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大切なものを手放して発見した、大切な存在。

2023年10月15日。
天候は快晴、気温20度。西の風5[m/s]の風が吹き荒れるなか、決戦の時が訪れた。
出走者1名。秋晴れと呼ぶのにふさわしい天候のなか、新たな自分に "出会うため" のレースが今、幕を開ける。

他人から見れば、ひとりで20㎞走るだけのこと。ですが僕にとっては、20㎞走る "だけ" のことではありません。
とっても、特別な想いがそこにはあります。
詳細は下記記事をご覧ください...。

スタート予定時刻は午前9時。
時計の秒針が、1秒、また1秒と、スタート時刻に近づいていきます。

午前8時59分30秒...40秒...50秒...。
少しづつ、着実に進む時計の秒針。
ここまで来たら逃げ場はどこにもない。
「やってやるぞ!」
そんな高揚感とは裏腹に、「大丈夫だろうか…」という不安も胸に押寄せる。

51秒...52秒...53秒...。

刻々と過ぎ行く時間。その針は、無情にもスタート時刻に近づいていく。
どんな感情が渦巻いていたとしても、時計の針を止めることはできない。どんなに憂鬱でも、必ずその時はやってくる。

54秒...55秒...56秒...。

思えばいつもそうだった。スタート前は常に不安でたまらなかった。
己の身体ひとつで限界に挑むチャレンジは、常に不安で、孤独なものだった。「時が止まればいいのにな~…」。これまで、何十回、何百回、下手すれば何千回と抱いてきた感情が胸中を支配する。

57秒、58秒、59秒.........。
スタート直前、つい数秒前までは不安で支配されていた心に、一筋の光が灯る。

「大丈夫、絶対できる」

何の根拠もない、その一言。
不安なとき、逃げ出したいとき、そんな時はいつもこの一言を自分自身に言い聞かせていました。今回も同じ。
絶対大丈夫。自分にならできる。
そう心に言い聞かせたとき、スタート時刻が訪れました。

午前9時00分00秒。
自分探しの旅、「魂の20km走」スタート。

長〜い1時間20分の幕開けです。

マラソン然り、ハーフマラソン然り、大切なことは同じ。「自分の身体と対話」することだ。
そのときのペースとコース、風の状況や気温を考慮して、最良のペースを刻む。
これが最も大切なこと。

頼りになるのは、己の感覚と腕時計が示す僅かなデータだけ。想像以上に孤独で、不安な闘いだ。
今回は自分の体力と風の状況から、初めの5キロはゆっくり入ることに決めた。勝負は後半、ラスト3キロからが勝負どころと判断した。
1キロあたり4分20秒付近で淡々と刻んでいく。この辺りのペース帯は、練習でも経験していたので、一年のブランクがあっても余裕を感じるペース。

いける!

5キロ通過:21分49秒 心拍数155
(5キロ平均:4分22秒/km)

まだまだ余裕。
マラソン(42km)を完走できそうなペース。
向かい風にも負けていないので、ここで10秒ほどペースを上げることに。

自分と向き合うためには、もう少し極限状態に近づく必要がある。苦しみを耐え抜く過程で、自分の弱さと向き合うときが訪れる。

ペースを上げると、徐々に苦しさが押し寄せてくる。

10キロ通過:42分38秒 心拍数165
(5→10キロ:20分49秒)
(5キロ平均:4分10秒/km)

狙い通りのペースまで上げることはできた。
しかし、まだまだ物足りない...。
苦しいけど、耐えれる苦しさ。
そんなペースラインだ。もう少し追い込みたい。身体が悲鳴を上げるくらい、追い込んで、自分と向き合いたい。

この辺りから気温が少しずつ上昇し始める。
向かい風も強くなりつつあるが、ここでもう一段階ギアをあげる。

15キロ通過:1時間02分36秒 心拍数170
(10→15キロ:19分58秒)
(5キロ平均:4分00秒/km)

流石に苦しい...。強烈な向かい風に加え、この間に押寄せるダラダラと続く上り坂が、体を蝕んでいく。

苦しい。やめたい。もう頑張ったじゃん。
あとはこれをキープすれば十分じゃない?

