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鉛筆を肥後守で削るわけ

肥後守と言っても、今の若い人には分からないかもしれないですね。僕らが子供の頃はたいてい一人一つ持っていた簡易ナイフのことです。簡易といっても折り畳み式の結構ちゃんとしたナイフで、高級なものは鋼を挟んだ日本刀と同じような構造のいわゆる和式ナイフでした。昭和40年代の子供たちは肥後守を使って工作をしたり色々なものを切ったりしたのですが、一番よく使ったのは鉛筆を削ることにでした。

もちろんれっきとした刃物なので使い方を間違えると指を切ったり酷いケガをするケースもあります。危ないので使わせないようにしようとする大人も一部居ましたが、幸か不幸か僕の周囲ではそういうことはなくずっと肥後守を使っていました。

一度など、母親が不在のときに指を垂直に当てて刃を起こそうとして、ざっくり切ってしまったことがあります。泣きながら近所の家に駆けこんで治療を頼んだのですが、ダラダラと流れる血を見てその家のおばさんの手が震えていたのを今でも覚えています。

僕は今でも鉛筆でアイディアを書くことが多く、その鉛筆は肥後守で削っています。シャリシャリと上手く削れる金属製の鉛筆削りも持っているのですが、どうも手で削らないと調子が出ないのです。

もちろん鉛筆削りで削った方が綺麗に削れます。ただ何十年も肥後守で鉛筆を削って来たので、フリーハンドでもかなりの程度まで整えて削ることが出来ます。そして何よりも、鉛筆を削ることに集中する時間は、頭をクリアにして雑念をリセット出来る大切な時間なのです。他のことを考えずにただひたすら鉛筆と肥後守に集中する時間。砥石で刃物を研ぐことにも似た、僕にとってはかけがえのない集中タイムです。

今となっては、本家本元の肥後守を造っているのはただ一人になってしまいました。永尾かね駒製作所という兵庫県三木市の小さな工房でしか本物は造っていません。いずれ入手できなくなることを恐れて何十本も購入し大切に保管してあります。僕が死ぬまでの分くらいは大丈夫だと思います。

今日も無い知恵をしぼって色々な課題についての解決策や提案を考えるときに鉛筆と肥後守が活躍しています。アナログと言われようが何と言われようが、こればかりは僕の外せないルーティンなのです。

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