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檻にいる。
僕は熊だから。
凶暴で、残忍な。
君を傷付けた、怪物だから。
檻の中をぐるぐる回る。
回遊魚みたいに。
止まったら窒息するみたいに。
回れば回るほど苦しくなる。
苦しいからもっともっと回る。
速く早く、もう待っていられない。
どうか処刑を。
金切声が聞こえる。
いたい。ひどい。
僕を責める声。
僕は悪い熊。
罰せられて当然の熊。
顔を上げれば恐怖を与え、息を吐けば吐き気を催す。
いるだけで害悪の熊。
僕はもういい、いなくなろう。
そうしたら君は満足だろうか。
あの子は幸せになれるだろうか。
君の大好きなあの子。
いつも痣だらけのあの子。
君はあの子と遊んであげたね。
あの子を玩具にして遊んでいたね。
あの子はいつも笑っていたね。
君に合わせて笑っていたね。
君は知らないだろうけど。
あの子は一人で泣いていたよ。
たすけてって、聞こえたんだ。
砂漠に落ちた一滴の雫が、
干乾びるときの悲鳴みたいに。
玩具を取り上げられた君は、子供みたいに怒ったね。
僕のせいで傷付いたよね。
君が悪者にされたから。
楽しい時間を邪魔されたから。
あの子は怯えて立ち尽くしていた。
希望と諦めを天秤にかけて。
僕は熊。
熊の剛力も人の策謀には勝てない。
君たちはたくさん、僕は一人。
僕の声は届かない。
あの子にすらも届かない。
鉄格子の隙間から見上げる曇天。
ガラスに映る青白い顔は今日も泣いている。
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