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ディラックの業績と美へのこだわり
前回、超関数を触れる流れでディラックのデルタ関数を取り上げました。
ディラックは、専門家の間でも評価が高い物理学者です。公開情報をもとに、彼の主な業績について触れてみたいと思います。(タイトル画像はWikipediaから)
以前にNHK「神の数式」という特集の中でも取り上げられ、ディラックが打ち立てた方程式を見て、感動で涙を出した研究者もいたそうです。
ディラックが目指したのは、電子の運動について、当時シュレンディンガーが創った方程式(元々はド・ブロイの物質波のため)だけでなく、特殊相対性理論の効果を取り入れることです。
(過去に近い試みでクライン-ゴルドン方程式がありましたが、理論的な課題が克服できませんでした)
特殊相対性理論のなかで重要なのは、時間と空間は相対的であり、光速だけが絶対的に不変である、という原理です。
そこで、回転や移動に対して対称な変換と同じように、時間と空間を変換しても対称となるように理論を組み立てます。
これが1928年に発表された(こちら)ディラック方程式です。
ただ、それを解くと、負のエネルギーが解として現れるという非常識なこと起こります。電子は通常エネルギーが低い状態に落ち着こうとするため、これだといつまでも安定しません。
ここでディラックは飛躍的な発想を持ち出し、
「真空(エネルギーの底)は負のエネルギーで充満しており、その欠落した隙間(正エネルギー)が陽子である」
と唱えます。
今でもこの負のエネルギー充満モデルは「ディラックの海」と呼ばれます。
この理論を提唱後の1932年、この予言した正のエネルギーを持つ粒子をディビッド・アンダーソンが実験で見つけ、「陽電子」と名付けられます。
ディラックは、電子の量子論的(ミクロ)な動きがマクロで長年使われてきた古典的な力学(要は最も効率的に動こうとする原理)と類似している点も指摘します。
ただ、彼の理論に基づいて電子の運動を計算してしまうと、どうしてもエネルギーが無限大になるという矛盾に直面してしまいます。
そのディラックの研究をきっかけに、電子の動きを経路ごとに足し合わせる大胆なアイデア(経路積分)を発想したのが、以前紹介したリチャード・ファインマンでした。(そして佐藤幹夫を指導した朝永振一郎です)
つまり、この時期にディラックが提唱した理論・モデルを下敷きに、後年にその理論がより豊かな土壌に広がっていったわけです。
ディラックがこだわっていたのは「美しさ」だったといわれています。
NHK番組で引用された彼の座右の銘を引用しておきます。
物理法則は、数学的に美しくなければならない
物理学での美しさとは、「対称性」を指します。
初期論文でいえば、ディラックは時空の対称性(ローレンツ対称性)にこだわりました。
そして「ゲージ対称性」「非可換ゲージ対称性」というさらなる「対称性」を、後年にバトンを引き継いだ天才たちが考案し、万物の理論候補「超ひも(弦)理論」へと駆け上がっていくことになります。
ディラックの才能は若くして評価され、30歳にしてニュートンも就いていた最高位の数学名誉職「ルーカス教授職」に就任します。
ディラックの2つ先の後任が「スティーブン・ホーキング」で、その次が超ひも理論をシュワルツと共に確立した「マイケル・グリーン」です。
この天才たちが紡いできた「対称性」を、涙を流せるほど感動出来るよう「審美眼」を磨いていきたいと思います。
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