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空港の特殊車両って誰が整備しているの? 航空機地上支援器材会社に潜入/全日空モーターサービス株式会社 別府さんインタビュー

空港の展望デッキから飛行機を眺めている時、ふと視点を変えてみると、たくさんの車両が働いていることに気づきます。飛行機を引っ張っている車、乗客を降ろす階段が付いている車、貨物を運んでいる車。あの車両を整備しているのは一体誰なんだろう。

今回は、航空機地上支援器材の総合技術サービス会社である全日空モーターサービスで働く別府さんにインタビューしました。

別府さんは、空港で働く車両(GSE)の整備を担当して3年目。少しマイナーではありますが、“車両の細部に至るまでスキルを身に付けられ、グラハンとは違う側面で魅力がある仕事”だといいます。そんなGSE整備の魅力をいろいろ伺いました。

■ 多彩な車種…毎日違う仕事をしていくのが楽しい

別府さんはグラハンの専門学校を卒業後に入社し、3年目。若いながらも、しっかりと落ち着いた話しぶりです。就職時には車両の知識はありませんでしたが、配線がややこしく難しい車両の整備なども、先輩に見守られながら、卒なくこなしているそうです。

--- GSE整備というのは、具体的にはどういった仕事ですか?

GSEとは、ざっくりいうと空港にあるタイヤが付いている車両全般の呼び名です。ANAグループのGSEのほぼ全てを保守管理、メンテナンス、改修、販売しています。

仕事は、定期点検がメインで、プラスアルファで不具合修理です。定期点検は車種によりますが、大体3カ月、6カ月、12カ月点検。細かく定められた点検項目表に基づき、不具合を修理していきます。

--- 入社してみて、イメージと違ったことはありましたか?

もっとピカピカの車両ばかりかと思っていましたが、入社してみると、案外古い車が多くて。20~30年ほど前の車両もあり、長く使っていることに驚きました。

特殊すぎて作れるメーカーがなくて延命し続けたり、オペレーターの方が古い車両の方が使いやすいということもあったりで、オペレーターの方が使いやすいように企画・改良しながら大事に使っているんです。

海が近い空港が多いので、サビやすいですし、本当にひどいときは階段に穴が開くこともあります。その場合、板金して直します。いわゆる溶接ですね。

--- えっ、そんなことまでするんですか? 溶接って資格がいりますよね?

資格は、いま持っているもので…(免許証を見せてくれました)、11個ありますね。アーク溶接や粉じん作業、フォークリフト運転や高所作業車運転などです。

昨年、3級自動車整備士を取りました。2級は、受験に必要な経験年数に達したら取りたいと思っています。数多くの国家資格を取れるのもGSE整備の仕事の特徴ですね。

--- こんなたくさんの免許証初めて見ました。いろんなことをできなくてはいけないんですね。

毎日入ってくる車両も違うし、壊れる箇所も違います。僕がいま担当しているパッセンジャーステップだと製造会社で2~3社。同じ会社でも型式が違うと全然違います。覚えることはたくさんありますが、毎日違う仕事をしていくのが楽しいです。冬になると除雪車を扱うので、季節を感じられたりするのもいいですね。

■ 入社前には車の知識は全くなかった

--- 当初は、車両の整備ではなく、車両を扱う方のグラハンを目指していたそうで。グラハンの専門学校から全日空モーターサービスに就職ということで、車両整備の知識は元々あったんですか?

全くありませんでした。僕が現職を知ったきっかけは、専門学校時代に経験したインターンシップの通勤途中で、整備工場を見たことでしたし。

そもそもGSEの整備という特殊な学校はほぼないので、グラハンの学校の出身者や自動車整備を目指していた人が多いですね。

車両整備の知識は、最初の3カ月の入社教育期間中に基礎知識を学び、そのあとOJTで先輩と一緒に仕事をして覚えていきます。

--- 元々グラハンを目指したキッカケはなんだったのですか?

この話をするといつもブーイングされるんですけど、母に連れられ、小さい頃からよく海外旅行に行っていました。今でも母とは旅行します。弊社は1週間くらいの休みも取れるので、つい先日もキューバに行ってきました。

幼い頃から飛行機は、大切な目的地までの非日常空間なので好きでした。それから写真を撮るのも好きになって。空港にはよく来ていたので、飛行機の近くで働きたいなと思ったのが大きかったです。

■ 毎日が刺激的!珍しい航空機を見かけることも

--- 仕事をしていて、楽しいと感じるのはどんなときですか?

自分が担当した車両が、次の点検まで不具合なく戻ってきたときは嬉しいですね。あと、高所作業車点検も好きです。10メートル以上の高い所までクレーンが上がり、そこからの景色が、すごく気持ちいいんです。飛行機も見下ろす感じで。毎日、そういうことが刺激的です。

羽田ではいろんな飛行機が見られます。カリスマ経営者のプライベートジェットや、政府専用機、各国の国賓の方を乗せた飛行機などが見られたりすることも。

--- 仕事で大変なことはありますか?

雪が降ると、除雪支援をするので忙しくなります。除雪車で翼の雪を落としたり、雪がつきにくくなる薬剤を撒いたり。除雪車の不具合修理や薬剤の補充もしなくてはいけません。防氷液を扱うにも国際航空運送協会の資格が必要です。扱いを間違えると飛行機事故につながることもあるため、ミスが許されないので、慎重に作業しています。

--- 仕事ではどんなことに気をつけていますか?

コミュニケーションです。今は班が変わって2~3名で仕事をすることも増えました。車両を操作するときにどうしても死角になる部分が多いので、声をかけあわないと、自分がケガをするだけでなく、仲間にケガをさせてしまうこともあるので、特に注意しています。

--- グラハンではなく、GSE整備でよかったと思いますか?

グラハンをやったことがないので、わからないのですが……。今の仕事は楽しいです。グラハンよりも、GSE整備のほうが毎日違うことができる魅力があるかなと思っています。

***

普段は作業着だそうですが、インタビューはスーツ姿で対応してくださいました。スーツ姿でも、毎日パソコンに向かうビジネスパーソンとは違うカッコよさがありました。ピョンと除雪車をのぼり、屋根についた何やらのボタンを操作して……。まるで忍者のような身のこなしでした。

趣味で、空港の展望デッキに航空機の写真を撮りに行くこともあるそうです。好きな場所は羽田空港国内線第1ターミナル。滑走路が近いので好きなんだそう。やはり航空機だけでなく車両も撮るそうで、1人だけシャッター音のタイミングが違うんだとか。別府さんの担当はANAグループの車両。JALグループの車両は若干違うので、違う車両を見分けるなどマニアックに楽しんでいるそうです。

(文・写真:高橋ホイコ)

★ 今回のインタビュー記事は、いかがでしたか?
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空港の裏方お仕事図鑑 URL: http://hataraku.jfaiu.gr.jp/

ライター:高橋ホイコ
ほんわかライター。ウェブメディアを中心にフリーライターとして活動中。自身の結婚式で8両編成のブライダルトレインを貸し切りで走らせるくらいに乗り物が好き。個人的におすすめする羽田空港の楽しみ方は自動販売機めぐり。個人ブログではジャンルにとらわれない情報を発信中(http://tomatoman.jp/

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