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僕は自由な世界で、囚われの身になった。

 雨が降る日だった。ヒッチハイクをしようと思っていたが、雨に濡れるのが嫌でバスを待った。約2時間半でケアンズに到着する。旅が始まった。海外の旅は久しぶりで、ひとり旅となると初めてだった。少しの不安と大きな期待を抱えてバスに乗り込んだ。

 10日をかけてケアンズからブリスベンに帰る予定だった。飛行機だと2時間ちょっとの距離も、バスでの直行便だと30時間を超える。少し躊躇しなかったわけではないが、気付くとバスのチケットセンターにいた。せっかくなら色々な都市に寄りたいと思い、自由がきくチケットを探していた。バスセンターのお姉さんは観光客慣れしているのか、英語がとても聞き取りやすかったのを覚えている。と同時にネイティブに囲まれたファーム生活で英語力が上がったのかなと、これからの旅への自信も出てきた。

 バスのチケットを早々に手に入れ、ケアンズで3泊を過ごし、次の街へ向かった。イニスフェイルでファーム生活をしていた時によく聞いていた街、タウンズビルだ。ノースクイーンズランドの中では大きめの都市だが、日本人はいないローカルな街。カウチサーフィンを使って、オージーホストの家に滞在させてもらった。キャンプに連れて行ってもらい、翌日にはオススメの街散策を教えてもらった。

刺すような日差しに反射する海が本当に綺麗だった。3ヶ月の辛いファーム生活の全てが認められたような気がした。僕は海沿いをずっと歩いた。オーストラリアと言えば海。という単純な発想だけで5キロの海岸線を歩いた。

カメラ片手に旅をする面白さの中に帰ってきた気がした。いつもこの面白さが欲しくて、非日常に身を置きたくて、無我夢中でファインダーを覗いている。旅では特に何かをするわけではない。街を見て、歩いて、カメラに収めるだけだ。ただ、それだけの日々が好きがたまらなく好きなだ。

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僕が一眼レフを始めて使ったのは、高校2年生の時に行った沖縄だった。修学旅行で初めてみた、あの綺麗な海は忘れられない。そして、その海に夢中になった。いや、正確には海の綺麗さを残してくれるカメラに夢中になっていた。親父に借りたカメラで何百枚と撮った。今思うと、僕のカメラの原点はこの沖縄だと思う。

その修学旅行から4年後、僕は社会人になった。初任給でカメラを買おうか、親へのプレゼントを買おうか迷った結果、親へのプレゼントを買った。それから、カメラのために貯金をして、その年の12月、初めて自分のカメラを手に入れた。18歳で上京する時、親父がSONYのコンパクトデジカメ『HX5V』を買ってくれたが、自分の稼いだお金で買ったカメラは本当に愛着がわいた。オーストラリアにきて1年目までこのカメラを使っていたので、6年間使っていた事になる。この記事で載せている写真も、SONYの一眼レフ『α65』で撮影した写真だ。

『α65』は僕を新しい世界に連れていってくれた。今までの全ての景色を置き去りにして、カメラに夢中になった。『#ファインダー越しの私の世界』というハッシュタグを僕はよく使う。その世界だけは、誰のものでもない、僕だけの世界だと感じているからだ。誰にも邪魔されない、完全なる自由な世界。ファインダーは、僕を現実世界から切り取ってくれる扉になったのだ。

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タウンズビルをあとにした僕はエアリービーチへと向かい、そして旅の最終立ち寄り地であるヌーサに到着した。10日で終わる旅の予定が、この時点で10日を経過していた。自分でも思った以上に『ファインダー越しの世界の虜』になっていたらしい。このヌーサで、オーストラリア生活1番の美しさを目にすることになる。

ヌーサでも例のごとく、何かをするわけではなかった。ビーチで昼寝をして、ヌーサ国立公園で野生のコアラを探す。残念ながらコアラは見つからなかったが、オーストラリアらしい、ヌーサらしい景色と出会えた。

コアラ探しを諦め、陽が落ちてきたビーチへ向かう。ここで #今年のベストショット を撮影することとなる。

夕焼けはよく撮影していた。海がない僕の地元の、山と山の間に静かに日が沈んでいくあの光景が好きなのだ。海での夕焼けは数えるほどしか、見た事が無かったが、間違いなく生涯で一番美しい夕焼けだったと言える。

そして僕はまたファインダーという扉を開けた。ヌーサのメインビーチで吸い込まれるようにカメラを構えて、一心不乱にシャッターを切った。一分一秒ごとに変わるファインダーの中の魔法の世界から帰ってこれなかった。何回シャッターを切ったか分からない。気がついたら日は沈み、辺りは真っ暗だった。

夢を見ているようだった。

美しかった。

僕はまたファインダー越しの自由な世界の囚われの身になった。

こーた

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