前編:地方とベンチャーとエコシステム(北海道を題材にして)
サッポロバレーagain~IT&ライフサイエンスが盛り上がるための都市の条件&地方でスタートアップが盛り上がる諸条件についての考察からソラチビールの衝撃まで~
全然関係ない話で、かつ長いタイトルでスタートします(マジ長いっすね)。皆様、SORACHI1984というビールを皆様ご存知でしょうか?
サッポロ SORACHI1984 | ビールテイスト | サッポロビール (sapporobeer.jp)
僕が、このビールに出会ったのは、まだ緊急事態宣言が出る前の札幌。出張の後、1日休みを取って、北海道出身の友人と合流。昼は、(回転しない方の)根室花丸でプリプリのホタテを堪能し、夜は、八仙で世界一の塩ジンギスカンを堪能(本当に、この塩ジンギスカンを食べると世界が変わってしまいます。食べる際には覚悟を決めてください)。
澄川のクラフトビール(深津ミシュラン的には、澄川ビールさんのラガービールが、北海道で一番コクがあるように思います。実際、相当濃く作っているとのこと)をエンジョイしつつ、さて、深夜はバーで締めましょうということでふらついていたところ、狸小路に某バーを発見。そこに入って、ビール好きのマスターに進められるがままにSORACHI1984を注文。一気に口の中に含んだところ、
「なんじゃこりゃーーー!!」
と、松田優作オマージュのベタな発言。ヒノキのような香りが鼻に抜け、今までに味わったことがない上品かつコクがあるビールでした。以後、飲んだことない人には必ず勧めているビールです。
東京でもどこでも買えるものなので、良かったら試してみてください。先日も、海外からのお客さんにSORACHI1984を勧めたら、バカ受けだとの報告を受けております。最近は、カクヤスなどを通じても購入できるようになりましたので。ビール好きな人は、是非、一度手に取っていただけましたら(東京でドラフトで飲める店は大変貴重なので、ドラフトで飲める店を日々ストックしております)。
さて、このビールがあったからってわけではないのですが。札幌の独自性に対するリスペクトがさらに強くなり、以後、継続的に札幌関係者と関わらせていただくことになりました。
10月28日(金)には、18時よりこんな講演をさせていただきます。
「寄り道BIラボ:札幌におけるライフサイエンス&IT領域のエコシステム形成」
内容は、先日、(以下に引用する)虎ノ門CICで実施した10分間keynoteスピーチの内容をより詳細に説明するイメージです。CICでは、バイオテックを想定してスピーチをしましたが、今回は、ヘルステックを想定し、IT領域をメインに、講演&ディスカッションをさせていただく予定です!!
参考動画:メンバーに恵まれたこともあり、日本のバイオテックの問題点やトピックについて8割くらいはカバーできていると思います。バイオテックベンチャーに興味がある人は、是非!!!
バイオテックとエコシステム(8月のCICでの登壇の様子)
ベンチャーと街
さて、枕の話はこの程度にして、本題に移りましょう。今回のキーワードは、「街」「地方」そして、「ベンチャー」です。
ベンチャー企業発展のために必要な要素として、「街」や「地域」というものがあります。ライフサイエンス系ベンチャー業界の中では、常識中の常識なのですが、例えば、創薬という観点では、アメリカでは、スタンフォードのような西海岸ではなく、ボストン一択になってしまっております。これって、意外に思われる方も多いのではないでしょうか。
このボストンの成り立ちにつきましては、政策研レポート59号に詳しいので、興味がある人は、是非覗いてみてください。
刊行物/政策研ニュース|医薬産業政策研究所 (jpma.or.jp)
上記引用レポートを読んでいただければ分かると思うのですが、成功している、もしくは成功に近いとされている各種バイオベンチャーが、ボストンでも研究を進める理由は、ここにあります。実際、最近で成功したと言われているモダリス社もボストンに研究拠点を有しておりまして。バイオ領域での本物の成功を目指していく上では、欠かせない場所になっていると思います。
実際、FTIのキャピタリスト(中原、二見、原田、厚見)には、ボストンでの勤務を経験している人が多く。
「ボストンいいっすよー」
という話しか聞かないので。羨ましいなあと思いつつ、いつか経験してみたいなあと思いつつ(メジャーリーグを経験してみたいなあと思う日本のプロ野球選手の気持ちと似ているのでしょうか)。
