豆宮 虚雨(こさめ)

詩の練習中。綺麗なものが好き。動物とゲームが好き。

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最近の記事

川の中の木

川の流れに立つ木には いろんなものが引っかかる 折れた枝、枯れた草、スナック菓子の空袋 木の片方に絡んで溜まる 木は気圧されて傾いている それは負けずに立っているから 根元のほうは倒されても 枝は空を目指しているから 萌え出た若芽は優しい色で

    • 耳のない春

      瓦礫の街に注ぐ、うららかで快活な朝日 砲弾の破片を包む、干したての毛布のような若葉 血を吸った土の上で光の粒を纏う花びら 人の悲鳴のその震えを受け取る鼓膜を春は持たない どうしたって春

      • 訓練士

        悪い訓練士は 怒鳴り、叩き、 恐怖で犬を従える 良い訓練士は 寄り添い、褒め、 犬は自ら励み出す 節操なく暴れ回る自分の心も 自ら良い訓練士となって 明るく清く育ててやりたい

        • ひび

          塀のひび割れから小さな緑が噴き出ている 割れ目に沿って一列に ささやかな花を咲かせている 心のひびにもいつか埃や砂粒が溜まり 根付いた何かが咲くだろう 痛々しくも逞しく

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        • 小説
          16本
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          13本
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        記事

          高級住宅街

          菜の花咲く川に舞い降りる白鷺 狭くてもごみごみしていない道 足元で微笑む桔梗 手入れの行き届いた家並み 整えられた庭からあふれ出た梢 風に舞う花弁 「育ちの良い」人たち 悲しみも怒りも上品な笑みで覆って 街は今日も美しく在る

          嫌いと憎い

          うわってなって 遠ざけておきたいのが 「嫌い」 近寄っていって ぶん殴ってやりたいのが 「憎い」 嫌いは相性 憎しみは羨望

          異物の居場所

          馴染まなくていい 異物のまま ただ正直に、誠実に そしたらあなたの足元に あなたがぴったり座れるだけの 窪みができるはずだから

          茹で蛙

          一緒にいると楽な関係 それは本当に「楽」ですか? 慣れてるだけではないですか? あなたが愛しているように あなたを愛してくれていますか?

          モテ期

          「会えて嬉しい、また来てね」 ああ、ありがとう こんな僕にも会いたいなんて 言ってもらえて嬉しいよ それじゃばいばい、また来るね 「もう行っちゃうの? 寂しいな」 ごめんね、行かなきゃいけなくて 会わなきゃいけない人がいる その子も寂しがっているんだ ごめんねごめんね、また来るね 「久しぶりだね、どうしたの?」 そうだったっけ、悪いことをしたね 一生懸命、来たんだけれど あの子もその子も僕を待ってる 君にとって、僕は一番 僕も君を一番にしてあげたいけど無理なんだ 足りない

          楽しいときは一緒に笑い 悲しいときは共に泣く それは素敵なことでしょう あなたが嬉しそうなとき わたしはにこにこ聞いている 心は冷たく塞いでいても あなたの機嫌が悪いとき わたしは隅で陰気に黙る 弾む心を押さえつけても わたしが泣くと あなたは怒る わたしのほうが大変なの、と わたしが笑うと あなたは皮肉 遊んでばかり、良いご身分ね、と 見返りなんて求めてはいけない 奉仕こそが愛なのだと そんな風に思ってみても 私の心は 殺されていくでしょう

          春眠

          愛らしい寝息につられ目を閉じる幸福

          非力

          死にたいなんて言われても どうしていいかわからない 無責任な希望を与え あなたの神になることなんて 僕にはできやしないのだから 眉をひそめて首傾げ そうなんだねって 言うしかないよ

          徒歩12分の距離

          徒歩12分なんて誰が決めたの 彼の脚では10分、 彼女なら30分、 あの人にとっては永遠の距離なのに

          【小説】月へと続く道

           調弦したG線の上に弓を乗せ、ゆったりと滑らせる。  弦の振動が艶やかな木の空洞で花開き、人の声にも似た豊かな響きを生む。  奏でるのは穏やかなエチュード。愁いを帯びたバイオリンの声が、パーゴラを覆う白い花弁を優しく震わせる。 「またここにいたのね」  花のような白いワンピースの君が現れ、僕は弓を宙に泳がせる。 「お茶の時間にしましょう」  スカートを翻す君の上、薄蒼く霞む空に、細い細い三日月。  ガラスのティーポットを満たす、萌黄色のハーブティー。  白く曇った氷砂糖のよ

          【小説】月へと続く道

          【小説】霊障

           ちょっとした冗談のつもりだった。  学生時代からの友人の美奈と飲みに行った帰り道。一緒にもう一軒と誘ってくる若い男の二人組があまりにしつこかったから。  悪い霊が憑いてますよ。  夜道に気を付けてくださいね、なんて。  真顔で忠告してやったら、男は青い顔で引き下がったけれど。  霊なんて、男達を追い払うためのはったりで。  だから、私と美奈が離れた直後の交差点で、慣れない雪にスリップした乗用車にその男がはねられたのも、不運な偶然に過ぎないはずだった。 「沙利ちゃん、霊感あ

          【小説】恋の病

           恋煩い、という言葉が浮かんだ。  恋というもの、それ自体が病気なのだ。  恋に罹患した者の目をくらませ、思考を奪い、不条理な行動を取らせる。  これが病でなくて何なのか。  同級生の女は頬を赤らめて僕の魅力とやらを語っている。  クールで、優しい。稀に見せる笑顔が可愛いと。  誰のことだ?  女が顔を上げる。音楽室の分厚いカーテンの隙間から黄金色の夕日が侵入し、悩ましげな額を照らす。  期待に潤む瞳。気持ちを伝えたいだけ、それ以上は望まないと言っておきながら。  病が嘘