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わたしの本棚:緊急事態宣言中の交換日記を読んで、あの頃を思い出す「あんぱんジャムパンクリームパン」

なんか美味しそうなタイトルの本だな・・・、なんだろ?パンに関するエッセイかな?最初この本を見たとき、そう思った。

あれ、でも副題がついてる・・・”女三人モヤモヤ日記”?え、パンの話じゃないのかな・・・・モヤモヤしはじめたのこっちですけど?

あんぱんジャムパンクリームパン 女三人モヤモヤ日記
著:青山ゆみこ・牟田都子・村井理子  亜紀書房

それでもこの本を手に取ったのは、本の著者に村井理子さんの名前があったから。ちょっと前に村井さんが書いた本を読んでいて、それがとても心に残っていたからだった。

兄の終い 著:村井理子 CCCメディアハウス

村井さんが書いたのは、実のお兄さんが亡くなった後、その遺体を引き取りアパートを片付けた5日間のお話だ。
ずっと迷惑をかけられてきて疎遠になっていた兄。その最後に振り回される村井さんの背中に透明人間のようにぴたりとついて、揺らぎや混乱を一緒に体感したような本だった。心に残ったけれど、自分の中で感じたことを言葉まで昇華しきれず、書評は書けなかった。

だから彼女の名前を見つけて、自然とページを開いた。

村井さんは琵琶湖のそばで双子と犬と暮らす翻訳家だ。
共著の青山ゆみこさんは神戸に夫と愛猫とともに生活するライター、
牟田都子さんも夫と猫2匹と一緒に吉祥寺に住むフリーランスの校正者。

あんぱん・ジャムパン・クリームパンはそれぞれの愛称(普段からそうなのか、この企画のためなのかは不明)のようだった。とりあえずモヤモヤはすっきり。

そして3人ともパン屋ではなく、本の周りのお仕事をしている方たちだった。

吉祥寺の本屋でずっとバイトし、その後印刷会社の出版営業部門にいた私はここで親近感がわいた。みんな本好き・・・ってことですよね?と。

これはそんな3人の交換日記の記録。期間は新型コロナウィルスによる緊急事態宣言中の4月から解除された6月という短いけれど、特別な期間。

彼女たちが書く手紙には、センセーショナルな響きはない。
突然変わった生活での戸惑いや先の見えない不安、大切な存在が遠くに行ってしまう・・・などが綴られるにもかかわらず、言葉選びも語りかけ方もずっと親密で穏やかだ。

相手への配慮もささやき声くらいさりげなくいれながら、自分の心の動きを丁寧におって誠実に伝える。そんな文章を読んで、こんなやりとりができる友人関係っていいなと感じた。

彼女たちくらいの歳になったとき、こんな風になれるだろうか?と交換日記の記憶が中学生でストップしている私は思った。

そしてあの時期、私が感じていた息苦しさはこれだったな・・・ともはや少し懐かしい気持ちになった文章が青山さんの手紙にあった。

なんというか、「わたし」である前に「わたしたち」でいなきゃいけないような「圧」が強くて、自分の頭や体がうまく使えないような。

そうだった。
だから私はあの頃できるだけ情報を遮断して、自分の外側に薄くて透明な膜をつくっていた気がする。

そんなあれやこれやからたった3ヶ月ほどなのに、あの時期がもう遠くに行ってしまっていたんだなと、読みながら思い出す時間だった。


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