マガジンのカバー画像

小説

16
小説作品。
運営しているクリエイター

#小説

【小説】月へと続く道

 調弦したG線の上に弓を乗せ、ゆったりと滑らせる。  弦の振動が艶やかな木の空洞で花開き、…

【小説】霊障

 ちょっとした冗談のつもりだった。  学生時代からの友人の美奈と飲みに行った帰り道。一緒…

【小説】恋の病

 恋煩い、という言葉が浮かんだ。  恋というもの、それ自体が病気なのだ。  恋に罹患した者…

【小説】孝行者

 磨き上げられた上品な木目の上で、金の天秤が鈍い光を返す。  蒼い血管の浮いた手が白銅の…

 檻にいる。  僕は熊だから。  凶暴で、残忍な。  君を傷付けた、怪物だから。  檻の中…

死角

 見られている。  視線を感じる。歯磨きしていても、授業中のノートに落書きしていても、眠…

【小説】案山子 最終話

▼前の話 ▼第1話  ホウコはずっと書写をしていた。月が出てからも机に覆いかぶさるようにして続けた。  皆が寝静まり、小鳥の攻撃が止んだ夜明け前の静かな時、足を引きずり、身体を揺らしながらホウコはぼくのところにやって来た。 「オオアカさん、いますか?」  巣のところに声を掛けると、オオアカさんが細長い鼻を出す。 「オオアカさん、どうかわたくしを齧ってください。愛の花の根を傷付けないように、わたくしの肉を裂いて蔓を外してください。わたくしには愛の花のゆりかごとなる資

【小説】案山子 第6話

▼前の話 ▼第1話  日が昇って報告を受けた天使達は機嫌を損ねていた。 「神聖なる神の花…

【小説】案山子 第5話

▼前の話 ▼第1話 「今日も疲れたな」  案山子をするぼくの足元で老人が言う。 「読めな…

【小説】案山子 第4話

▼前の話 ▼第1話 「なあ、本当にこんなとこにいんのかよ」 「いるって。入ってくの見たも…

【小説】案山子 第3話

▼前の話 ▼第1話  日暮れ間近は水遣りの時間だ。  昼間の太陽で温まった水を、天井付近…

【小説】知ってるよ

 うちの子、手がかかって仕方ないの。  うちもよ。懐かないし、どこかおかしいんじゃないか…

【小説】案山子 第2話

▼前の話  祈りの声で目が覚めた。  重なり絡み合う数十の声。老人は低く、男は太く、女は…

【小説】案山子 第1話

 真っ暗な空に小鳥が飛んでいる。  一羽や二羽ではない。何十羽もの白い小鳥が蛾のように、水晶板の天井に群がっている。  小鳥達はわずかに曇った透明な板を小さな嘴で叩く。氷の礫が降っているようなコツコツという音が温室に響く。満月の光を遮っていた小鳥に、ぼくは両手に一枚ずつ持った円形の鏡の片方を向ける。小鳥は鏡に映った自分自身の姿に驚いて、水晶に翼を打ち付ける。発光する鱗粉のような軌跡を残して小鳥は去っていく。そしてまた別の小鳥が現れる。その繰り返し。 「今夜は鳥が多いなぁ