【短編小説】2/15『つべこべ言わずに作ってみろ』
【ツクール】を作る人になりたくなった。
プログラミングなんて学校で習ったっきりで卒業以降全然触れてなかったけど、一念発起して塾に通いだす。
旦那も子供たちもあまりいい顔しなかったけど無視。さんざん世話して一人前にしたんだから、もう文句は言わせない。
いまどきはプログラムを修得したい人の層も幅広く、子育てがひと段落した年齢の私が通っても浮いたりしない。
むしろ「第二の人生応援します」ってウエルカム状態。そうか、私の“第一の人生”はいったん終了したのか。
私が作りたいのは、“ゲームを作るゲーム”。いわゆる【ツクール】系ソフト。
いままではソフト一本につきこのジャンル、って感じだったけど、このソフトはどんなジャンルにも対応できるように作りたい。って先生に言ったら顔をしかめた。
「ちょっと複雑で、難しいかもしれません~」
「頑張るので、わからないところ聞いてもいいですか?」
「はい! それはもちろん」
若い先生は親切で、私よりはるかに博学で、とても頼りにできた。
来る日も来る日も予備校に通いながら家族の世話もして、たまに全部投げ出したくなるときもあったけど、それでもめげずに家事をこなしつつプログラムを組み立てて、ようやく完成した。
飽きさえしなければ生涯ずっと遊べるソフト【ゲームなんでも作っちゃお!】。
体験プレイした先生も絶賛してくれて、塾主催のコンテストにノミネートしてくれた。
そしたら大賞とっちゃって、賞品だった“ソフトの商品化”でパッケージ版と配信版で販売されちゃって、なんだかとっても話題になって、あっという間に大ヒット。
それまで不満げだった家族は一転、私のことを尊敬しはじめた。特に旦那は印税生活できるってはしゃいでる。でもその収入、全部私んだから。
とは言わず、むしろずっとノーコメントのまま黙々と家事をこなす。
さすがに思うところがあったのか、旦那も子供たちも最近では家事を手伝ってくれるようになった。
良し良し。思ってたより効果あったぞ。
話題のソフトとしてニュースにも取り上げられ、街頭インタビューの模様が放送される。
『どう? 作ってみた?』
『作った! 友達にやらせたらあっという間にクリアされて、ちょっとムカついた』
子供が笑いながら言う。
『どうですか、体験してみて』
『いやー、プログラミングなんて難しいと思ってましたけど、このソフトがあればオリジナルゲームが作れて楽しいです』
『配信してみてどうでした?』
『めちゃめちゃ考えて何十時間もかけて作ったゲームを秒でクリアされるとちょっとヘコみますねー。褒められるよりけなされる感想のが多くて、こっちの苦労もわかってよって思っちゃいます』
大人も笑いながら言う。
良し良し。テレビの前でニヤリ、ほくそ笑む。
ゲーム作りは料理と一緒。
栄養や味のことを考え、時間や経費と戦いながら食べる相手のことを想って作っても、旦那も子供たちも感想すら言わず黙々と、味わってるのかわからないくらいの早さで食べ終える。ただ腹を満たせればいいみたいな食べ方。さすがにちょっと腹が立つ。
私が三度の食事を作ること、お前ら当たり前だと思ってる? そんなことねーぞ。自分の分だけ作ってあとは知らんってできんだぞ。
こちとら好意で作ってやってんだから“美味しい”とか“ありがとう”とか一言でいいから言えよ! 腹満たすためだけに雑に作ってるわけじゃねーんだぞ!
という気持ちが爆発して出来たのがこの【ゲームなんでも作っちゃお!】です。
開発者インタビューでそのようなことを述べたら、全国の主婦や主夫からお便りがわんさか届いた。
自分だけが不満なわけじゃないって知って、安心しましたって。
それは私も一緒です。感想を送ってくださった皆様、ありがとうございます。
料理なんてしたこともない、ただ上げ膳据え膳で享受している人たちに声を大にして伝えたい。
何時間も何十時間もかけて作ったものを乱雑に食い尽くされる人の気持ち、少しはわかったか!
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