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【構成までちゃんと見直してる?】作品のレベルを引き上げる構成推敲法(2013年10月号特集)


シーン構成の工夫

 伊坂幸太郎の『死神の精度』の第3話にあたる「吹雪に死神」の冒頭は、田村幹夫という人物が殺される場面から始まっています。これが「1」。続く「2」では、時間を1日巻き戻し、死神がこの場所に来た経緯を説明しています。

 出来事が起きた順に時系列で書けば、一日目に死神が洋館にやってきて、その翌朝、宿泊客の田村幹夫が死んでいた、という順番になります。
 それでもいいですが、「2」の部分は、なぜ死神が洋館に来たかという経緯の説明が多く、冒頭に置くには動きがなく重たいということはあります。
 それゆえ読者を惹きつけるシーンをまず冒頭にもってきて、読者が「事件が起きたんだな、でも、どうしてそんなことに?」と思ったところで、間髪入れずに「2」に入っています。

次のシーンへの引き

 シーンや章などの区切りでは、読者は一息つけますが、同時にそこは読書のやめ時でもあります。そんなことにならないように、シーンや章の終わりには次への引きを用意しておきます。
 前出『死神の精度』(「吹雪に死神」の「2」の最後)にはこうあります。

田村幹夫は一日後には死ぬだろうし、夫人も、私の報告次第では一週間後に亡くなるはずだ。残された時間は貴重だから、食事の配膳などをやっている場合ではない、と私はそう伝えたい気持ちにもなったが、口にしなかった。

(伊坂幸太郎『死神の精度』)

 これは次章への予告編のようですね。連続ドラマでいうと、次週のワンシーンがちらっと出て、田村夫人も死ぬのか? どんなふうに? と思わせる手法です。

物語を動かす

 説明がしっかりしていると、読者は納得して話に入れますが、しかし、説明ばかりされてもおもしろくないですね。
 ですので、作者は物語を動かしつつ、自然なかたちで説明を小出しにしていったりします。

「おまえ、栗木の居場所を知ってるんだってな」若者の茶色と黒の二色になった髪が、濡れてぺしゃんこになっていた。
かなり長い間、私を待っていたのだろう。
私が曖昧な返事しかしないものだから若者は、「俺に会ったのが運の尽きだからよ」と唾を吐いた。雨が跳ねるのに紛れて、彼の唾も水溜まりに落ちた。

(伊坂幸太郎『死神の精度』)

 『死神の精度』の第2話にあたる「死神と藤田」の冒頭付近にある文章です。
 若者とあるのは阿久津というやくざで、藤田というやくざの弟分。私は主人公の死神です。ここでは若者が私を待ち伏せし、栗木(敵対するやくざ)の居場所を聞き出そうとしていることはわかりますが、なんのために? ということまではわかりません。

 ここで若者が栗木を探している理由を説明することは簡単です。しかし、それを長々とやっていると、物語の進行が停滞してしまいかねません。そこで作者は、作中の出来事を書き進めつつ、少しずつ状況を明らかにしていっています。

 こうすることで、物語も進行する、疑問を残しているので先を読みたくなる、ということで一石二鳥です。
 ただし、何もかも隠してしまうと、読者はいらいらし、「早く教えろよ」という気持ちになってしまいますので、頃合を見て少しずつタネ明かしをしています。

コメディ・リリーフ

 柏田道夫先生の『シナリオの書き方』にこうあります。

いくら見せ場が必要といっても、ひたすらテンションの高いシーンばかりを続けても、観客は疲れてしまいます。緊張を強いるシーンの後は、息が抜けるシーンを配分する。これを〔コメディ・リリーフ〕といいます。

(柏田道夫『シナリオの書き方』)

 再び『死神の精度』から引用します。ちなみに、この死神は(この世の者でないだけに)言葉にうといところがあります。それを前提に読んでください。

「俺が、仕事をするといつも降るんだ」
私は打ち明ける。
「雨男なんですね」と彼女は微笑んだが、私には何が愉快なのか分からなかった。
けれどそこで、長年の疑問が頭に浮かんだ。「雪男というのもそれか」
「え?」
「何かするたびに、天気が雪になる男のことか?」
彼女はまた噴き出して、「可笑しいですね、それ」と手を叩いた。 

(伊坂幸太郎『死神の精度』)

 このおかしさは説明するまでもないですが、こうした楽しい箇所があると、読む気力も俄然、増しますね。

伏線を張る

『死神の精度』の「死神と藤田」で、阿久津と死神は敵対するやくざに捕まります。以下は、そのことを敵が電話で藤田に知らせたあとのシーンです……

大局からてにをはまで!推敲のコツを作品から読み解く
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※本記事は「公募ガイド2013年10月号」の記事を再掲載したものです。

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