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あのとき歩いた道

何度も来たことがある街の、何度も歩いたことがある道。でも、その道を歩くのは何年ぶりだったんだろう。そんなことを思いながら彼女は歩いていた。
この道を歩きながら、あのときの私はどんなことを考えていたっけ。なんて、4月の桜が散って急に陽気が盛んになり、日曜日の人通りの多すぎるような日に考えながら歩いた。いまでも道ゆく人は必ずマスクをしていて、いまでも10cmの距離にいる人は彼女の存在を認識していないかのように通り過ぎていった。

人が多すぎると、人は人を見なくなるんだ。
人が多すぎる東京の休日を、何遍も何遍も過ごすうちに見つけた答え。いつまで経ってもきょろきょろと周りを気にしながら人の顔を見てしまったり、ちょっと歩く道が逸れるときは人とぶつからないように後ろを振り返ったりしてしまう。
東京にはそんな人、あんまりいないようだった。
人と人との繋ぎ目は、驚くほどに封鎖的だった。

それはその中に入っていれば当たり前なのだけれど、
いったんその外に出てしまうと、その繋ぎ目は驚くほどに脆く独りよがりで悲しいような関係性なのだと、あのときの自分を思って彼女はつまらなくなった。

いまも隣を歩いているこの人に、
私はなにを期待しているのだろうか。
考えていると頭が痛くなりそうで、彼女は思わず空を仰いで雲を眺めることにした。

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