さて、では、日本ではヘルスケアベンチャーの街とはどこなのか? もちろん、本郷はその候補の1つではあるのですが、民間企業の密集度が低いという欠点がありまして。。。。じゃあ、民間企業が多い、日本橋(LINKJ)はどうなんだ?というと、確かに素晴らしいのですが、今度はラボを持つことが土地柄難しいという難点があり(研究では、危険物を扱うこともあるので規制が厳しいのです。ただ、ここはロビイングを通した法律改正で何とかなる部分ですが)、それじゃあ、研究所が多い筑波はどうなんだ?となると、都市である東京から遠すぎるという難点があります(ただ、筑波は秋葉原から1時間程度で行けるし、製薬企業の研究施設・研究者も多いし。何故、盛り上がらないのかは要検討。というか、筑波に関する仮説がありましたら是非ご共有ください!!)。
これらの現状をまとめると、次のスライドのようになるでしょうか。
他にも多くの候補があり、かつ、候補どころかすでに結果が出つつある場所も多いのではありますが。どこも決め手には欠けている印象があり。その印象の通り、実際のところ、日本においてライフサイエンスの街を1つに限定する必要はなく、各地域に分散させつつ、それぞれが個性を発揮すればいいじゃないか?そんな考え方もありだと思います。
ただ、イノベーションを起こすためには、face to faceのコミュニケーションが偶発的に起こる場所が欠かせないと思いますので。今のところは、本郷三丁目と日本橋を行ったり来たりすることを前提に、適宜日本各地に積極的に出向くしかないのかなあという実感です。
地方ベンチャー発掘に向けた悩み
今回は、詳細は省きますが、地方大学にも良いベンチャーのシーズはたくさんありまして(それが故、例えば、各ファンドも地方シーズに投資を実行しておりますし、僕の所属経験のあるファンドも東京以外のシーズに投資をしております)
どうやったら、地方に確実にリーチできるのか、その方法論について、常に頭を悩ましているものであり、現状は、草の根活動しか手段がないというのが正直なところでしょう。
僕たちのような東京のキャピタリストが地方と東京都を行ったり来たりすることには限界があり。かといって、地方でVCのキャピタリストやファンドマネージャーを見つけようと思っても、地方に投資家経験者はほとんどいないという問題があり。
(故に、仮に、地方に独自ファンドを設立したとしても、東京の投資家人材に委託という形で運用を任せざるを得ません)
じゃあ、大学の研究集約&交渉担当の窓口とされるTLOを活用し、各VCは各大学のTLOにアクセスすれば大丈夫じゃないの?
そんな疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。
残念ながら、大学のTLO組織が、それぞれの大学の研究に詳しいかというと。。。。。。。
というのも、日本の大学TLOの方々は、海外のTLOのようにラボミーティングを回って目利きをしているわけではないですし、そもそも産学連携本部など大学内の他組織との連携もそこまで取れているわけではありません。海外のTLOの業務範囲と日本のTLOの業務範囲がそもそも異なることに理由があるのかもしれません(故に、上記状況はTLO単体の問題ではないのかもしれません)。
やや辛辣かもしれませんが、先日、CICでは、このようなスライドを用いて産学連携の在り方についてディスカッションをしました。
故に、現状の産学連携プロジェクトは、「たまたま、研究者の意識が高く、アウトリーチ活動が盛んで」「たまたま、TLOの活動ネットワークに引っかかり」「たまたま、投資家につながることができた」。そういった偶然と一部のネットワークによる産物であると認識すべきでしょう。
投資家がその目利きとコネで必死に探す一方、研究者サイドも見つけてもらえるように工夫をする。そういった双方の頑張りを前提に、偶然の火花が生じることにかけるというのが、今の大学発ベンチャー設立の背景になるでしょう。全然体系立てられてないのが悲しいですね。。。 大学付近でVCをさせていただいている身としては、この領域について思うところもあり、もう少し、確率を上げるための工夫ができたらなあと考えております。
大学発の研究は、ベンチャー化された際のホームラン打率が民間のそれよりも高いが故、この状況が現状維持でいいとは到底思えません。今は、草の根活動だったり、部分的委託だったりでしか対応できないのかもですが。できる限り早々に改善が求められるところです。個人的には、地域のシーズを発掘する専門部隊が必要で、当該専門部隊が一定程度発掘・育成させた後、適切な投資家にバトンタッチできる仕組みがあればなーと感じております。
問題意識としては、うまく投資家サイドがリーチしきれないが故、過小評価されている地方のシーズをどのようにすくい上げるのか悩む毎日です(僕たちが見落としているだけのものはたくさんあるはずで。それをうまくすくい上げることこそが、ライフサイエンス系VCがやるべきことだと思いますので)。
札幌には、すでに土壌が整っている?
