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#15 好きが感謝に昇華した話④【告白】

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chapter7 告白



「あなたが好きです」


この言葉を伝えるためにどれほどの勇気がいるのか、その日初めて知った








3/1 am7:00


少しひんやりとした朝だ

いつもは寝ぼけながら目覚ましを連打するところだが、この日だけは目覚ましがなる前にベッドから起き上がった

陽の光がカーテンの端から差し込んでいる

むっくりと起き上がり、大きく背伸びをしたあと、頬をつまむ

(夢じゃない)


洗面台に向かい、まだ少し冷たい水を何度も顔に塗りつける

スッキリした自分の顔を鏡越しに見つめる

決してナルシストではない


寝癖を綺麗に直したあと、鏡に向かって笑ってみせた

(作り笑いくさいな…)

ということで、手で口角を上げた

(うーん、さっきより変だな…)

そんな
普段なら絶対にしないこと

をこなしてから荷物の準備をする

といっても、卒業式でもらう大量の物たちをしまう空っぽのカバンくらいだが

それをもって玄関へ

 
「行ってきます」

期待と不安が入り混じった気持ちで私は扉をあけた

(頑張れ、自分!)

太ももを何度も叩きながら喝を入れる

アパートの階段を降り、自転車を走らせて高校へ  

うっすらとする春の匂いが心地よかった




am8:20


駐輪所に自転車を止めたら、教室に入った。そこには“今日想いを伝える人”もバッチリいた。


なんてオーラだ


それは自分の目についたフィルターによるものだとは思うが、ショートカットで、友達と楽しそうに話す彼女は今の自分には何よりも光って見えた


この人に、このあと告白するのか


とても現実には想像できなかった


大量の配布物そっちのけで考えていると、先生の案内で私達は卒業式の会場へと移動した


強く握った手は、既に汗ばんでいた






本当に、そんなキラキラした人たちがするようなことが自分にできるのだろうか

人を本気で好きになったことすら初めての自分にそんな力はあるのだろうか

変な思い上がりではないか

何もしゃべってないくせに


いやいや、あの男の説得のあとLINEはしましたよ!

文章10回は修正して1時間くらいかけてやっとのことで

卒業式3日前にね

「どうしても趣味のことを話したかったけどタイミングがなくて…」

なんて白々しい嘘をついて

いや、半分ホントか


***


ちなみに、返信はその後やってきて、おすすめスポット教えてくれました

わざわざお母さんに聞いてくれたらしく、とても嬉しかったのを覚えています

その場所を巡ることが、今の自分の楽しみだ


***

それに、どうやって呼び出すんだ

告白するには場所がいる

とてもじゃないけど人がいるところは無理だ

じゃあなんだ、
彼女を急にどこかに呼び出すのか

いや不審者か!!!

じゃあ、「何もしないから!」

ってなんとか連れてくるか?

いやいや、何もしないことはない!

呼び出すときの人目も気になる

「このあと、君に伝えたいことがあるからここに来てくれない?(ウインク)」なんてキザなこと言えるわけがない

そんなん周りにバレバレではないか

ああ恥ずかしい、波風立たせずに生きてきたというのに

それにそれに、気持ちを受け入れてもらえなかったらどうする?
(いやそれが99%やで)←心の中でのツッコミ

その場から逃げるのか?

「た、大変ご迷惑をおかけしましたーー!!」

って言いながら

彼女を置いて

いやそれは失礼か

ありがとう、とお礼を言うべきか

どちらにせよその場の空気が重くなるのは避けられないが


あぁ経験者よ、一体この難問をどうやって解決すればいいんだ!



___いや、解決しようとするから悩むんだ

失敗してもいいじゃないか

死ぬわけでもなし

今一番大事なことはなんだ

後悔しない道を選ぶことだ






気づいたら式は終わっていた

ネガティブなことも考えたが、ポジティブな気持ちを鼓舞することでモチベーションは高まりつつあった

でもなんでだろう?

