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2023年2月の記事一覧
【短編小説】2/28『透明な猫』
「エッセイ?」
凡庸な会話劇のように、担当編集者に言われた言葉を繰り返してしまった。
「はい。読者の方々からのリクエストが多くて~」
提案した割に曇り顔の彼。致し方ない。数十年の作家生活でプライベートな部分は出してない俺への依頼だ、断られると思ってるんだろう。
「編集長からも無理を承知で、という前提で話してこいと言われているので、ご無理でしたらご無理なさらず……」
「いや、そこまで頑なに無理っ
【短編小説】2/27『山に住む女』
「良かった、また会えて」
「そうね」
「キミは本当、変わらないね」
「貴方はー……」
「老けただろ」
「……“生きてる”って感じ」
「物は言いようだな」苦味を含む笑みを浮かべて、男は女の隣に座る。「でもその言い方は間違ってるよ」
「どの?」
「“生きてる”って」
「あぁ……そうね」
女が静かに笑う。
男の頭上には、光る輪が浮いている。
男が女に初めて会ったのは男が子供のころ、雪深い山奥で遭
【短編小説】2/26『○○』
○○しないと出られない部屋、なんて、どっかのR18作品にしかないと思ってたんだけど……。
「はぁ……」
盛大に溜め息を吐いたのは同じ部屋にいる同僚の女の子。
そんなあからさまにうんざりされると、さすがに傷つく。チャンスかも? って一瞬でも思った自分の浮かれ具合が際立つから。
っていうかここどこ。
部屋の中を見回す。どっかのビジネスホテルみたいな内装だけど、だったら内側からドアが開けられな
【短編小説】2/25『大人になれない私たち』
娘からメッセージカード付きのプレゼントを貰った。こんなことは初めてで、少し戸惑っている。
【いつもありがとう】と書かれたそのカードを、贈られたお財布に入れた。
ちょっと前までニートだった娘はいつも家の中にいた。大学卒業後、就職に失敗してしまったのだ。
自室でなにかしているという感じもなく、ただ毎日を生きていた。
そんなある日、どこかから貰ってきたらしい求人情報誌を手に帰ってきた。ほどなく
【短編小説】2/24『雷騰雲奔』
新たなヒーローが現れた。
謎の仮面をかぶった謎のヒーロー。正体はもちろん、どこから来るのか、どうしてヒーローになったのか、その活動内容すらも謎だ。
『彼? 彼女? はゲームに参加しないの?』
「みたいですね」
『あ、仲間って訳じゃないのね』
ヒーローの回答に宇宙軍の代表が拍子抜けした声を出した。
「はい。面識もないんですよ」
『そうなんだ。新しくスカウトとかしたのかと』
「そんな余裕ないです
【短編小説】2/23『風光な芙蓉峰』
“富士見”と名の付く土地からは、昔本当に富士山が見えたのだと聞いて、気になって近所の“富士見”と名の付く場所に行ってみることにした。
確かに高い建物がない時代だったら見えてたんだろうな、という風景。いまは曇り空も相まって見えないけど。
富士山は黙ってそこにいて、みんなから愛されて、でももしかしたらいつか、脅威になるかもしれない。
それでも愛される不思議な存在。
見えたら地名にしちゃうよな
【短編小説】2/22『猫のお世話係』
猫も走馬灯を見るのだろうか――。
「はい、では次のかたどうぞ~」
「は、はい、失礼します」
「はいどうも。そちらどうぞ」
促されて椅子に座る。
「室戸カナさん、享年78歳。いまはー……」
「27、8歳の頃の見た目になっています」
「ふむ。この頃ね」
向かいに座る受付係がパソコンを操作した。モニターを回転させて確認を取る。
「あ、はい、そうです」
「はい、確認できました。で、生まれ変わるのは
【短編小説】2/21『モノ思ふ猫』
ワガハイは猫である。名前はまだな「コタ―」あった。
「にゃい」
「あぁ、いたいた。お茶するけど、一緒におやつする?」
「にゃー」
カイヌシは陽が落ちる前に、一度なにかを食べる。太るぞ、と思いつつ、僕も一緒におやつできるから黙認してる。
「コタも少し痩せないとねぇ」
なんて言いながらカイヌシはおやつ用カリカリを皿に出した。
大丈夫だ、お前よりは運動している。
そう思いながらカリカリを食べる
【短編小説】2/20『井の中の異世界』
なんだかくしゃみが止まらない。
知ってるこれ、アレルギー。近くに、どこかに【ヤツ】がいる。
しかし目を凝らさないと見えない。そういう風にしてるから。
とはいえ、凝視すると因縁つけられるからそれもできなくて、雰囲気で察知して大体の場所を掴んで一定の距離を保つ。そうすればくしゃみは止まる。
気づかず近くまで行ってしまうと咳やら湿疹やらに発展してえらい目に合うから十分に気を付けてはいるけど、ど
【短編小説】2/19『アプリのひみつ』(リメイク版)
『ニンゲンは働くのが好きだよなぁ』
カゲが言う。
『特に“ニホンジン”は勤勉ですよね』
ヒカリが言う。
『“天啓”という形でアイデアを与えるだけで自主的に動いてくれるのだから、こんなにコスパの良い生き物もそうそういないな』
『こちらからはノーギャラですしね』
『“イノチ”という“カネ”より大事なものを与えているんだ、それで充分だろう』
『“チキュウ”上では金銭も発生しているようですしね』
『そ
【短編小説】2/18『空を舞う』
空を飛んでやってきたその手紙は、窓の隙間をすり抜けて部屋に入った。
部屋主であるジェシカの目の前で2、3度羽ばたいて、手の中に落ちる。
「あら、あの人からだわ」
ジェシカは嬉しそうに言って封蝋をはがした。中に入っているのは一通の写真。
封筒から出すと、光に反応して画(え)が動いた。
『やあ、久しぶり。元気かい? 僕はこの通りさ』
マークは肩をすくめた。その手には白い包帯が巻かれている。
【短編小説】2/17『望まぬカプセル』
親ガチャ、なんて言葉を聞いた。
ホントのガチャは欲しいのが出るまで引き直せるけど、親はできない。一度決まったら一生そのまま。
たまに変わることもあるけれど、【血が繋がった両親】はこの世に二人しかいない。
でもそれって親にとってもそうだよね。【子ガチャ】。
生んでみて、育ててみるまでどんな子が出たのかわかんない。
親が幸せなら子も幸せ、と限らないように、子が不幸なら親も不幸とは限らない。
【短編小説】2/16『キミに似合う色』
ボクには人のオーラが見える。
人によってハッキリしてたりぼやけていたり。色も様々。暖色寒色、単色にグラデーション。たまに全部が入り混じったどす黒いのも。
みんなにも見えているんだと思っていたけど、そうじゃないと知ったのは思春期近く。
普通のことのように話したら、少しヤバいヤツ、みたいな目で見られた。
特殊だと知ってからも見えてるから、幻覚とかじゃなくて実際見えていて、この先も見え続けるん
【短編小説】2/15『つべこべ言わずに作ってみろ』
【ツクール】を作る人になりたくなった。
プログラミングなんて学校で習ったっきりで卒業以降全然触れてなかったけど、一念発起して塾に通いだす。
旦那も子供たちもあまりいい顔しなかったけど無視。さんざん世話して一人前にしたんだから、もう文句は言わせない。
いまどきはプログラムを修得したい人の層も幅広く、子育てがひと段落した年齢の私が通っても浮いたりしない。
むしろ「第二の人生応援します」ってウ