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【小説】案山子 第3話

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 日暮れ間近は水遣りの時間だ。

 昼間の太陽で温まった水を、天井付近に浮いた天使達が大きなじょうろで住人達の頭上に撒く。皆は思い思いに濡れた身体を擦り、蔓に絡んだ長い髪を洗う。大部分の水は背中の植物に当たり、跳ね返り、硬くなった背中を伝う。

 ぼくも皆に混じって生温い湯を浴びた。ホウコの弟よりも少し年かさの子供が口を開けてこちらを凝視している。その視線は子供の親によってすぐに遮られた。

 柄の先に幅広のゴムの付いたワイパーで床の水を切ると、皆は一日の最後の光が当たる場所に腹這いになって身体を温めた。僕はまたいつもの隅に戻り、健康に茂った葉があかい光にきらめくのを眺めた。

 天使が皆の間を回り、満開になった花を収穫した。ホウコの花は残された。

 収穫された花を持って天使は天井まで上り、水晶板を押し上げて外に出た。

 愛の花は神に捧げることになっている。しかし、宙に浮かんだ天使達は薄い花弁を口に含み、貪る。皆のいる温室の中心からは見えない。僕だけが知っている。

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