立ち上がろうとすると、縁が鉄のあの絶妙に冷たいパイプ椅子に座った私の足の先は冷え切り、あんなに朝赤くなるまで叩き続けた太ももは震えが止まらない

武者震いか

そりゃ初めてだもの

叩いてだめならつねってみよう、と私は太ももをつねる

(いだい)

ふふっと少し笑みがこぼれた

楽しいなあ

その年特有の、なんでもできそうな気持ちを何とか奮い立たせ、事前のリサーチなし、作戦なしで未知の壁に正面から突っ込むことにした___


***


世の中には正解のない問題が溢れている

自分の判断は正しかったのか、間違っていたのか

それを決めるのは未来の自分だ



___そう捉えるのなら、あのときの選択は
大正解である



***






12:00


式が終わり、教室に戻ってきたときの様子はもうどんちゃん騒ぎである

卒業アルバムの事故画を見つけては野球部の男子がまくしたてる

パシャパシャとスマホカメラの音が鳴り響く

廊下も人でごったがえしている

最後に、皆思い思いの時間を過ごしているようだ

私の元にも理系の友達がやってきた

写真をせがまれたので撮った

ひどい写りだった


その後、私が所属していた部活で集合写真を撮る話がもちあがった。場所は高校の近くの桜で有名な公園で徒歩5分ほどの距離だった

私はそれを承諾したが、少しだけ待ってて欲しいと言ってみんながいる廊下から教室に戻った


”これから告白する人”


は確かに教室の後ろで友達と談笑していた


少しだけまってて欲しいとはいったものの彼女は話している。あまり部活のメンバーを待たせると怪しまれるし、かといって友達といるときにその間に割って入ったら周りの友達に察されることは確実だ


非常に困った…


いまだに震える太ももを抑えながら途方に暮れていると

「最後の一人一言でみんなを泣かせるとか言いながら結局ふつーのこといったしょうもない背高のっぽ」

がなにやらニヤニヤしながらやってきた


「お前顔青ざめてね?」


唯一事情を知る彼にはこの状況は楽しくてしょうがないのだろう

私は黙った

この喧騒のなか一人だけ別の空間にいるようだ


「___まあ、お前に任せる。頑張れ」


それだけ言い残して彼は別の友達のところへ行った

遠目から楽しむためか

それとも、邪魔をしないように配慮したのか

真意はわからない







1分1分がどんどん自分の体を硬直させていく

どうしよう

その考えに支配される

LINEで時間と場所を言って呼び出せばよかったのに

なんかそれは納得がいかなかったのでしなかった

それを今更後悔する

言い出す勇気なんてないくせに

もう、あきらめようか


部活の写真撮影に向かおうとしたその時だった

彼女は友達から離れ、教室から出ようとしていた


(今しかない!)


これがラストチャンスだ

心の中で
「大丈夫」

そう何度も言い聞かせ、震える手足を引きずった




***





「ねえごめん、このあと時間ってあったりする?」


教室の真ん中で、彼女を引き留める


「え?」


彼女と初めてちゃんと目を合わせた


「急で本当にごめんね、この後時間をもらえないかな」


お互いどんな顔してたんだろう
周囲は気づいていたのだろうか
でも、そんなことどうでもいい

私はもう退けない


「全然いいけど、今から友達と写真撮りに行きたいから、後で場所だけ教えてくれないかな?あ!ラインもってたけそこで伝えて!」


彼女はなんの違和感もなく応じてくれた


「わかった、あとで連絡します!」


***


謎の敬語になりながらも、とりあえずは成功だ

彼女は急ぎ足で廊下に向かい私はやり場のない目線を真下にあった机に向けていた


放心状態だった


でもここからだ
彼女も写真を撮るのなら、自分も部活で写真を撮る公園へ先に行こう


そう決めて教室を出ようとした

遠目に彼が見えた

「やってこい」

そう言っているようにみえた







pm13:30


公園に行く途中に、彼女へメールを送った

”裏門で待っててください”


