「あなたは都庁が好きですか?」と116人の若手職員に問いかけてみたら。
2020年8月に「都政の構造改革」が始まって2年半が経ち、未来型オフィスの展開、ペーパーレス55%削減、FAXレス99%削減、都民利用78施設の入場料等のキャッシュレス化完了など、いくつかの成果が目に見えるようになってきました。
一方、2021年度の職員向け調査では、構造改革で都政は変わってきたか?という問いに対し、「変わった」とする回答は58%で、4割強の職員は「変わっていない」という回答でした。(※2022年度調査では「変わった」が63%に改善しました)
構造改革といっても、「デジタル提案箱」に投稿している数%の職員だけで盛り上がっていて、その他の大半の職員はどこか冷めた目で見ていないだろうか?私たち構造改革推進チームの発信は一方通行になっていないだろうか?改革の担い手である職員に本当に向き合えているだろうか?
そんな問題意識から、構造改革推進チームが各局の職員のところへ出向き、都庁を活性化させていくために何が必要か直接対話し、そこで出た意見を「シン・トセイ」に反映させることをコンセプトとして、2022年6月に「シン・トセイ構造改革トークキャラバン」という企画を立ち上げました。
関係者のご理解とご協力のもと、都庁舎を離れ、TOKYO UPGRADE SQUAREにおいて、2022年7月~10月にかけて都庁全25局の本庁それぞれの部から1名ずつ、合計116名の若手職員(主事・主任級)が6回にわたって一堂に会し、外部の方を入れず職員だけで企画からファシリテーションまで行い、対面でディスカッションを行いました。
それぞれの局に参加者の推薦を依頼する際には、「デジタルに詳しい職員というより、面白いことを考えている職員で、男女比や職種も含め、できるだけ多様になるように」とお願いをしました。
そうして集まった116名の若手職員に私たちが最初に投げかけたのは、「あなたは都庁が好きですか?」という問いかけです。
今回のnoteでは、その問いかけから「シン・トセイ3」のコンセプト「オープン&フラット」へと至るトークキャラバンの半年間をご紹介します。
■116人の若手職員に聞いた「あなたは都庁が好きですか?」
都庁全25局の100名を超える若手職員と対話するという前例のないこの取組で重視したのは、従来の「研修」のような構造改革推進チームが一方的に話し、職員が学びに来る場ではなく、全員が対等な立場で、対話を通じて発見していく、そんな所属や職層を越えた「フラット」な場を作ることです。
そこでトークキャラバンでは、①手ぶらで業務端末不要、②事前準備は不要、③発言は自由でこの場限り、そして、④名札には「下の名前」か「あだ名」を書くこと、をルールにしました。都庁舎内ではない外部の場所で開催したのは、そうした「非日常感」のためでもありました。
集まっていただいた職員への最初の問いかけは重要です。
企画の出発点にあったのは、どうすればより多くの職員に構造改革を「自分事」として捉えてもらえるか?どうすれば職員のエンゲージメントを高められるか?という問いでした。そんな問題意識をストレートに職員に聞いてみようと生まれた問いかけが、「あなたは都庁が好きですか?」です。
問いのインパクトのため、キャラバンの参加者には事前には伝えず、冒頭でいきなり「あなたは都庁が好きですか?」と聞いてみました。
当初、投票箱に票を入れてもらう形式で実施したところ集計に時間がかかったため、次からはスマホを持参していただき、QRコードを読み取って完全匿名で投票していただく形式に。その場ですぐに結果が出るので、それを見ながらみんなで感想を話すことにしました。
さて、その結果はどうだったか?