話を戻しまして、札幌に。実は、某有識者ともディスカッションをさせていただいたのですけれども。札幌は、もうベンチャーを育てる土壌(ex、メンター、ファンド)ができているかもしれない。つまり、
「最も足りないのは、実際にベンチャーを起こしたいという人材」
なのではないかという仮説に至っております。さて、北海道(札幌)はどのような段階にいるでしょうか??
このあたりの議論を、10月28日(金)に大久保さんとのディスカッションで深めつつ、後編を記述していければなあと思います。
では、人材を少しでも増やすために何をするべきか。ざっくり次の3つではないかと考えております。
① 成功のロールモデルが存在しないこと(あいつにできるなら自分にも。。。とならない)
② 身近に相談できる人が少ない
③ 起業時の最低限の地雷を回避する教育がされていないこと(堕天使系メンターやエンジェルが駆逐されていない)
このうち、③については、かなり大きな問題点だと感じておりまして。何も知らないベンチャー起業家が、堕天使系メンター・エンジェル・VCに食い物にされ、ひどい株主構成になっているのを見ると本当に心が痛みます。
(ツイッターやメディアで、「日本のベンチャーを盛り上げるために」と謳っている有名VCの中には、「お前、こんなひどい投資の仕方(今後、他のVCが入ってこれないような形で、かつ、創業者などの持ち株比率・議決権比率が著しく低い形の投資の仕方)をしてて良くそんなこと言えるな」というVCも少なくありません)
僕自身、この問題解消に向け、至る所でレクチャーしているのですが。ベンチャー側が勘違いしてはいけないポイントは、次のようにまとめられると思います(とにかく詰め込んだ、後で振り返るようの資料なのでビジーで申し訳ありません)
ちなみに、これって地方だけの問題ではなく東京でも複数見られている現象です(ただ、それでも地方の被害は特にひどい)。有名企業、有名大学出身なのにも関わらず、この株主関連のことに騙されている人はかなりいます。どこかのタイミングで、分厚く書こうとは思いますが、
「創業しようと思ったら、専門家に何度も何度も相談。しかも複数の専門家に!!」
ということは、強く意識していただきたいです。ここには、いくらお金をかけてもかけすぎではありません。中身である事業や人材なんでどうでもいいです。まずは、資本政策と株主間契約!!ほんこれ。
なので、ライフサイエンス領域に限った話ではありませんが、やはり街(クラスター)はとても重要で。すぐに相談できる環境というのは極めて大事だと思いますし、相談の時期は早ければ早い方がいいからです。人の物理的距離が近ければ、心理的距離も必然的に近くなりますので。騙す側に対する淘汰圧も強くなりますし、潜在的被害者のディフェンス能力も高くなります。
街(クラスター)形成が不十分な現状、潜在的被害者の唯一のディフェンス方法は、とのもかくにも相談です。まだ、妄想の段階で構わないので、すぐに相談するべきですね。相談される側がそれで迷惑に感じることはありません。
そうはいっても、、、、誰に相談していいか分からないし、相談するのは気も引けるし、、、となってしまう事情は分かっていて。それでも、少しでも被害者を減らしたいので、いつまでも僕は言い続けますし、東京から地方まで駆け回り続ける所存です。
最後に
話はあちこち飛びましたが。街、さらには地方というキーワードは、とても重要です。それは、エコシステム形成を前提としたイノベーション促進の点でもそうですし、堕天使系メンター・エンジェル・VCを追い出す上でもそうです。
本来、こういう堕天使系のプレーヤーは、評判がすぐに広まり、即退場になるはずなのですが。サークル制度が未成熟であるが故、今でも堕天使系プレーヤーは、ベンチャーコミュニティーの中に浮遊しております。
僕は、いちベンチャーキャピタルに過ぎませんが、少しでも街づくりに貢献できたらなと思っております。最近は、北海道での仕事を受けることが多いですが、僕の第2の故郷である新潟での活動でしたり、さらには沖縄での活動でしたり。幅広く進めていきたいと思っております!!
今日は、こんなところで。また次回!!
※参考文献
冒頭の方で告知させていただいたが、セミナーに一緒に登壇するPOLARの大久保さん。
実は、札幌ベンチャーの歴史的経緯について大変分かりやすいnoteを執筆してくれております。地方ベンチャーに興味がある人は、是非、ご一読を!!
かつて"サッポロバレー"と呼ばれた街が、再びスタートアップシティになるために。|大久保徳彦(Nori Okubo)|note
やっぱり、街って重要ですよね。街とベンチャーについては、講演での質疑応答の内容も踏まえてまた記載させていただけましたら!!
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