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【現代ファンタジー小説】祓毘師 耶都希の復讐(12)急な依頼

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 平成27年2月25日。夜9時前 ――

 ――「二年前の不動産社長夫婦殺しの公判で、先月証拠不十分で無罪となった村井俊司さん35歳が、本日早朝、自宅マンション敷地内で死亡しているのが発見されました。警察によりますと自宅のある八階ベランダから飛び降りた可能性が高いもようです。遺書のようなものは見つかっておらず、自殺と事件の両面で捜査を続けているとのことです。では、次のニュース――」

 視ていたTVドラマが終わり、消そうとリモコンを手に取った。が、二分間ニュースのアナウンサーに読み上げられた原稿内容に、指を止めた。

「フン」

 電源オフ。安堵感を抱きつつ、隣部屋に布団を敷いた。石油ストーブのつまみで消火、照明の紐で消灯。私の身を布団へ潜り込ませた。

(処理、成功ね……)

 依頼人のことを考えた。このことはまだ知らないかもしれなかったが、安心してくれるだろうか、後悔しないだろうか、と。

 男は被害者の復讐対象だった。依頼人にとって恐怖の対象でもあった。捜査の目が彼女にいかないよう、完璧な状況を作る必要があったわけだ。
 村井俊司の飛び降りは、私の願いでもあった。他殺の物的証拠をゼロにすること、状況証拠を限りなく無にすることが、私の役割でもあった。

 今回も依頼人の希望に沿って、依頼人の“闇”に指令を出していた。意図的な自殺方法は私の創作物だ。結果的に完成したと断言出来た。


 依頼が届いたのは、一週間ほど前。

 遺族の悲痛な叫びと共に、急対応が求められた。
 依頼人は二年前に両親を殺された女性。無罪判決で自由の身になっていた、元容疑者の男に殺されるかもしれない、という緊迫した状況。そう伝えてきた。

 仲介役は大阪の宮司《ぐうじ》だった。祖父も付き合いのあったコネクションの一つだ。
 四日後に会う場所と時間を、宮司を通して知らせた。対象者の写真や住所、日々の生活パターンや癖、好みなど詳細を記載したメモを当日準備して欲しい、と付け加えて。


 ―― 2月21日 ――

 午後4時。滋賀県大津市の佐久奈度《さくなど》神社で待ち合わせ。

 最初に彼女の想いを確認した。
 対象となる男は彼女の、元婚約者だった。三年ほど付き合ったよく知る人物、と言う。二年前両親の猛反対と彼への直接的行動もあり、別れることが出来た、らしい。原因は、男の借金とDV癖……

(私の嫌いなタイプだ)

 嫌いというより、人として許せない。29歳の彼女と年齢が近いこともあり、少々同情した。

 この別れ話が発端となったのだろう。一週間後に両親は殺害されたようだ。たが、動機などの状況証拠はあるものの、有力証言や殺害に関わる物的証拠がなく、先月無罪判決が下された。

 従来の依頼なら、判決に不服とする理由がパターン。しかし彼女の場合は、少々様相が違っていた。
 無罪判決後、男は彼女に結婚を迫ってきた、というから驚きだ。

(無罪だから問題ないけど……でも、いくら元婚約者だからといって、容疑者だった人物が被害者の娘に結婚を申し込むか、普通……どんな神経してるんだ……)

 不動産経営をしていた親の遺産が目的ではないか、と依頼人は疑った。過去のこともあり、当然断った。

『俺と結婚しねぇなら、親の二の舞になるぞ!』

 脅しは、彼女を困惑させた。さらに、精神的に追い込まれたのは、

『お前の両親を殺《や》ったのは俺だ。もしお前を殺《や》ったとしても、俺は無罪になる自信があるぜ』

 この発言の恐怖による思考停止と混乱状態が、彼女を別の方向へ動かした。警察も充てに出来ず、相談する人もいない。“神頼み”のつもりで有名神社に逃げ込んだ。そこに居たのが宮司、というわけだ。宮司が仲介屋などとは知らなかった彼女だが、宮司の判断で、私を紹介してくれた、という経緯だ。

 私個人的にも許し難いその男の処理を、受けることにした。

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