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小鳥書房のこと

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小鳥書房の本屋と出版社のことを、店主が綴っています。
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#ローカル

「町とともにある出版社」と店主の問い

「町とともにある出版社」と店主の問い

思えばずっと旅をしていたようなものだった。日常という過酷な旅。幼稚園を泣きながら登園拒否したことを皮切りに、とにかく学校が嫌いで、中学高校では女子校の制服のスカートをたくし上げて塀を乗り越え脱走し、大学では授業に行かずアルバイトと写真を撮ることに明け暮れた。家庭も穏やかではなかった私は、「生きるって狭いなぁ」と葛藤していた。でも、学校と家以外にも世界は続いていて、人の暮らしの営みがある。そのことを

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場を編集することは「出会いなおす」こと。本屋の50年を縁でつくれたら

場を編集することは「出会いなおす」こと。本屋の50年を縁でつくれたら

つい先日、かつて勤めていた出版社の先輩から、「落合さんは本をつくる人じゃなくて、場をつくる人だよね」と言われた。絶妙に真意を探りかねて「編集者として未熟ってこと…?」と落ち込んだけれど、そのひとことで「“場を編集する”って、どういうことだろう」と考えはじめ、最近ようやく答えが見つかりつつある。

場を編集するということは、人と人の関係をつくりなおすことだと思う。「出会いなおす」きっかけをつくること

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1階は本屋、2階は「まちライブラリー」。言葉と人が交差する語りの場

1階は本屋、2階は「まちライブラリー」。言葉と人が交差する語りの場

小鳥書房を訪れる人たちは、本を買わない。買わないどころか「悩みごと」を持ってきては置いていく。家庭の悩み、恋愛の悩み、仕事の悩み、人生の悩み、企画やアイデアの悩み…。本屋としてどうなの!とツッこみたくもなるけれど、新たな悩みごとが持ち込まれる瞬間が、店主である私も嫌いではないのだ。というかむしろ、そういう無遠慮な関係性をカウンター越しに築けることに微笑ましさすら感じているのだから、店として儲かるわ

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出版社の「インターン」からはじまる仲間との協創

出版社の「インターン」からはじまる仲間との協創

小鳥書房は、ひとり出版社であり、ひとり本屋。のはずだった。なのに気づけばひとりではなくなっていた。これは自然なことなのか奇跡だったのか、いまもわからずにいる。

客からスタッフへ。カウンターを越える本屋が開店して数日後、印象的なお客さんが店に来てくれた。笑顔が眩しく明るい女性で、「ここが開店するのを、商店街の買いものついでに毎日覗いて心待ちにしていたんです」と声をかけてくれた。うちのお客さんたちは

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3 「スナック萌」から小鳥書房へと引き継いだもの

3 「スナック萌」から小鳥書房へと引き継いだもの

前回まではこちら↓

これまで綴ったように、本と本屋と旅は私の人生に欠かせない。それらがつないでくれたいくつもの縁に気づかされたのは、「誰と生きたいのか」という問いだった。国立市谷保のダイヤ街商店街に本屋を構えたのは、私なりのその答えなのだろう。

「本を売る」という特別な仕事大学卒業後の2010年、私は童話作家を目指して地元の名古屋から上京した。最初に住んだアパートは、西武新宿線の花小金井駅から

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