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【書評】『中空構造日本の深層』から学ぶ日本人特有の精神構造

今回はアニメや漫画ではなく、書評です。べっ、別に燃え尽き症候群とかじゃないんだからね///


本書は日本人の精神構造を鋭い洞察力で明らかにした本です。

出会ったきっかけはゲームの考察記事です。

そこに、「このゲーム(SEKIRO)は中心人物である葦名一心に関する情報がほとんどない中空構造である。」みたいなことが書いてあり、それがきっかけで興味を持ちました。

それにしても、とても考えさせられる内容でした。ゲームからこうした奥深い学問に至ることがあるので、やっぱりゲームはバカにできませんね。

それと作者の河合隼雄って結構有名なんですね。よくいろんなところで名前を見ます。最近だと『サル化する世界』で名前を見かけました。

所要時間 6分



・均衡・相対化

日本人特有の精神構造とはすなわち「中空構造」です。中心が空いているから中空。この構造のポイントは均衡相対化です。

もう少し詳しく見ていきましょう。

中心の周囲の要素の均衡によって、中空構造は保たれるので、周囲の一要素だけが優位になって、中心になり続けることがありません

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            (雑ですみません)

何かが完全に優位に立つことはありません。これはスサノオの話に如実に表れています。

スサノオはアマテラスによって高天原を追放されますが、その後文化的英雄となって出雲の国で大活躍します。つまり一時アマテラスが優位になりますが、時間が経つとバランスが戻ります

アマテラスvsスサノオの対立構造は残りますが、片方が善やら中心やら規定されることはなく、時には一方が優位に見えても、適当なゆりもどしによってバランスが回復されます。

これは、日本人の敗者に対する甘さや共感力が強いこと、いわゆる判官びいきの原型となるものでしょう。つまり、劣勢の者が後々活躍するかもしれないという考え方が無意識にあるのでしょう。

ところで、長い目で見ればいつかバランスは回復しますが、短期間において中空への侵入はいくつかありました

私が思うに、それらは漢字/仏教/西洋です。

古代、中国から日本に漢字が入ってきました。初めは漢語のままでしたが、次第に漢字から平仮名に変わりました。

仏教においても、日本に伝来後、改変され特に平安時代に多くの宗派が生まれました。高校の倫理で覚えるのに苦労するあいつらです。

てか仏教ってもともと解脱が目標なのに、国家を安定させるという欲のため利用されてますよねw 覚者が知ったら怒りそう...

最後に、西洋も同じく日本に入って来て、日本を圧倒しました。黒船来航とか。でもその後明治維新や高度経済成長期を経て急成長しました。(ファミコン、ウォークマン、新幹線など)『シン・二ホン』でもこういった話がありましたね。

以上の三つをまとめると、日本は中空ゆえ事物の侵入を許すが、経過とともに日本風に変化してしまうということです。つまり、日本はアレンジが得意ってことです。

・神話

本書では先ほどのスサノオの話以外に、様々なところで中空構造を見かけると述べられています。

例えば、多くの他民族の神話では、月神は太陽神と並んで、重要な役割を果たします。

これは日常生活において月は重要な役割を果たすからだと考えられます。日本は昔、太陰暦を用いており月との接点は頻繫にあったはずです。

しかし、『古事記』において、月神であるツクヨミはほとんど登場しません。

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        (C) 八百万の神々~神道の心を伝える~


更に、『古事記』の冒頭に語られる三柱の神においても似たような現象が起こります。

すなわち、アメノミナカヌシという最初の神で、明らかに中心的存在であることが名前によって窺われる神が、ツクヨミと同じく全く登場しないのです。

・現代社会

そして、「中空構造」は現代社会にも当てはまると述べられています。

例えば、日本の組織の長のあり方。

西洋では組織のリーダーは組織全体を率先して導いてゆくものですが、日本の場合は中心に位置する者が何もしない傾向にあるので、日本のリーダーは全体のバランスを保つ世話役になることが多いそうです。

日本ではリーダーが必ずしも権威や権力を持つ必要がないのです。例えば天皇制。天皇は国民の象徴であって、実質権力は首相にあります。つまり、天皇は日本人の精神的支柱として全体のバランスを保っているのです

また、「中空構造」の短所として、「統合性のない、誰が中心において責任を有しているのかが不明確な体制」と述べられています。

誰が中心かはっきりしないので、今でも全体責任という言葉がよく使われるのでしょうね。

それもこれも「中空構造」で説明できてしまう...今から20以上も前に発売されたことを考えると恐ろしい本ですね。


・その他

最後に紹介したいのが、男女の比喩です。個人的に、読んでとてもスッキリしたので説明します。

男性原理:切断によって物事を明確化
     太陽―精神―能動―右―上 と対応
女性原理:結合し融合する機能を主とする。
     月―肉体―受動ー左ー下 と対応

父性優位の西洋では、事物を切断し対象化し観察することで、自然科学が発展しました。しかし、絶対的な父性(ユダヤ教や合理性)と相容れないものを徹底的に排除するので、多くのエネルギーを必要とするそうです。

ちなみに、日本はもともと母性優位だったそうです。結合、つまりみんなで協力する協調性が重視されるので、大家族だったり同調圧力が発展したのでしょう。

確かに昔は、西洋みたいに明確化されず、みんなで行動したり子供を育てたりしてた印象が強いです。

しかし近代化で、一気に父性優位になりました。(特に軍隊、またそこから生まれた怖くて強い父親像)

(現代は、強い父親像は減って、理解のある父親が増えたように思います。)

これまでが第一部の話です。


他にも見どころ満載で、第二部では昔話やファンタジーを夢分析のように分析しており、面白いです。個人的に、昔話『赤ずきん』の複数の解釈の説明が印象深いです。

第三部では現代社会の分析や国別の精神性の違いについて書かれています。


……着地点を見失ってしまったので、印象深い文章を本文から引用して終わります。森嶋通夫氏の言葉ですが、特に今までの内容と関係はありません。

「日本では通常『国民的合意』は軽率に、しかも驚くべき速さで形成される。その上いったん『合意』が出来てしまうと、異説を主張することは非常に難しいという国柄である。」


最後までお読みいただきありがとうございました。


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