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詩016 「報いの朝」

鳥が鳴いたら夜が明ける
犬が鳴いたらおったまげる
夢を忘れて目を開ける
カーテン開けて窓開ける
素足で感じるα-GEL
リード繋いで戸を開けりゃ
犬が飼い主引っ張って
朝に向かって飛び出した

ベゴニアが咲いていた
ペチュニアも咲いていた
ポーチュラカも咲いていた
透明な空気を浴びた
青い空を仰いだ
緑の風を嗅いだ
犬は電柱の根元を嗅いだ
おはようございます
わんわん
おはようございます
わんわん
犬のうんちはころころだった
袋に詰めて持って帰った

オクラが実を付けていた
採った
ししとうも実を付けていた
採った
色のないステンドグラスみたいな蝉の羽根を蟻たちが担いでいた
羽根はヨットの帆みたいにまっすぐ立って南に向かって進んで行った
黒揚羽がひらひら舞っていた
犬は黙って待っていた

ごはんが炊けていた
飼い主は味噌汁づくりに長けていた
納豆をかき混ぜた
オクラを輪切りにした
納豆に混ぜた
生卵も混ぜた
ごはんにかけた
そこへ醤油をさして鰹節をかけた
犬が吠えた
ササミほそーめんをやった
オクラ納豆卵鰹節ごはんをわしわし食べた
味噌汁を啜った
ごはんをおかわりした
白菜の漬物をのせた
塩昆布ものせた
梅干ものせた
また犬が吠えた
プッチーヌ国産ささみ入り半なまタイプをやった
白菜塩昆布梅干ごはんをわしわし食べた
味噌汁を啜った
冷たい麦茶を飲んだ
犬はケージに飛び込んで給水ボトルから水を飲んだ

犬を裏庭に出してやった
犬はあちこち嗅いで回った
知ってるくせに嗅いで回った
名も知れぬ草を食んだ
あくびを一発太陽に見舞った
飼い主はそれを真似た
植木に水をやった
蚊には血をやった

部屋に戻って湯を沸かした
ペーパーフィルターをドリッパーにセットした
珈琲豆をがりがり挽いた
香った
粉になった豆をフィルターにおさめて湯を注いだ
香った
注いだ
香った
痒いところにウナコーワを塗った
香った
カップに珈琲を注いだ
天井から吊るしたポトスが黒い水面に映った
犬と目が合った
ごはんはもう終わりだと告げると犬は嬉しそうに尻尾を振った

川沿いのレコード屋で買ったレコードをターンテーブルにのせた
Hanno Giulini "Ananann"
Giulini…?
名前の読み方が分からない
タイトルの意味するところも分からない
分からないままターンテーブルを回した
分からないまま針を落とした
音楽が流れ出した
音楽はなにもない部屋に色をつけた
聴こうとすると色が褪せるので知らんふりをして珈琲を啜った
ところでHanno Giulini氏
彼はたった2枚しかリーダー作を残していないらしい
1987年リリースの本作と
1991年リリースの2作目と
どうして…

鳥の声がした
曲の一部みたいに聴こえた
盤をひっくり返す時が来ていた
犬は寝たふりをしていた
燐寸を擦った
煙草を吸った
珈琲を啜った
今朝の出来事を綴った

私が為した善行はおそらくぜんぶ報われた

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