【短編小説】2/16『キミに似合う色』
ボクには人のオーラが見える。
人によってハッキリしてたりぼやけていたり。色も様々。暖色寒色、単色にグラデーション。たまに全部が入り混じったどす黒いのも。
みんなにも見えているんだと思っていたけど、そうじゃないと知ったのは思春期近く。
普通のことのように話したら、少しヤバいヤツ、みたいな目で見られた。
特殊だと知ってからも見えてるから、幻覚とかじゃなくて実際見えていて、この先も見え続けるんだと思う。
ずっと見てきてわかったのは、色と感情の関連性。
怒っているときやイライラしてるときの色、形。悲しんでいるときや落ち込んでいるときの色、形。もちろん、嬉しかったり楽しかったり、恋をしているときもわかる。
わかっているからそのオーラをまとっている人への対処ができる。ただそれだけなのに『空気が読める人』として重宝され、就職先で営業職に回された。
説明中に興味のありなしや疑問のありなし、本音か建て前かもわかるから、セールストークに役立てられる。
そうして、ボクの営業成績はうなぎのぼり。
でもボクは、宿題の答えを見て書き写している気分になって、なんだか居心地が悪かったりする。
季節は巡って春。
新入社員の中で気になる子ができた。
クールで人とは群れなくて、でも協調性はあって穏やかで。
そんな彼女のオーラは無色透明だった。初めて見たそのオーラに、ボクは釘付けになる。
彼女は何事にもニュートラルというか、ボクとは違う意味で人と関わるのが上手な女性。
誰かに対して怒ったり悲しんだりもしない。ただ穏やかに微笑んで見守るだけ。とても大人で、どこか子供で……ボクはあっという間に彼女に惹かれた。
彼女が興味ありそうなことをリサーチして会話の糸口にした。いままで仕事で培ってきた話術を駆使して会話するうちに、彼女は少しずつ笑顔を見せてくれるようになった。
でも彼女は無色透明のオーラを纏ったまま。きっとキミに似合うはずのあの色にはならない。
そしてまたある日、上司が栄転するという報せがあり、後任として新しい上司が転勤してきた。
朝礼時に挨拶も兼ねて自己紹介をした新しい上司は、軽やかでウィットに富んだ口調。長身で顔立ちも整っている。
歓送迎会を開くことになり、部の人間が一堂に会した。その席での会話も造詣が深く、これは尊敬、信頼できる上司が来てくれたぞと喜んだ瞬間、気がついた。
彼女のオーラに色が滲んでいる。
一緒に仕事をしていくうちにそれはゆっくりと穏やかに広がって、彼女を輝かせる。
彼女の変化は顕著で、いままで最低限のマナーとして施していたであろう化粧や服装に少しの色気が差しこむ。
入社して以来、誰も見たことがないような笑顔がこぼれる。
昼休みになると上司と連れ立って近くの店に行く。話すのは主に仕事についてのようだけど、彼女のオーラは暖色に染まる。
でももう、オーラなんて見えなくてもわかってる。
彼女が上司に惹かれていることに。
周囲の人も気づいてるけど、社内恋愛禁止なんてルールもないし、節度は保たれてるしって微笑ましく見守るばかり。
ボクは彼女を見るたび胃が痛むけど、それでもどうしても見てしまう。
そのオーラの色は、一生に一度、短期間にしか発せられない魅力的な色だから。
しばらくして、朝礼で彼女が退職するという報告があった。
部下たちから冷やかされて照れ笑う上司の横で、彼女はとても嬉しそうに笑ってる。
二人の左手の薬指に、おそろいの指輪が光ってる。
ボクのオーラは、いまどんな色をしているだろう。
彼女たちのオーラとはきっと、正反対の色だろうな。
表情には出さないようにしながら、おそらくもう見ることはできないであろう彼女のオーラを見つめた。
うん、やっぱりキミにはその色が似合う。
幸せの絶頂にいるときの、虹色が。
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