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「贈る、漢詩。」李白「贈孟浩然」

誤訳が判明しました。以下訂正です。


「贈る、漢詩。」と題して今回からお届けする、
いにしえの文人墨客たちが友人、家族、仕事仲間、さまざまな人々に贈った
とされる漢詩を紹介するコーナー。
手紙など、人に贈る言葉を書くことも少なくなった現代社会でも、
文通やポストカードの交換を楽しむ人はいます。
私自信が漢詩人であるということがそもそもですが、
「人」と「言葉」を大事にする人々に届くといいなと思って、
この企画を始めました。漢詩には人に贈った作品が数多く
のこされております。いや、8割型は人との交流の詩では?
と思うほど交流の詩が多い印象です。
「贈答」であったり「和韻(相手と同じ韻を使って
詩を作る)」などコミュニケーションのツールだったのでしょう。
もしかすると古代の漢詩人たちがあなたのお手紙のヒントを
与えてくれるかも…?!

そんな第1回は李白の「孟浩然に贈る」
を読んでいきます。作者李白は盛唐の大詩人。
詩聖杜甫とともに「詩仙」と称されています。
杜甫の「飲中八仙歌」に「李白は一斗詩百篇」とうたわれる酒豪ぶりはあまりにも有名です。最期は水に映る月をとろうとして溺死したと伝えられていますが、
定かではありません。そんな彼が敬慕したとされる同時代の詩人、孟浩然。
彼の詩で一番有名なのは、おそらく「春眠暁を覚えず」で始まる「春暁」でしょう。そんな自然詩人に贈った(実際に手渡したのかはわかりませんが、
彼を思って作ったであろう)「孟浩然に贈る」。読んでいきましょう。

我愛孟夫子 風流天下聞
紅顔棄軒冕 白首臥松雲
醉月頻中聖 迷花不事君
高山安可仰 從此揖清芬

出典:
https://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/bunko11/bunko11_d0125/index.html

書き下し文:
我は愛す孟夫子 風流天下に聞こゆ
紅顔、軒冕を棄て 白首、松雲に臥す
月に醉ふて中聖に頻び 花に迷ふて君に事へず
高山も安んぞ仰ぐ可けん 此れ從り清芬を揖られん

大意:私の慕う孟先生! 風流ぶりは天下に聞こえている。
若い時分から仕官せず、歳を取っても風雅にあそんでいる。
月に酔ってかえって聖人のようであり、花に迷って君主に仕えない。
高い山もなんで仰ぐ必要があろう、風流をみならうのは山の方と言っていいくらいだ。

" I love 孟浩然!”というのを詩の初めに持ってきて破綻しないのは
李白くらいなものでしょう、もし普通の人がこれをやったら下手な
ラブソングです… でもここでそう言い切って成立する李白はやはりすごい。
でも、普通の人もここまでではないにせよ、少しストレートに言った方が
いい場合もあるのかも…
さて、そんな李白さんの詩が破綻していないのは、おそらくその後の対句の妙やそれを作る途轍もない詩才に支えられているからだと思います。まず、「紅顔」というのは「紅顔可憐の少年」などと表現するように「若い時、若い人」ということを指します。ここで対になっている「白首」は「白髪頭」すなわち「老年」。「紅」の「顔」と「白」の「首(こうべ)」色の対比をしつつ、年齢の対比をする、すごい技巧です。「(孟浩然は)紅顔の若いときに軒冕(冠、宮仕をいう)を捨て去って、白髪頭になった今日でも松雲に寝転んでいる(風流に遊んでいるというたとえ)」

次の「月に酔って」と「花に迷って」はどこかで聞いたことがあるフレーズだな、
とおもって調べてみたら、良寛和尚の詩に

”看月終夜嘯 迷花言不帰
月を見ては夜どおし詩を口ずさみ、花に迷うて家にも帰らず”

引用:『ほっとする禅語70』(2019)渡會正純 石飛博光 杉谷みどり 著 二玄社(東京)

とうのがあります。ここでは月を「看る」になっていますが、
李白の詩にとても似ています。
たしかなことはわかりませんが影響がなかったというのも無理があるでしょう。

さて最後は「高い山もなんで仰ぐ必要があろう、風流をみならうのは山の方と言っていいくらいだ。」と訳しましたが、実は自信がありません。
とくに「風流をみならうのは山の方と言っていいくらいだ。」の
原文「從此揖清芬」というのは文法的には「此」という代名詞に
それを起点に何かをしめす「從」という前置詞がおかれ、
ているので「この人から」。「揖」は「ゆずる」という動詞。
「清芬」は「気品ある行い」という意味の熟語。これらをつなぎ合わせると、
「このひとから気品ある行いを譲られよう」、前後の文脈とつなぐと、
「高い山もなんで仰ぐ必要があろう、高い山でさえこのひとから気品ある行いを譲られよう(風流をみならうのは山の方と言っていいくらいだ。)」
という訳になるかと思います。ただ確証はありません。
漢文を自分で訳していると多々こういう「自信がありません」が起きます(泣)
でもそれが結構楽しかったりします。

さて、「贈る、漢詩。」いかがでしたでしょうか。
これからも反響があればときどきこのコーナーをやれればいいな、
と思っています。それでは康寧堂でした〜Have a nice day!

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