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エネルギー問題と核分裂発見物語

エネルギー問題が世界的に注目され、日本でも安定電力確保のため、原発再稼働含めて検討する方針です。

原発の燃料はウランが主流です。石油と異なり、その原産国はオーストラリア・カザフスタン・カナダなど、比較的政治が安定している国にも散らばっています。

悩ましいのは、天然ウランはそのまま使うことができず濃縮する必要があります。
その濃縮可能な工場を持つのがロシア系企業が世界最大のシェアを誇っているため、中長期的には世界レベルでサプライチェーンのリスクを抱えることになります。

エネルギー問題は政治判断が絡むのでこれ以上の言及は避けます。

今回は、原子力発電獲得のきっかけとなった「核分裂」発見の物語について触れてみたいと思います。

時代は1938年のドイツにさかのぼります。

ドイツの物理学者「リーゼ・マイトナー」と化学者「オットー・ハーン」が、ウラン原子の核が分裂することを世界で初めて発見しました。

1912年のハーン(左)とマイトナー(右)

厳密には、ユダヤ人であったマイトナーは1938年にはすでにナチス迫害から逃れるためドイツを離れていましたが、二人は何十年も研究を共にして信頼が厚く、この実験結果についても手紙でやりとりをしていました。

元々彼らは分裂させることを目的にしていたわけではありませんでした
エンリコ・フェルミが以前に理論的に提唱した、中性子をぶつけて超ウラン(ウランは天然元素で最も重く原子核内に92個の陽子が存在)を作ろうとしていました。

同じことを目指していた研究グループはいくつかあり、そのうちの1つキュリーーサヴィッチのグループでは、なぜか逆に軽い元素となったという奇妙な報告もされていました。

「そんなはずはない」とハーンは助手と実験を繰り返すと、やはり同じ結果となりました。
もしかしたら・・・と元素同定解析を行うと、陽子の数が(92個の)ウランより36個も少ないバリウム(56個)であることがわかりました。
つまり、ほぼ重さにして半分の元素に変身してしまったわけです。これをどう物理的に解釈すればよいのか、ハーンは頭を抱えて唯一といっていいほど信頼している物理学者マイトナーに手紙で相談しました。(近い発見や予言をした研究グループとの競争も頭にあったと想像します)

現代の我々は核分裂をしっているので、なんで分裂したとすぐ解釈しなかったのか?と不思議に思うかもしれません。

当時は、原子核を構成する核子(陽子と中性子)をつなぎとめる電磁気力よりもはるかに「強い力」の存在がわかっていました。(初めてこの核力を解明したのは日本の湯川秀樹氏)
そんな強い力をはねのけて原子核を分裂させることは、当時の常識では考えにくかったわけです。

マイトナーは、当時世界最高峰のボーア研究所に勤めるフリッシュ(甥でもありマイトナーのドイツ亡命を支援)と考察を深め、「液滴模型」と呼ぶモデルを提唱しました。

ざっくりいうと、中性子の衝突が原子核の表面を振動させて、核をつなぎとめている強い力(表面張力)をも打ち勝つ可能性を提唱しました。
天然の元素で最も陽子(お互いは反発しあう)を抱えるウランは、中性子1つがぶつかっても崩壊するほど不安定な存在だったということです。

出所:Wiki「核分裂の発見」

ただし、まだ解くべき謎が残っていました。

マイトナーは、分裂後に粒子が持つ運動エネルギーを2億eVと算出しましたが、このエネルギーの出所はどこから来たのか?
無から生じたとすると「エネルギー保存則」に反します。

そしてもう1つ。
分裂後の原子核質量を足しても元のウランより軽くなっていることも測定の結果わかりました。これは「質量保存の法則」に反します。

物理学者マイトナーがそこで思い浮かんだのは、アインシュタインが打ち立てた伝説の等式「E=mc2(二乗)」です。
特殊相対性理論によると、エネルギー(E)と質量(m)は等価であることが示されていました。
そしてまさにこの欠損した質量を上式に当てはめるとピタリと2億eVに一致しました。

マイスターは、知り合いの生物学者から「細胞分裂」という言葉を聞き、この現象を「核分裂」と名付けて論文をフリッシュと発表しました。

これが核分裂発見の物語です。

人類が初めて獲得した核分裂によるエネルギーは、たまたま勃発していた第二次世界大戦の爆弾として注目され、歴史的な悲劇を生んだのは周知のとおりです。

とはいえ、それが戦後に原子力発電というエネルギーを生んだという見方もでき、核分裂の発見は単なる二元論では片づけられません。

そして今は、次世代エネルギーとして逆の作用にあたる「核融合エネルギー」も注目されています。(太陽など恒星が光り輝くのもこの原理)

常に歴史の光と闇を受け止めつつ、同じ過ちを犯さないように、スマートにエネルギー問題と付き合っていければと思います。

<主な参考文献>

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