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航空機の除雪をする冬の特別部隊“デアイシングチーム”の仲の良さに注目/JALグランドサービス札幌 デアイシングチーム座談会

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(写真左から、松村さん、村口さん、加藤さん)

1月末日、北海道・新千歳空港へ降りたつと、当たり前のように雪が積もっていました。今回インタビューをしたのは、冬場にデアイシングチームとして活躍するJALグランドサービス札幌所属の松村さん、加藤さん、村口さん。

飛行機は翼に雪が積もっていたり、氷がついていたりすると、安全に飛ぶことができません。雪を落とし(デアイス)、氷がつかないように薬剤を撒く(アンチアイス)作業が必要です。出発直前に行われるこの作業は、時間との戦いです。チームワークの良さが不可欠だと聞きますが、実際どうしているのでしょうか。座談会形式でお話を伺いました。

■冬季だけ招集される「デアイシングチーム」

毎年11月15日から4月14日までの間、社内の各部署から集まり結成する「除雪部隊・デアイシングチーム」は、毎年ほぼ同じメンバーが集まります。普段は、加藤さん、村口さんは航空機の誘導など飛行機の周りで作業をするランプ部門、松村さんは貨物地区で作業をする貨物部門と、別の仕事をしています。デアイシングの経験年数は、加藤さんと松村さんは10年以上、村口さんは3年です。

デアイシング作業は、デアイシングカーという特殊車両に乗って行います。デアイシングカーのゴンドラは一番高い位置で10m以上の高さにもなります。そのゴンドラに乗り、翼に熱した除氷液を吹きかけ雪を溶かした後(デアイス)、防氷液を噴射して機体への積雪を防ぎます(アンチアイス)。

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--- 普段はどのようなチームで仕事をしているんですか?

松村:二人一組で作業します。トラックを運転するドライバーと、ゴンドラの上で操作するオペレーターです。

加藤:社員でドライバー専門の者もいますが、松村と僕はオペレーターもドライバーもやります。

村口:僕だけオペレーターのみですね。

加藤:免許持ってないからね。

村口:推薦してくださいよ(笑)。大型免許取りたいです。

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--- 仕事をするうえで、どのようなことを特に気にしていますか?

村口:出発時刻に向け、時間配分には気を使ってますね。

加藤:防氷液はその時の気温(低い程時間が短くなる)、降っているモノの種類(雪、氷雨、あられetc)、降雪の強さ(強い程時間が短くなる)などによって有効時間が事細かに決まっています。時間を越えてしまうと、全ての作業が無効になってしまいます。そのため、有効時間の間にちゃんと離陸できるかを逆算します。

松村:いつも、アンチアイスを始めるのは駐機場から出発する20分前くらいです。同時に貨物の搭降載もやっているので、その間は作業ができません。下のスタッフに防氷液がかかったらいけないので。本当にギリギリです。

加藤:防氷液は体にかかっても害はないとは謳ってはいます。しかし、かかってしまった人は良い思いはしないですね。そして、もしもお客さまの荷物にかかってしまったら「ごめんなさい」じゃ済まされないので、積み降ろしの最中は、僕らの作業は殆どできません。

--- 時間が足りない!なんてことも起きそうですね

村口:右主翼(ウイング)での作業は、搭降載の作業中は待たないといけないので、作業が進みません。左ウイングの方が大抵早く終わります。小さな飛行機は1台で作業を行いますが、大きな飛行機は2台で作業します。その時の担当は一応右と左で決まっていますが、左ウイングを作業していた人が早く終われば、左尾翼(スタブ)、右側のスタブまでやってあげますね。

松村:右に貨物室があるので、どうしても少し遅れるんですよね。

村口:新人の頃は、先輩がヘルプに来てくれて助かりました。雪をきれいに落とさないといけないんですけど、完全に落とせなくて作業が終わらない時に、「大丈夫か?」って来てくれました。なかなか終わらないと、お客さまの搭乗も終わって、デアイシングチーム待ちみたいになるんですよ。

加藤:周りの作業状況は気にしますね。事務所で除雪作業のコントロールを担当している整備スタッフから「戻っていいですよ」と指示が来ても、こっち手伝ってから帰ろうとかありますね。

村口:そう言ってくれる人が多くて、本当に助かります。

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■北海道は寒い。最低気温はマイナス23度!

