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「神秘体験の弊害」のnote記事に関して

前回のnote

関連note:神秘体験の弊害(瞑想する人note)


ヴァジュラバイラヴァ
引用元:Pinterest

チベット仏教では文殊菩薩の化身とされるヴァジュラバイラヴァ

ヴァジュラ(金剛)=壊れることのないホトケの智慧。密教も意味する。
もともとは『リグ・ヴェーダ』の中心的な神インドラの雷電・武器をさすようです。

バイラヴァ=シヴァ神の恐るべき側面(マハー・バイラヴァ)、威力、威徳。
ちなみにシヴァ神の吉祥なる側面の呼び名の一つはシャンカラ。


「神秘体験の弊害」のnoteの概要と「教訓」

 「霊性」や「意識」の探求といった目的を持つ人であれ、明確な目的を持たない人であれ、意識変容・神秘体験をともなうような特殊なヨガや瞑想、密教、生命エネルギーの実践、神経科学的な方法、それに、サイケデリクスなどへの関心を示す人が増えているように感じられます。

人類には自らの意識の内に向かおうとする衝動があるのかもしれません

このような中にあって神秘体験の弊害にも目を向けるのは、価値あることだと思います。


 私の考えでは、現時点では、この神秘体験の弊害に関して指摘しておきたいのは、「グノーシス(グノーシス主義)」の傾向、要素であり、特に「反宇宙的二元論です。


 前回のnoteでは、オウム教団がこのグノーシスを地で行ってしまったという意見を述べました。

意識変容や神秘体験に関心のある人、密教、生命エネルギーの実践に関心のある人は、オウムという凄惨な事例を振り返り、教訓を得るようにした方がいいと思っています。

“ ……
修行経験によっては教義の検証ができるはずがないことを 二度と私と同じ誤ちが起きないように
アーレフの信徒やこれに類似した修行によって人生の問題の解決を試みようとする人に伝えたいと思います
……”
    広瀬健一『被害者への謝罪文 平成十六年三月』 より

『悔悟 オウム真理教元信徒・広瀬健一の手記』 広瀬 健一 著 高村 薫 監修 朝日新聞出版編 2019


オウムについては、次のnoteで書籍『悔悟 オウム真理教元信徒・広瀬健一の手記』を参考・引用文献としてさらに補足します。


 以下は、神秘体験に関係の深いものについて、今日でも特に目立つものの紹介です。


・オウム教団

 オウム教団は数多くあるカルト宗教の一つであったという認識は正しいと思います。
極端な、凄惨な事件を起こした教団ですが、カルトというのは昔から数多く存在し、一般的な認識では、その一つであると知られています。

 一般的な認識だとそうなのですが、このオウムが、密教・生命エネルギーの実践があり神秘体験を重視する団体であったという認識については、宗教や精神世界、瞑想、ヨガ、スピリチュアルの人たちにおいても、いまだに欠けていることがあるようです。

またオウムで実践されていた方法や神秘体験も、もっぱら断食や断眠、強いストレスや暗示、幻覚剤によるものという認識がなされることもあるようです。


 適切な認識としては、オウムには密教、生命エネルギーの実践があり、その神秘体験も、仏教やヨガの密教的実践の伝統で語られてきたものだったというものです。
 このことは否定しようがないと思われます。

これについては理解されがたいことなのかもしれません。

“ …… ある検察官(以下、A検事と記します)は、私に心証を明かしました。信徒にとって教義は現実であり、その教義に従って事件を起こした。その点でオウムの事件は、ほかの犯罪組織のものとは違う。また、信徒にとって教義が現実となった原因は、瞑想体験ではないかとも。
 A検事は、それが理解できるまでに二年間かかったと述べていました。数百時間にわたり、多くの元信徒被告人を取り調べて初めてわかったと。”

『悔悟 オウム真理教元信徒・広瀬健一の手記』 広瀬 健一 著 高村 薫 監修 朝日新聞出版編 2019 p.83


 スピ・精神世界の界隈では「私はあるとき突然、ワンネスの一瞥体験をして覚醒しました」とか「仙道の小周天のために武息という呼吸法をやってます。眉間のツボで温養すると不思議な光が見えます」とかで騒ぐ人がいます。

しかしオウムでは、修行体系で一定以上の評価を受けた人たちの体験は、そんなレベルではなかったようです。

この「バルドーのヨガ」(3:37~)なんて、明らかにチベット密教の修行の中でも深甚なものとされる究竟次第の伝統にある実践です。


ちなみにこのバルドのヨガについて、チベット密教の簡単な解説本には以下のような説明があります。

 生命エネルギーが中央気道に流入して心臓のチャクラに集まる。
それによって心臓のチャクラにあるティクレ(心滴)が融解し、内奥の意識が解放される。
 するとバルドの体験が生じる。


関連note:オウム「タントラ ヴァジラヤーナの救済」


・生命エネルギーの実践(ヨガ、密教)

