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短編・雑言

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#小説

かくれんぼをしよう

「もういいかい」

「もういいよ」

そう聞こえてきたから振り返っただけなのに、その先には真っ白の空間しかなかった。壁、ではなく、白い空間だった。触りにいけば何かがあるのかもしれないが、白という色が全てを歪ませて、無限の空間のように感じる。

かくれんぼをしていたはずだった。相手がいたはずなのに、振り返るまではそれが誰だったかは覚えていたはずなのに。振り返った瞬間に全てが真っ白になってしまった。自

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覗いてごらん

覗いてごらん

ほら、覗いてごらんよ。そうそう、そのまま。ほら、見えるでしょう。何が見えるかな。そうだね、うん。そう、その望遠鏡はね、見えるものは見えなくて、見えないものが見えるんだ。見える角度が狭いけれどとっても高性能の望遠鏡なんだ。高性能とは違うかい。まあいいじゃないか。君はそういうのを欲しがっていただろう。そうやってすぐ「他人」と違うものを欲しがる君は。今日の服だってどうしたのさ。かわいいバルーンパンツにも

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いつまでも

いつまでも

シャワーを浴び終え、浴室から少し高い段差を降りオフホワイトのような色の珪藻土マットに水滴が落ちる。リビングからは下品な笑い声が聞こえる。僕の知らない声、何かのタレント番組、もしくはつまらないYouTubeを見ているのだろう。身体を拭き終え、首元はまだ乾き切らないまま、ネットショッピングで生まれた畳めていない嵩張る段ボールがキッチンに積まれている。そんなものを横目にリビングに戻る。知らない声の中で“

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