--- 北海道だと、一番寒い日はどのくらいの気温なんですか?

松村:自分が経験した範囲だと、マイナスにじゅう……どんくらいだろう。

村口:マイナス23度ですかね。俺。

加藤:マイナス21度かな、俺は。

松村:そこまで気温が下がると、自分が吐いた息でまつ毛が凍ります。

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--- うわぁ。想像を絶する寒さ!どんな服装で作業をしているんですか?

村口:トレーナー、カバーオール、インナーを着て、ジャンパーを着ます。ライトダウン着てから、ジャンパーを着る人もいますね。

--- 成田空港のグラハンと、そんなに変わらないんですね。

村口:あんまり厚着すると動けなくなるんですよね。カイロも使いません。動いていたら必要ないです。

松村:手袋も、軍手だけの人ばっかりだよね。

村口:軍手の2枚重ねですね。雨の日は、中にビニール手袋してる人はいますね。

--- 大雪になると、長時間ずっと外で作業なんてこともあるのでは?

村口:滑走路が閉鎖されたりするとダイヤが乱れるので、一定間隔あった便が、何便も続けて着陸するようになります。そこに、人も車も集結させないといけないので、そういうときは控室になかなか戻れないとか、ずっと除雪車内で待機することはありますね。飛行機の離陸が急にできなくなると、作業もやり直しになったりします。こちらは準備万端だけど、まだ滑走路が空かないから、ちょっと待っていることもあります。

加藤:除雪車の中は暖房が効いているので大丈夫なんですけど、外に出ると、着こんでいても指先や足先から冷えてきます。

村口:冬か夏のどちらが好きかと言ったら、夏です。

加藤:仕事上は間違いなく夏ですね。最近は夏も蒸し暑いですけどね。

村口:でも、寒いよりいいっすよね。

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■「雪がきれいに落ちた」ときに達成感

--- 仕事をしていて、達成感を感じるのはどういうときですか?

松村:雪がすごい降った日、翼の根元に雪がこんもり積もるんです。その雪がなかなか落ちないんですけど、キレイにばあーっと流れた時、達成感があります。

加藤:おおお!

村口:気持ちいいやつ。

加藤:行け!行った!みたいな

村口:あれ、行かないと、ちょっとイライラしましますよね。

加藤:そうそう。

村口:つまったりして。

松村:ちょこっとずつしか、雪が落ちなくてね。

村口:そうそう。イライラする。ザーッと落ちるのがいいんです。

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--- では、逆にドキっとした体験はありますか?

村口:1年目のことなんですけど、作業中に、デアイシングカーの電源、エンジンの全部がパッと落ちちゃったんですよ。うわーどうしようと思って焦りました。しかも時間も迫っているし、作業も終わってない。エマージェンシー操作をして、他の車に続きの作業をやってもらって対処しました。それが一番ドキッとしましたね。

松村:ドキッとしたことというか、ハプニングなんですけど、デアイシングカーに液を補給していた時に、一緒にいたドライバーさんが、胸ポケットにメガネを入れてたんですよ。

村口・加藤:ああ、あの話!

松村:水とタイプ1というデアイス用の液をタンクに入れていたんですけど。落ちちゃったんですよね。メガネが。絶対にどちらかのタンクに落ちてるんですよね。中身を抜かないことにはメガネを取れないのですが、整備スタッフに連絡して、メガネを取ってもらいました。結局、水のタンクに落ちていたらしいんですけど。

加藤:懐かしい。

村口:あの時、落としたのが水のタンクでよかった。タイプ1だと液ももったいないので。

加藤:もしタイプ4(アンチアイス用の液)に落とすと、デロッデロだね。

■出動頻度は運?雪が降らないときは何をしているの?