 クンダリーニなどの生命エネルギーを重視する密教的なヨガなどの実践は以前から欧米にも伝わっています。
YouTubeでも「kundalini」で検索すると、奇妙なものも含めていろんなのがあります(ネオタントラの影響を受けた取るに足らないものもあると思われます)。

参考記事:会社を辞めて、こうなった。【第54話】 人生初!クンダリニー瞑想で変性意識の世界を垣間見る。


 生命エネルギーの実践では、理論や思想的な面も含めて体系的にも整っているのはチベット密教の特に「究竟次第」に分類されるものなのではないでしょうか。

亡命したチベット仏教僧によって、マニアックな密教の実践が欧米にも紹介されるようになって久しいです。

ニンマ派のゾクチェンやカギュー派の修行に連なる瞑想リトリートに参加する欧米人も増えているようです。


チベット仏教の明晰夢を用いた修行などもあるようです。
この明晰夢についてはいろんな見解がありますが、やり過ぎると神秘体験みたいな領域に入ることもあるんじゃないかなぁと思っています。副作用もありえます。

関連記事:「ドリーム・ヨガ:夢を使った修行法」(スピリチャルでアートな日々、時々読書 NY編)


・サイケデリクス

 サイケデリクスへの関心も特に欧米人の間では高まっています。精神医療、セラピーへの適用も研究されています。
「アヤワスカ」などを用いた儀式もかなり知られるようになっています。

関連する論文や書籍も増えており、英語によるものはかなりの量になっています。
ごく一部は邦訳されています。たとえば有名なのだと、、、↓↓

・DMT―精神(スピリット)の分子 ―臨死と神秘体験の生物学についての革命的な研究


・天からのダイヤモンド LSDと宇宙の心(マインド)


・幻覚剤は役に立つのか


この分野の古典ではオルダス ハクスリー『知覚の扉』でしょう。


最近のニュース記事にも↓↓

心の病治療に幻覚キノコ 豪政府承認


オーロビンドについてちょっと

 インドの宗教家、ヨーガ指導者にオーロビンド・ゴーシュ(Sri Aurobindo Ghose)という人がいます。欧米では有名なようです。


 このオーロビンドも相当な瞑想実践者のようで、深い体験も数多くあるようです。
「瞑想で体験したものを言葉にしたら、それが思想、哲学となった」のような内容のことを述べています。


オーロビンドはあるときヴィシュヌ・バスカー・レレというヨーガ指導者にあって瞑想指導を受けたようです。

指導された瞑想は「自らの心を見よ。そうすれば様々な想念が心に入ってくるのが分かる。それらを斥けよ」というものだったようです。
これは瞑想の種類としては、仏教の禅や、チベットのニンマ派やボン教の「ゾクチェン」に近いものなのかもしれません。

このヴィシュヌ・バスカー・レレから指導を受けたあとは、「内なる指導者に従う」として、特に指導者、グルを求めなかったようです。


 瞑想による直接体験を重視したという点では、彼もグノーシス的なところがあるのかもしれません。
しかしグノーシスの「反宇宙的二元論」ということでは、それとは違ったような独特な思想が彼にはあるようです。

オーロビンドの思想は、科学ではなくて、やはり思想なのですが興味があります。


書籍『天からのダイヤモンド LSDと宇宙の心(マインド)』(ナチュラルスピリット)には、ほんとうにちょこっとオーロビンドに触れられています。

“ …… この単一性ワンネスを外から眺める視点は存在しない。というのも、それこそが存在そのものだからである。プロティノス(Plotinus)が簡潔に述べた言葉を借りれば、ここでは「すべてがともに呼吸する」のであり、シュリ・オーロビンド(Sri Aurobindo)によれば、「この事物のヴィジョンにおいては、宇宙は単一の存在として、その統一性と全体性をみずから開示する。自然とは具現化する力であり、進化とは、物質の中で自然が徐々に自己開示するその過程である」ということなのである(Aurobindo 1987,211)。” p.54

“ …… 主要な宗教は、そのどれもが「上昇」を教えの核心に置いており、そして、この元型アーキタイプが私たちの文化に今なお深く根づいたまま伝わっている……。アジアと西洋の宗教のいずれもが、「上がって抜ける(up-and-out)」ことによって救われるとしており、人生の最終ゴールをキリスト教の天国、イスラムの至福の楽園、あるいは仏教における浄土のように、地球外のどこかにあるスピリチュアルな楽園に置いている。生きとし生けるものを救うためにこの世に何度でも戻ってくると誓う菩薩までもが、衆生を「涅槃」「究極の悟り」、あるいは本来肉体なしの悟りに至らせることで解脱させようとしているのだ。
 オーロビンドは、これらの宇宙論は、存在というものの不完全な理解によるものだと言ったが、私も彼が正しいと思う。……” pp.55-56

クリストファー・M・ベイシュ 著 『天からのダイヤモンド ―LSDと宇宙の心(マインド)』ジュン・エンジェル 訳 ナチュラルスピリット 2023