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陣中に生きる—11『昭和十二年 九月二十五日、二十六日』

割引あり

九月二十五日

動員完結。
高田練兵場において軍装検査。

後記 軍装検査について。

この度の動員第一日は、自分が応召した日だったのか、それとももっと早かったのか、それは不明である。
とにかく、自分が入隊してからでも十五日かかって、ようやくそれが完した。
ということは、この度の部隊編成はかなり大規模なものであり、その上新兵器がとり入れられたり、輸送が複雑だったり、いろいろな事情があったものと思われた。


軍装検査は、高田練兵場で実施された。
片道二粁くらいだったと思うが、完全武装の行軍であり、人馬ともまだ馴れていない。
大へんな重みが全身にかかり、体中が強く圧迫され、しめ付けられる。
このようにして立ちつくすことは、歩いているよりずっと辛い。

ことに直立不動の姿勢は、心身の緊張であり、硬直によって血行を悪くするので頑健なものでも、たちまちあぶら汗が流れるほどである。
この時も、情けないことながら、倒れたものが少なくなかった。

そういう自分もヘトヘトになり、目もくらむばかりだった。
しかし、倒れたんでは恥さらしであり、士気にも影響するので、歯をくいしばって頑張りぬいた。


この時部隊長の訓示の中に、
「戦争は失敗の連続である。そこで大事なことは、同じ失敗を繰り返さぬよう、最善の努力をすることである」
といった意味の一節があった。

つまり、一つ一つの失敗に失望落胆することなく、さらに一だんと奮起して、七転八倒の頑張りをせよ、ということである。
自分はこれを聞いて、<なるほど!>と思った。
勝ちたい気持は、味方も敵も変わりない。
そこでどちらも、虚々実々の戦法で精魂の限りをつくす。

したがって、相互に失敗の連続ともなろう。
この訓示は、平時における処世訓としても、銘記に価する。
自分はこのように受取ったので、今だにハッキリと記憶している。

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