--- シフトはどうなっているんですか?

加藤:主に早番が5時30分から14時30分、遅番が14時から22時の2種類です。あと11時から20時くらいまでの中番もいます。

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---冬季はデアイシングチーム専門なんですか?

松村:常駐でスタンバイしてたら、さすがに暇すぎます。

村口:デアイシングチームがメインで、雪が降らなかったら、それぞれの持ち場である、搭降載や貨物の業務に戻ります。

松村:始業時に1回集合して、天気を見て解散かどうかという話になります。

---どのくらいの頻度で、デアイシングチームの業務があるんですか?

加藤:冬の時期はほぼ毎朝、機体の霜取り作業はあります。あとは天気次第ですね。

村口:加藤さんは、毎日じゃないですか?よく雪を降らせるから。

松村:加藤さんの出勤日は、今年はやられてますね。

加藤:失礼だなあ。俺は、ひどいのはあまり当たっていないよ。どれくらいの頻度かと言っても、不思議と大雪に当たる人と当たらない人がいるんですよね。今年は微妙な雪の日によく当たっています。

村口:松村さんは、そんなに当たってないんじゃないですか?

松村:当たってることは当たってると思うけど、そんなにひどい天気の日はないような。

村口:俺も1回だけだな。ひどい雪に当たったの。

---急に天候が変わって、デアイシングチームに呼ばれることもあるんですか?

松村:そうですね。まず、整備からデアイシングカーが何台分欲しいと連絡が来ます。それを聞いて、俺は、近くにいる搭降載の人が行ってくれればいいなと思いながら貨物にいるんですけど。

加藤:貨物の職場は、飛行機の場所が遠いんですよね。

松村:貨物のスタッフは、普段、飛行機が駐機する所の近くにいないんです。飛行機を見ない日もあるくらい。突発の時は、すぐ現場に行ける人を優先します。実際は、部署ごとに無線が入って「誰々さん、デアイスがあるんで戻してください」と連絡がある感じですね。

加藤:早番、遅番にそれぞれシフトリーダーが必ず1名います。要請が入ると各部署と人員の調整をするのですが、貨物メンバーの分はみんなでフォローしてますね。

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---最後に、読者に一言をお願いします。

加藤:チームとして一丸となって、安全運航と定時運航のバランスをとりながら、業務に従事しています。雪が降って、ダイヤが乱れても、みんな一所懸命やってるので、ご理解いただけると大変嬉しいです。

村口:自分がピンチになっても、なんだかんだ誰かが助けてくれます。小言を言われる時もありますが、結局助けてくれるので、すごくいい職場だと思います。

松村:自分たちの仕事は、飛行機を出す最後の仕事だと思うんです。我々がやらないと飛行機は出発できない。そこをきちんと作業してお客さまを送り出す。そういう気持ちで働いています。

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みなさん仲が良く、笑いが絶えない座談会となりました。特に意識をしてチームワークを高める努力はしていないそうですが、年齢に関係なく気さくに話せる風土があると話していました。それにしても、新千歳空港は寒い。筆者が訪ねた日は、気温は-5℃、天気は晴れ。デアイシング作業はしていませんでした。それでも寒い。写真撮影で外に出たら、10分もしないうちに全身がブルブルと震え始めました。みなさんは、もっと寒い環境下で、安全のためにデアイシング作業をしてくれているんですよね。感謝しかありません。

(文・写真:高橋ホイコ)

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ライター:高橋ホイコ
ほんわかライター。ウェブメディアを中心にフリーライターとして活動中。自身の結婚式で8両編成のブライダルトレインを貸し切りで走らせるくらいに乗り物が好き。個人的におすすめする羽田空港の楽しみ方は自動販売機めぐり。個人ブログではジャンルにとらわれない情報を発信中(http://tomatoman.jp/


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