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ロンドンの市場で魚を買って、たべる。

ロンドンでの生活も早いもので1ヶ月が経った。
夫も新米の父として1ヶ月、徐々に育児の勝手が掴めてきたようだ。娘は生後5ヶ月になり、私も主婦としてのルーティンができつつある。

こちらにきてから3日目に引っ越しがっきまった。私にとって今年3回目の引っ越し。同じマンションの隣の棟の部屋で2ベッドルーム、リビングが広く、6階なので陽当たりが今より最高だ。イギリスは曇りも多いしこれから冬に向かうにつれて徐々に夜が長くなる。少しでも日を浴びたい…その部屋をひと目見て引越しを決めるまでものの数秒だった。

先週土曜日、朝6時起床、6時半開始。船便やら航空便やらで業者さんがどんどこ運んでくれた荷物を、今度は手運びでうつしていく。娘は幸い午前中は機嫌がいい方で朝寝も昼寝もしてくれるうちに大人2人で作業を進める。ざっと20往復くらいはしただろうか。管理人が貸してくれたカートがあって助かったのと、夕方から夫の同僚が少し手伝ってくれたのは大きかった。無謀かと思った引っ越しも何とか完了し、またロンドンでの新しい生活が始まった。

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借り暮らしのキッチンはこれで6度目だろうか。いつか自分のキッチンが欲しいと思いつつ、毎回あたらしいキッチンとの出会いは高まる。使い込みながら自分仕様に工夫を凝らす楽しさがある。残りの駐在生活を数えるとざっと400日ちょっと、わたしは毎日ここにたつんだろう。家族が囲む食卓を、このキッチンから守っていくんだと使命感でみちみちている。

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イギリスの中心地にはいくつか人気のマーケットがある。エリアによって特色や集まる人の雰囲気も違うのだが、その中のBorough Marketという食料品を扱うマーケットにいってみた。京都でいう錦市場のような雰囲気で、肉や魚野菜などの生鮮食品からハムやチーズ、蜂蜜やジャム、オリーブオイルにスパイスなどの加工品もあり、フードコートのようなゾーンもあるので食べ歩きも楽しい。イギリスのごはんは美味しくないと言われているが、日本よりもよっぽど多国籍な国家で移民も多いので街に出る行くと世界各国のレストランがある。探せば各国の超一流の食事だってできるので、イギリスのご飯はまずいはもはや神話のように思えた。

立ち寄った鮮魚店には、珍しいシーフードが整然と並んでいる。アカザエビにレモンソール、ヨーロッパイチョウガニにロブスターなど。もちろんサーモンやマグロなども置いてあるのだが、見たことない魚をしげしげと眺める私に夫は『魚買って料理してみたら?』と挑戦的にいった。

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不慣れな魚を丸々買うのにすこしためらったが、台所番長として示しがつかないので乗ることにした。やってやれんことはない。それに釣り好きの夫の良いところは魚を捌けるところだ。最悪切りに身にして貰えばこっちのもんである。マグロ、サーモン、イカ、タコ…馴染みの魚じゃつまらない。アンコウかレモンソールで迷い、よりイギリスらしいレモンソールを買ってみることにした。ナメタガレイの仲間らしく見た目はまさしくカレイ。日本でもカレイは買ったことがない。レモン型のソール(靴底)でレモンソール?それと、美味しそうだったので蟹の甲羅につまったたっぷりのむき身を買ってみることにした。

家に戻り早速半身を調理する。煮付けが食べたいというのでその日の晩は和食に決まった。スティックセニョールのベーコン巻きと胡麻和え、サンフィアの味噌汁にヨーロッパイチョウガニの炊き込みご飯、レモンソールの煮付け。横文字で書くとおいしさから遠ざかるのだけど…

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サンフィアとは未知。シーアスパラガスとも言い、海辺に生息する植物らしい。しょっぱいとの前情報を聞いたので軽く水につけてから味噌汁にいれた。海藻のような香りが出汁に溶け込んで非常に美味しい!だけどサンフィアそのものはやはりしょっぱく、しょっぱさが極まってえぐみのような、ほろ苦いような味がした。シャキシャキと歯触りはよく、海ぶどうに似ている。わたしは嫌いじゃないが夫は“俺の敵”と言って2度と買わないと吐き捨てた。

ヨーロッパイチョウガニの炊き込みご飯は美味しかった。日本から必死のパッチで運んできた50キロ分の食材のひとつ、梅沢富美男お墨付きねこぶだしの完全勝利である。あれさえあれば味がキマるんだよな…合法ドラッグかよ…。腕の見せどころまるでなし。甘んじよう。最後に散らすチャイブ(あさつきのような細いネギ)が、ええ感じの料理屋さんのシメさながらの上品さを演出してくれた。

そして大目玉 新鮮なレモンソールの煮付けは、身がふわふわで箸で触るだけでほぐれて煮汁に溶け出してしまうくらいやわらか。味もそれほど泥臭くはなかったが、気にならない程度に泥にすむ魚の風味を感じた。夫もうまいうまいと食べてくれたので本望である。

後日残りの半身を、イギリスらしくバターソテーにしてみた。ロンドンにきたばかりの週末にレストランで食べた、カスベ(エイヒレ)のレモンバターケッパーソースが非常に美味しかったので、同じようにやってみることにした。

軽く片栗粉を叩いたレモンソールをバターで両面やき一旦お皿に取り出す。同じフライパンでサンフィアの残りも炒めて添えておく。バター20gほど、レモン半分、白ワイン、ケッパー好きなだけ(多すぎるとむせるので注意)。混ぜながらふつふついうくらいまで煮やしたらソースの完成。ざく切りにしたイタリアンパセリを散らす。

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郷に入っては郷に従えというのか、この調理方法で食べるレモンソールは格別だった。バターの香ばしさとレモン、ケッパーの酸味で一切の泥臭さを感じさせない。ケッパーの一緒に食べると強い酸味が癖になってどんどん食べすすめたくなる。軽くソテーしたサンフィアも、エグミもなく本来のあるべき姿でレモンソールの傍に寄り添い引き立てた…

レモンソールに和食を押し付けなければよかったんだ…。その土地のものはその土地に合った調理方法で食べるのがいちばんだ。決して闇雲に己の文化や主張を持ち込むべきではないと知る。

新しい味、こんにちは。
レモンソールにはサンフィア、バターソテーで。


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