった。あれほど親しかった斎藤とはもう連絡を取ることもなくなり、次第に彼のことを忘れかけていた。

数年後、テレビ画面に映る驚きの光景

それから数年が経ったある日、取引先で相手を待ちながら何気なくテレビを見ていた。すると、画面に映し出されたのは、満面の笑みを浮かべて万歳三唱する斎藤の姿だった。彼は韓国で行われた某統一教会の合同結婚式に参加していたのだ。

「あいつ、ついにやっちまったな…」と思わず呟いた。斎藤がその宗教にどっぷり浸かってしまったのを目の当たりにし、かつての友人を失ったような寂しさと同時に、あのセミナーの恐ろしさを改めて実感した。


後日談

数か月後、俺はふとしたことから再び斎藤と再会することになった。ある日、仕事帰りに立ち寄ったカフェで、見覚えのある顔が目に入った。斎藤だった。彼は見違えるほどやつれていて、かつての笑顔もなくなっていた。

「斎藤、久しぶりだな」と声をかけると、彼は驚いたような顔をして振り返った。「お前…なんでここに?」と、彼は戸惑いながらも話を始めた。

斎藤はあの後、統一教会の活動にのめり込んでいったという。しかし、次第に教会のやり方に疑問を抱くようになり、抜け出すことを決意した。しかし、一度足を踏み入れた信仰の世界から抜け出すのは容易ではなかった。信者たちからの監視や圧力に耐えながら、彼はなんとか脱出に成功したのだという。

「今はどうしているんだ?」と聞くと、斎藤は一瞬目を伏せた後、「まだ完全には自由になれていないんだ。抜け出すためには、大金が必要なんだ」と答えた。教会からの脱退には多額の罰金が課されているらしい。

俺はその話を聞いて、斎藤を救いたいと思った。しかし、どうすればいいのか分からない。そこで、ネットで調べることにした。宗教団体の脱退についての情報や、サポートしてくれる団体がないかを探した。そして、いくつかの団体に連絡を取り、斎藤を助ける方法を模索し始めた。

数週間後、俺たちはあるNPOの協力を得て、斎藤を教会から完全に脱退させることに成功した。斎藤はその後、カウンセリングを受けながら新しい生活を始めることができた。

「ありがとう、お前のおかげで俺はやっと自由になれた」と斎藤は涙を浮かべて言った。俺は彼の背中を叩きながら、「これからが本当のスタートだ。一緒に頑張ろう」と答えた。

こうして、俺たちは再び友人としての絆を取り戻した。斎藤も新たな一歩を踏み出し、俺も彼の支えとなることができた。恐ろしい経験だったが、それを乗り越えたことで、俺たちの友情は以前よりも強固なものとなったのだった。


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