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生き方下手のオードリー・若林がたどり着いた、好きを大切にする生き方。

お笑いコンビ・オードリーの若林正恭さんのエッセイ集『ナナメの夕暮れ』は、二週間で10万部を超える大ヒット。

若林さんといえば上手にトークを回すテレビ番組内でのキャラクターとは裏腹に、「人見知り」「女性が苦手」ということでも有名でした。

そんな若林さんが、往年のキャラを卒業したと公言。おっさんの趣味だと否定していたゴルフやプロレスに熱中するようになり、若いと揶揄される海外への自分探しの旅に行けるようになった。

そんな変化の過程、そして若林さんならではの「どうしてもポジティブになれない人が楽しく生きる方法」がどの自己啓発本とも違うからこそ、たくさんの人を惹きつけます。

タイトルにある「ナナメ」とは

斜に構えるという言葉がある。「物事に正対しないで、皮肉やからかいなどの態度で臨む」という意味。

つまり若林さんが言うナナメとは、「スターバックスでグランデとか行っちゃって気取ってんじゃねえよ」みたいに、はしゃいでいる人を遠くから眺めて否定する態度のことです。

グランデは極端かもしれないけれど、周りの人が普通に従っている校則にいつまでも納得がいかなかった、周りの人が何も考えずにやっているキラキラしたものに抵抗を感じてしまう。そんな人も、きっと若林さんの仲間なんだと思います。

ナナメから卒業したきっかけ

若林さんがナナメを卒業した一つのきっかけは、「歳をとったこと」だそう。

おじさんと言われる歳になったことで考え方が変わった理由を、インタビューでこのように答えていました。

白髪染めを使ってるオジさんが、インスタでナイトプール女子を見て文句言ってもね。『見なきゃいいじゃん』って話ですから(笑)。もう5、6年も前から、そういう意味での違和感を覚えていて。…つまり、オジさんになると他人から見て『イケてる、イケてない』というのを気にしなくなるんですよね。(オードリー若林がオジサンになって失くしたものとは?)

そしてもう一つのきっかけが、お父さんと先輩芸人・前田健さんの死。

入院中に外出許可が出て、嬉々として本を持ってファミレスに行ったお父さんを見て、好きなことに熱中する生き方を改めて良いと思った。そして、自分が否定してきたナイトプールやパンケーキ巡りなども、誰かの好きなものだからバカにしてはいけないと考え始めたそう。

また、マウンティングで勝ったものはあの世には持っていけないから、前田健さんのような気の合う友達との時間や、好きなことを楽しむ時間を大切にしようと思えるようになったそうです。

斜に構えてしまう人が世界を好きになるには

この本は、世にある自己啓発本とは違います。なぜなら、若林さんは本の中できっぱりと世に溢れる自己啓発本を否定しているからです。

あそこ(自己啓発本)に書いてあるのは、人生の茶帯が黒帯になる方法だ。道着すら持っていないジャージの見学が、黒帯になる方法はどこを探しても書かれていないのだ。

生きかた上手をバカにしているわけではない。もうそんな次元じゃないのだ。むしろ憧れている。…そういう人に比べて、自分は圧倒的に劣っているのだ。 説明書を片手に、何度も失敗しながら少しずつゲームを進めていかなければならない。(ナナメの夕暮れ「あとがき」)

自己啓発本マニアの私に、自己啓発本を真っ向から否定しているこの本が刺さったのは、「みんなが苦しいのはもちろんだけれど、それでも他の人よりも生きるのが下手な人が確かにいるんだよ」と明言してくれたから。

そして、そんな人に普通の本が投げかけるような「ポジティブになる方法」を提案しないからだと思います。むしろ、ポジティブで周りに元気を与えられるような人になるのを諦めて、ネガティブなりに自分の人生を楽しむ方法を教えてくれる。

その方法は、まず「他人への否定的な目線は時間差で自分に帰ってきて、人生の楽しみを奪う」と気がつくこと。そして、他人の楽しみを肯定するために、自分の好きなことを見つけること。

好きなことがあるということは、それだけで朝起きる理由になる。好きという感情は肯定だ。つまり、好きなことがあるということは、世界を肯定していることになる。そしてそれは世界が好きということにもなる。(ナナメの夕暮れ「ナナメの殺し方」)

自分のことを好きにならなくても、物事をポジティブに捉えられるようにならなくてもいい。自分が好きなものを、まず見つける。

なんとなくできそうかもしれない、そう思えたのはきっと私だけじゃないと思います。ぜひ「ナナメの夕暮れ」読んで見てください。


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