集計の結果、「好き」と答えた人は69%、「好きじゃない」と答えた人は31%でした。その日ごとの結果をその場で参加者と見ながら「これって多いと思いますか?少ないと思いますか?」と問いかけ、感想を共有しました。
この最初の問いかけで、何も知らされず警戒していた参加者に対し、このトークキャラバンという試みが従来の研修にはない、都庁の本質的な問いに向き合い、新しいことをしようとしている、そんな「空気」を最初に共有し、少しずつ参加者が饒舌になっていきます。
■都庁の「好きなところ」「変わってほしいところ」
さて、こうした空気作りを経て、本題に入る前にアイスブレイクです。5~6人1組のチーム内で、「地元の好きなところ」「高校生の頃好きだった音楽」など、「好き」をテーマに自己紹介をしていただきました。
「自分って何が好きなんだっけ?」という頭の体操も含めた自己紹介が終わったところで、本題として、
"都庁の「好きなところ」と「変わってほしいところ」を教えてください"
という問いを投げかけました。最初の「あなたは都庁が好きですか?」という問いを考えるにあたって、いろんなことが参加者の頭の中を駆け巡ったはずです。それを一つ一つ言葉にしてもらう作業を行いました。
まず個人で都庁の「好きなところ」と「変わってほしいところ」を付箋に書き出してもらいました。「好きなところ」はピンクの付箋、「変わってほしいところ」は青の付箋、一つの付箋には一つのメッセージで、とにかくたくさんいろんな視点から書き出してもらうことをお願いしました。
その後、グループごとに近くにあるホワイトボードに付箋を並べ、それぞれのチームで「好きなところ」「変わってほしいところ」のベスト3で選んでもらい、発表していただきました。
ファシリテーターから、それぞれのチームで気になることが書かれた付箋をピックアップしてお聞きし、そこに込められたエピソードや思いをマイクをお渡ししてお話しいただきました。
「ぶっちゃけでいいんですよね?」「いいんです。誰にも言いませんから」というやりとりを繰り返し、参加者全員でうなづきながら本音を共有し、本質的な課題を議論していきました。
キャラバンの最後には、全員がフラットに対話する、というスタンスを踏まえ、目の前の机をとっぱらって全員で椅子だけで円になり、今日の感想を全員で一言ずつ言って、全体を締めました。
▶︎「変わってほしいところ」は普段から思うところがあるけど、「好きなところ」は考えたことがなかったので新鮮だった
▶︎ 最初の投票では「好きじゃない」に投票したけど、ここで話すことでみんな同じことを感じていたんだと共有することができてよかった
▶︎ キャラバンのような局を超えて対話する取組をもっと増やしてほしい
など、参加者一人ひとりの率直な感想をいただきました。
■参加者の782の意見とその分析結果
さて、このように7月から10月にかけて116名で実施したトークキャラバンの結果はどうだったか。意見を正面から受け止めるべく、事務局でとりまとめを行いました。
付箋に書き出していただいた都庁の「好きなところ」「変わってほしいところ」を集計した結果、好きなところが「363」、変わってほしいところが「419」で、合計で「782」のご意見をいただきました。
こうして出てきた782の意見について、すべての言葉を一つ一つデータとして打ち込み、363の「好きなところ」と419の「変わってほしいところ」のそれぞれについてテキストマイニングをかけて分析。さらに参加者とのトークの中で出てきたエピソードや意見を踏まえ、結果をとりまとめました。
まず、「好きなところ」の結果です。
「産業、福祉、交通、水道など幅広い事業に取り組んでいるので、異動のたびに学ぶことが多く、色々な経験をすることができる」「利益ではなく、世の中のために働くことができる。」「先進的な政策に取り組むことができるのでやりがいがある」
職員の考える「都庁の好きなところ」としては、そんな都庁の事業の幅の広さや先進性、公益性に関する意見が多く見られました。また、「人が優しい」「意外とみんな協力的」「多様な職種の職員がいる」「働きやすい」など、職員の人柄や働く環境に対しても多くの意見が集まりました。
次に、「変わってほしいところ」の結果です。
「組織が大きすぎて、所属を越えたコミュニケーションが不足しているのではないか?」「部署により仕事の繁閑の差があるのではないか」「働き方の柔軟性が職場によって違う」
職員の考える「都庁の変わってほしいところ」としては、大きい組織がゆえのいわゆる「縦割り」に関する意見が多く見られました。また、「業務システムが使いづらい」といったデジタル環境に関する意見や、「公募制人事を増やしてほしい」「昇任試験が難しい」といった異動や昇任に関する意見も見られました。
また、キャラバン終了後のアンケートにも様々な意見が寄せられました。
結果を集計したところ、「他局の職員と交流する機会がないので新鮮だった」「自分だけがモヤモヤと思っていたんじゃなかったと分かった」など、88%の参加者に満足とご回答いただき、初めての試みとしてはひとまず胸をなでおろしました。
一方、「これはシン・トセイにどう反映されていくのか」と先を見据えたご意見もあり、キャラバンの結果をこのままにしておかず、正面から受け止めて取組に生かすことが重要だと改めて認識しました。
■シン・トセイ3、「オープン&フラット」へ
さて、こうして116名の若手職員の様々な意見を構造改革推進チームとして正面から受け止めました。「都庁の好きなところ」をこれからも守りながら、「都庁の変わってほしいところ」を打破するために、私たちには何が必要なのか?
