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『あなたの体は9割が細菌』読書感想文

 今年に入って読み終えた本、六冊目。超スローペース。

……さて、どこから手をつけていこうか。とにかく内容が濃すぎて、「すごかった」しか言えない状態なんだけど、備忘録アンド記憶への定着の意味合いで、ここに書き記しておくために重い腰を上げたところ。いざ、参る。

本題

 ただ、すごく興味深く、気になるのは、本書がアメリカで書籍化され、そこから日本で出版されたのが「コロナ前」の2016年なのだ。
 本書には、家畜を太らせるため・予防接種のための抗生剤の過剰投与にも懸念を示しているし、99.9%のウイルス除去を謳う抗菌製品にも、その喧伝する利益より、リスクのほうが勝っていることを科学的な情報を提示しつつ、抗菌剤使用による「耐性菌」への危惧が書かれている。

※「耐性菌」というのは、抗生物質、抗生剤を使うことにより誕生する、進化を遂げた細菌のことだ。つまり、それまでの「抗生剤」に耐性を得てしまった細菌が登場することで、従来の抗生剤が効かなくなるがために、耐性菌を殺すための新たな「抗生剤」の開発がされ……という、イタチごっこ状態に陥ってしまうわけだ。それに耐性菌が登場しても、すぐにそれを殺せるだけの抗生剤が開発できるわけではないので、下手をすれば、手の施しようのない細菌の登場により、感染症が拡がる、ということもありえるわけだ。コロナ禍を経験している我々であれば、それがなにを意味するかは想像に難くないだろう。

 コロナ禍以降、「除菌」を謳った製品はそこらじゅうで目にするようになったが、その害の部分についてはあまり話題になることはない。この数年間で、世界中で(少なくとも先進国で)生産、使用された除菌グッズは相当な数になるだろう。これが今後の社会になにか悪い影響をもたらさないか、ということも不安だ。

人間の部分は10%?

 細菌の話(とコロナウイルスにまつわる話)だけでここまで来てしまったが、この本の肝となるのは、「人間の遺伝子」ではなく、人間の「腸内に住む、細菌・微生物の遺伝子」=「マイクロバイオーム」についてである。

 超端的に要点を要約すると、これまで人間の消化・吸収活動は、小腸、大腸など、それらの臓器で行われ、完結しているものと考えられていた。
 だが、最新の研究でわかったことは、そうした消化活動を行っている「人間」の部分は、ごく一部に過ぎず、人間を構成する細胞の10%はヒトゲノムだが、残りの90%は、マイクロバイオーム(細菌・微生物群)が担っているのだという。(本書の原題は「10% human」)
 つまり、消化・吸収活動(だけじゃないけど、免疫系の働きなど多岐にわたる)は、人間の腸内に住む微生物群に「アウトソーシング」する形で行われ、人間は人間として生きている。この「アウトソーシング」先がなければ、人間は生きられない。明日あなたのマイクロバイオータが全滅してしまえば、病に倒れ、死に至る。つまり人間は、微生物群と「共存・共生」してはじめて、「人間」となるのだ。

21世紀病の正体

 21世紀病といわれるアレルギー・自己免疫疾患・消化器疾患・肥満・鬱や自閉症、ADHD等々。先進国やグローバル化を進める国が必ずたどる新しい病気や急増するアレルギーの数々。死因に目を移せば、「心臓病・癌・脳卒中」が上位を占める。これは先進国特有のものだそうだ。
 ではなぜ、こうした21世紀病が蔓延してしまったのか。それは、人類が元来「共生」してきた「微生物」を、必要以上に殺してきた結果なのではないか、先進諸国に住む人々の食事の傾向が昔とは変わってしまったせいなのではないか、ということが、本書では科学の最前線から見えてきたこととして、非常にアカデミックに、かつユーモラスに語られている。

本書のいいところ

 まず、私はどうしてもネガティブな方面から物事を捉え、思弁を語る癖があるから断っておきたいのだが、本書は負の側面だけでなく、正の側面からもきちんとバランスよく、読者が偏った知識に陥ってしまわないための繊細な配慮がなされている。

そして、ではどうすればこうした21世紀病を防ぐことができるのか、なにか日頃からできることはあるのか、ということについても、非常にシンプルかつシンプルだからこそ、意識的にならなければ見落としてしまう方法について語られている。私も長年IBSに悩まされている人間であるから、これを機に、食事には気をつけたいと思う。なにかしら改善傾向にあれば、報告したい。

 ……しかし、もっとも気になるのは、このコロナ禍を経て、ワクチン然り、コロナウイルスのことについて、筆者は一体、どのような見解を持っているのだろうか。


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