卒業式が終わってだいぶ時間も経った頃なら、もう裏門に人はいないだろう

そう考えたからだ


今考えたらドラマみたいなことするな!!!と思ってしまうが


公園に着くと、部活の後輩がいた
曲がりなりにも「演劇部」の部長を務めていた私を、皆温かく迎えてくれた

後輩との写真撮影の時間は楽しかった

告白のことを忘れてしまいそうなくらい


でも、行かなきゃ

きりが良くなった時、私は同級生に
「ちょっと外すけど、30分くらいで戻ってくるから」


それはまるで告白した後すぐに戻れることを前提にしたような口ぶりだった


私は急ぎ足で、裏門へと向かう
彼女から、もう着いたよってメールがきている

何待たせてんだ!!!

大通りを渡り、裏門に続く川沿いを走る


成功とか、失敗とかじゃない

自分の気持ちを伝えよう


そう固く誓って私は裏門へ到着した

予想通り、裏門付近に人だかりはない



そこには、朝ショートカットだった髪を後ろで一つに結んでいる女性が静かに立っていた






pm14:00


息を切らしていた私は、目の前に彼女だけがいるというとんでもない状況に倒れてしまいそうだった

その状況を作り出したのは自分だというのに

でも腹を括ったはずだ

ゆっくりと、平静を装って歩み寄る


「ごめん、めっちゃ待たせてしまって…」


「ううん、全然!」
と彼女は言う

心なしか、彼女の声は震えている

「ごめんね急に、喋ったこともないのに」

(こら、回り道するな、早くいうんだ)
私の心が叫ぶ
でもそれは声帯には届かない


「あー確かにそうじゃね、話す機会がなかったもんね」


彼女は受け止めてくれる

「そうなの!ずっと話したいと思ってて!!」

そうだ、私は元は彼女と旅行の話がしたかっただけなのだ

でも今はその話をする時間ではない


なぜだか次の言葉が出てこない

2人の間に沈黙が流れる

気まずい


ただ、好きっていうだけなのに
どうしてこんなにも怖気づいてしまうのか




***


「ねえ」


先に沈黙を破ったのは私の方だった

頬と耳を真っ赤にして
ズボンの裾を握りしめて
中枢の命令に従ってくれない喉をつねって

声を振り絞って


「こんなに一言もしゃべったことない人から言われるのは嫌かもしれないけど」



「あなたが好きなんです」



彼女の目を真っすぐ見据えて言った
景色がなくなった
ゾーンに入った



初めて、彼女を真正面から見つめた

私のオドオドした声を、きょとんとした目で聞いていた彼女は

シチュエーションフィルターがかかっていたとしても




すごく、すごく綺麗だった



***




「気持ちはとても嬉しいんだけど、私、好きな人がいるの。だから、その気持ちを受け取ることはできません」


深々と頭を下げた彼女を私は見守るしかできなかった

ゾーンの効果も切れてきた

私は足早に
「ありがとう」

とだけ言って立ち去ろうとしたが
彼女は

「ねえ、○○君が書いてた日誌の旅行の話、めっちゃ感動したよ!だから、旅行の話するために、ラインは続けよ!」


嬉しくて嬉しくて泣きそうだったが、

「本当にありがとう」

とだけ言ってその場を去った

後ろは振り返らなかった







pm14:30


「LINEは続けよう」

その言葉を今では、私を傷つけないためのアフターフォローのつもりであったと認識している


あの日の私はただただ嬉しかったが

でもそれでいい

気持ちを伝えられた自分は本当にえらい


そしてこの告白によって獲得したLINEという関係性が、この先の自分を大きく助け、人生を変えてしまうくらいのものであることを、この時放心状態だった自分は気づかなかった


この時を境に、歯車は大きく動き出す



程なくして、私の浪人が確定した



第1部「高3期」 完


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