自分の弱い部分が顔を覗かせる。

まだだ。まだ、本当の限界なんかじゃない。
ここで負けたらきっと後悔する。
心のなかで自分を鼓舞し、奮い立たせる。
新しい自分に出会うためには、この局面は絶対に乗り越えないといけない。
だから、ペースを維持するだけではダメだ。
もう一段階上げないと、新しい景色は絶対に見えてこない。

ここであげなきゃ、なんのために始めたレースかわからない。いこう。

決心が固まった。

やるしかない。

固い気持ちとは裏腹に、身体は限界寸前。
秋を感じさせないまでに上昇した気温、吹き付ける強風、体を蝕む上り坂。

ここまで蓄積されてきた疲労が、ピークを迎える。

18キロ通過:1時間14分34秒 心拍数175
(15→18キロ:11分58秒)
(3キロ平均:4分00秒/km)

風や気温、加えて襲う蓄積疲労。様々な要因が重なり、ペースが上がらない。
心拍は以上なレベルまで上昇。
余裕なんてものは、もはやない。

きつい、辛い、歩きたい...。
弱い自分と向き合う時間がついにやってきた。
ここからラスト2キロ、自分の弱い心と向き合い、限界に挑戦するときがやってきた。

とにかく、あげるしかない。ほかに選択肢なんてものは、存在しない。

18→19キロ:3分51秒

わずかだが、ペースアップに成功。
苦しさは最高潮に達する。
でも、まだだ。まだまだ足りない。
もう一段階だ!

身体はとうに限界を迎えている。脚は乳酸でぱんぱんだし、酸素を貪る肺も、本来の役割を十分に果たせてはいない。

身体は危険信号を発しているのに、心はGOサインを放っている。なんとも不思議な感覚だ。

これだよ、この感じ。

これを超えるために、今日、僕は走ってきた!
ラスト1キロ、意地でも上げてみせる。
たとえこの身体がバラバラになろうとも...。

19→20キロ:3分40秒

ペースは上がった。心拍数は、この日最高値の184を記録した。死力を尽くしたゴールイン。
苦しくて、早くやめたかったはずなのに、心のどこかで「もう終わっちゃうんだな」と焦燥感に駆られる自分もいる。

記録:1時間22分47秒(20.19km)

以前と比較すると、決して早いタイムとは言えない。12分近く遅いタイムだ。
だけど、以前よりもゴール後の心は晴れやかな感じがする。

僕は、この達成感が楽しくて、走るのが大好きになった。思えば、魅力に取り憑かれたのは中学時代の部活だった。
追い込んで追い込んで、限界を極めた先に待ち受ける達成感。これがたまらなくて、気づけば10年近く走り続けてきた。

紆余曲折、様々な葛藤を経て、そんな原点に立ち返ることができました。

すっごくやり切った気がする!
でも、まだまだこんなもんじゃない。
きっと僕はこの先も走り続けるんだと思う。
向き合い方は変わってしまうかもしれないけど、自分からは切っても切り離せない存在だと心から思う。

僕の溢れんばかりの高揚感を伝えていたら、随分と長い文になっていますが、これらの経験から伝えたいことはシンプルです。

『一度だけ、大切なものから距離をとってみませんか?』です。

それに捉われたり、盲目的になって、もっと近くにあるはずの「大切なこと」を見逃しているかもしれません。
距離を取ることで、少し見えてくるものが変わって、それに気づけるかもしれません。
悩んでいる人は、一時的にそういうことをしてみるのもいいんじゃないかなと、個人的には思いました。

遠回りに感じるようで、それが実は大切なことに気づくための近道なんじゃないかなと思います。

僕も、今回の経験で見つけた大切なもの、忘れないように、見失わないようにしながら、大好きなものと向き合っていこうと思います。

紆余曲折あったけど、この一年、人間としては成長できたんじゃないかなと思います。

気づかせてくれて、ありがとう。

(2023年10月21日現在 見つけたこと)
大切なもの:人とのつながり
大好きなもの:ランニング

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