「シン・トセイ3」の策定に向けて、トークキャラバンの結果を副知事や関係幹部が参加するチームの定例MTGや関係する部署で共有するとともに、様々なチャネルで集めた職員の声をもとに総合的に検討を進めていきました。そうした検討の結果、新たなコンセプトとして「オープン&フラット」を掲げました。
「オープン」として「多様性が確保され、職員誰もが自らのアイデアを提案し実現できる」「様々な挑戦や成長の機会が開かれている」、「フラット」として「職層や所属を越えて職員が自由にアイデアを出し合いながら活発な議論を展開していく」と戦略に明記しました。
さらに、職員一人一人が改革の「実践」を更に進めるカギとして、職員一人一人が楽しく夢中で仕事をする「おもしろい都庁」へ、という新しい理念を掲げることにしました。
そうした理念は「シン・トセイ3」の様々な部分に反映されています。
たとえば、新しいコア・プロジェクト1「都庁のワークスタイル変革プロジェクト」では、チャット機能を使いこなして気軽にコミュニケーションを進めていくことなど、デジタルツールを使いこなして、場所や時間を柔軟に活用した質の高い働き方の実践について盛り込みました。
「オープン&フラットな都庁」「おもしろい都庁」の具体策がもっとも結実したのが、新しいコア・プロジェクト6「都庁の活性化・ウェルビーイング実現プロジェクト」です。
この新しいプロジェクトでは、「職員の学び・挑戦・成長を応援する」という方針を掲げ、全ての職員が若手・中堅のうちに外部への派遣を経験できるようにすることや、
庁内公募制人事(手挙げ制の人事異動)の拡充、昇任選考の見直し、同一部署での昇任や長期在職ができるような人事異動の基準変更などを盛り込みました。
■10人の有志職員が副知事とディスカッション
さて、トークキャラバンには「オープン&フラット」な後日談があります。
キャラバンの結果を構造改革推進チームの定例MTGにおいて報告したところ、リーダー、サブリーダーである武市・宮坂両副知事より「参加者と一緒に話してみたい」と提案を受け、116名の参加者から都庁1年目から8年目までの10名の有志の若手職員を集め、12月のある日の業務時間外に、庁内のとある会議室で「どうすれば職員一人ひとりが生き生きと働ける都庁を作ることができるか」をテーマにディスカッションを行うことになりました。
全員がフラットな立場でディスカッションを行うため、副知事含め全員手ぶらで、机はなく、座席だけで円になって、副知事は若手職員の「間」に座っていただきました。
最大のルールは、副知事を含めて全員「さん」付けで呼ぶこと。当日その場でこのルールを副知事に提案したところご快諾いただき、「武市さん」「宮坂さん」とお呼びしてディスカッションを開始することができました。
10名の有志職員で事前に集まって議論し、自分の仕事に「納得感」を感じる仕組みが不足しているのではないか、上司と部下のコミュニケーションが不足しているのではないか、といったアイデアをまとめ、副知事にプレゼンという形で問題提起したところ、話は「コミュニケーション」の重要性に焦点があたります。
そもそも私たちの組織にはコミュニケーションが足りているか?局が違うと全く別の組織同士のようになってしまうけれど、どうすれば横串しを刺していけるか?テレワークではどんな風にコミュニケーションをとっていけばいいか?上司は私たちのことを見てくれているのか?
そんな若手職員の意見に対し、武市副知事から「組織を回そうとすると、自分ですべてを見ようとするのではなく、部下に任せることが大事だと思っている」といったフィードバックをいただき、宮坂副知事からは「強い組織では、上司・同僚といった縦・横ではなく、違う部署の先輩など"斜め"の関係が強い」「「会議」と「会話」は違って、豊かな「会話」を土台として実りある「会議」が生まれる」と意見をもらうなど話は多岐に渡りました。
最後は「今日、ここに集まった10人で明日から始めるアクション」として副知事を含め、一人一言ずつ決意を述べ、キャラバンを終えました。
最後に宮坂副知事から、コミュニケーションは「小っ恥ずかしさ」との戦いで、都庁のような大きな組織ではみんなが少しずつそれを乗り越えて一歩を踏み出すだけで大きな力になる。キャラバンのような取組を「1000回」繰り返せば必ず組織は変わるはずだ、とエールをいただきました。
こうしたことを背景として、トークキャラバンの取組は「シン・トセイ3」の「オープン&フラットな組織づくりの実践」に正式に位置付けられ、今後も継続していくことになりました。
ポータルサイトで有志職員を募って議論する「シン・トセイ オフ会」とあわせ、構造改革を幅広い職員とオープン&フラットな関係で一緒に進める取組を都庁で広げ、改革を進化させていきたいと思います。
■「オープン&フラット」な都庁へ
トークキャラバンの企画を立ち上げたのは、自身も都庁の「若手」の一人である構造改革推進チームの職員です。企画を実現するまでチーム内で議論を重ね、最終的に背中を押してくださった武市・宮坂両副知事をはじめとしたチームの上司とのオープン&フラットな関係が前提にあって、この企画は成り立ちました。
都政の構造改革で私たちが重視してきたのは現場の職員一人ひとりの「実践」です。改革を「理念」「あるべき論」にとどめず、働く環境をデジタルの力で実際に変えることで職員の「行動」を促し、実践の過程で見出された課題を「制度」や「仕組み」の変革につなげ、職員を、組織を、都政全体を変えていく。そんな「運動」を目指して改革を推進してきました。
今後、都庁内で役職や所属を越えた「オープン&フラット」なコミュニケーションの場をどんどん増やし、「シン・トセイ」のムーブメントを組織文化の変革にまで踏み込んで広げ、都政のQOS(クオリティ・オブ・サービス)を向上させていけるよう、これからも構造改革推進チームとして取り組んでいきます。引き続きの応援をよろしくお願いいたします。