見出し画像

NASAの歴史7:SpaceXとの出会い

前回のNASAの歴史では、ソ連に次ぐ新たなライバル「中国」との関係について触れました。

ようは、一時期ロケット不足で衛星打ち上げを中国に委託していたが、技術盗用リスクや軍事強化を警戒し、21世紀になって競争を繰り広げている、ということです。

1986年と2003年のスペースシャトル事故によって新たなロケット開発は難航し、しかも21世紀になると「ISS(国際宇宙ステーション)」が稼働するため往還機会が増えてきます。

これらの背景を受けて、NASAは1990年代よりISSへの物資輸送を国内の民間企業に任せる路線を選択します。

これは「商業軌道輸送サービス(COTS)」と呼ばれ、初の公募を2006年に行いました。

そして、これを勝ち取ったのがオービタル・サイエンシズとスペースXの2社です。
特に、この受注から、苦難の道を潜り抜けて大躍進を遂げていくのがスペースXで、今回は主にこの企業とNASAとのつながりを中心に紹介します。

まず、ロケット事業会社スペースXは、2002年にイーロン・マスク氏が、当時PayPalを売却した資金(大体数百億円)を元手に立ち上げました。

過去に彼の事業遍歴を投稿したので引用しておきます。

実は上記の公募直前に、DARPA(国防総省のR&D組織で、NASA創設時の1候補)のロケットプロジェクト公募にも選ばれており、これが初の政府からの受注案件となります。

が、このプロジェクトでは、ロケット打ち上げに失敗します・・・。
苦いデビュー戦ですね。

そしてNASAからの上記受注案件も、3回連続でロケット打ち上げに失敗します。今の飛ぶ鳥を落とすスペースXの勢いからは想像しにくいと思います。

当初NASAとの契約は約2億8千万ドルと言われ、日本円にして大体400億円ぐらいです。
ロケットを打ち上げる費用感はピントこないと思いますが、超ざっくりいうと100億円ぐらいと思ってください。
スペースXが売りにしていたのは「完全再利用型」で、60億円ぐらいをターゲットにおいてました。(但し再利用型に成功するのは先のことです)

これとマスク氏の自己資金(+VC資金)を合わせると、3回(+DARPAでの失敗)の失敗を重ねると相当資金繰りが厳しいことが分かります。

そして運命の4回目に、初めての打ち上げ成功を収めることになります。

当時のイーロンが追い詰められている状況は、Netflexが2022年に制作したドキュメントでも見ることが出来ます。(ちょっとひねくれた言い方をすると撮らせておく余裕はあったようです)

成功した直後の2008年に、今度はリーマンショックで資金繰りに苦しみました。
このときは幸いにも、NASAによるISSへの補給サービス(COTSは輸送機開発のみ)の公募にも選ばれ、契約金約15億ドルを得ることに成功します。
まさにスペースXの立ち上げ期はNASAが全てといってもいいです。

余談ですが、マスク氏はこの年にEVテスラのCEOにも着任しており(元々は出資役)相当苦難な時期だったと想像します。

次にNASAが決断したのは、物資でなく「人を運ぶ宇宙船」の民間への委託です。何度も選考を重ねた結果、ボーイング社と一緒に選定されました。

勿論NASAが単独で決めたわけではなく、あくまで大統領を中心とした国家方針が背景にあります。

ちょっと流れを遡ってその経緯を触れておきます。

コロンビア号事故の翌年に当たる2004年に、当時のブッシュ大統領がスペースシャトル引退の発表とともに、有人月面ミッション「コンステレーション計画(Constellation program)」を実施する方針を示しました。

ところが、2009年に就任したオバマ政権では、「オバマケア(保険制度改革)」など、より実用的な路線を選び、月面計画は優先度を下げられます。
その間、前回触れたとおり、21世紀の新ライバル中国は宇宙開発を着々と推し進めます。

そして、強いアメリカを取り戻すべく、2017年に就任したトランプ大統領は、改めて有人月面・火星探査の実施を決定し、それが今の「アルテミス計画」というわけです。

そのオバマ大統領が改定した宇宙政策で、民間への宇宙輸送ビジネス支援も発表されました。


こういった政治的思惑が漂う中、スペースXは限られたチャンスを奇跡的につかんだといってもいいと思います。

勿論時代に恵まれていただけでなく、実力も備えていました。

スペースXの宇宙船「ドラゴン」は、2010年に地球軌道上への無人飛行、2012年に無人飛行でISSへのドッキングを無事成し遂げて、着実に初の有人宇宙船飛行への目標に近づいていきます。

このころには世界的な知名度も高まり、NASA以外の民間企業からの受注も増えてきました。

ただし、売りとしていた完全再利用の象徴ともいえる、第一弾ロケットの帰還を達成するのは2015年までかかり、かつ何度も失敗を重ねました。

そして2020年に、スペースXは正式に飛行の認可を受けることになります。

スペースシャトル引退後10年近くの年月を経て、ついに米国は、自国の民間企業による初の有人宇宙船飛行を実現します。(それまではロシア依存)
途中で引用したNetflixコンテンツも、それを目指したドキュメンタリーですので、もし視聴契約されている方はお勧めします。

下記サイトで、当時の写真が多数掲載されていますので紹介しておきます。

初の有人ミッション成功後も、NASAはスペースXに発注を続けており(日本の野口飛行士もその搭乗者に含まれます)、つい最近もその追加契約のニュースが流れました。

ようは、
追加で5回の有人宇宙飛行を「NASA」が約14億ドル(約2,000億円)でスペースXに発注し、これを含めると、累積14回で約49億ドル(約6870億円)を支払うことになる、
という話です。

今回は民間へのシフトを象徴するスペースXだけにスポットライトを浴びました。
もちろん他にも、例えばジェフベゾスがスペースXと同時期に立ち上げたブルーオリジンなど、新興企業は数多く存在し、競争を繰り広げています。

いずれにせよ、こういったベンチャー企業に任せたことで、NASAはより管理機能を帯びたものの、コストダウンは実現出来ている可能性は高いです。(慎重に裏付けしたほうがよさそうですが・・・)
つまり、より他の領域に力を注げられる可能性が広がったとも言えます。

次回は「科学への貢献」の視点で、NASAの関わりについて触れてみたいと思います。

※タイトル画像Credit: NASA(宇宙飛行士 CHRIS CASSIDYがドラゴンのドッキング風景を撮影)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?