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【back number『怪盗』創作シナリオ】「まだ見ぬ眩しい世界」

【登場人物】
紗和…高校2年生。女子。学校の時間は、いつも公園にいる。
…29歳。男性。小説家。


〇9月某日。お昼過ぎ。
都会の、街はずれにある公園。

制服姿の紗和、ブランコに座り、音楽を聴いている。

そこに、コンビニ帰りの部屋着姿の澪が通りかかる。
紗和の姿を見て、少し考えてから公園に立ち寄る。

ベンチに腰掛け、鞄からB5サイズのリングノートを散りだす澪。
その隣には、紗和の荷物が置いてある。

紗和、澪の存在が気に障り、ブランコから立ち上がり、ベンチに鞄を取りに行く。

澪、ばれないように紗和の様子を横目で観察する。

紗和、鞄を肩にかけ、公園を出ようとする。
その時に丁度、鞄からハンカチが落ちる。
澪、それを拾う。

澪「…あの!」

紗和、振り向く。
澪、紗和にハンカチを見せる。
紗和、速足で澪に近付く。

紗和「…どうも。」

紗和、ハンカチを取ろうとする。
澪、ハンカチを上に上げ、紗和が取れないようにする。

澪「いつもいるよね、この時間。」
紗和「…。」
澪「何聴いてるの?音楽。」

紗和、振り返り公園を出ようとする。

澪「ごめん!その、いつも見てるとかそんなんじゃなくて、単純に気になって。」

紗和、足を止めない。

澪「…蒼東高だよね。…『Sawa』」

紗和、足を止める。澪の方に振り向く。

澪「書いてあった。素敵な刺繍だね。これ、君が?」
紗和「チクるんですか?学校に。」
澪「…そんな面倒なことしないよ。」

紗和、澪に近付き、「返して」と手を出す。

澪「…じゃあちょっと教えて、君のこと。」
紗和「警察呼びますよ。」
澪「じゃあ僕も学校に言うよ。」
紗和「…。」

紗和、溜息をつき、肩から鞄を下ろし、ベンチに腰掛ける。
澪、笑みがこぼれる。紗和の隣に座り、先勝ってきたビニール袋からコーヒー缶を出す。

澪「飲む?」
紗和「…ダメなんです、カフェイン。」

澪、コーヒー缶をしまい、ファンタグレープを紗和に渡す。

紗和「…どうも。」
澪「彼女が好きなんだ。炭酸は平気?」
紗和「はい。…彼女いるんですね。」
澪「ごめんけどナンパじゃないよ、ごめんけど。」
紗和「謝られんのはむかつく。」
澪「ごめんて。」

紗和、缶を開ける。
澪もコーヒー缶を出し、開け、啜る。

澪「気になったんだ。単純に。学校サボって乗るブランコの上で聴く、女子高生の音楽。」
紗和「それ言ったら帰っていいですか?」
澪「帰れるんだ。」
紗和「…。」
澪「ごめん。…僕小説家なんだ。」
紗和「え?」
澪「あ、名前は内緒ね。」
紗和「あぁ。」
澪「読む?小説とか。」
紗和「…ごめんなさい。」
澪「いやいや。若い子で読んでる方が珍しいからね。」
紗和「字が苦手で。眠くなる。」
澪「あー、僕もそうだったなぁ。」
紗和「小説家なのに?」
澪「小説家でも、ずっと小説が好きだったわけじゃないよ。僕も大学になるまで読んだことなんてなかったし、現代文も評価2だった。」
紗和「小説家、なのに?」
澪「人によるよ。僕はそういう小説家。人生どこで何が起きるか分かんないよ。」
紗和「…ふぅん。」

紗和、缶をすする。

澪「それで、気になったんだ君のこと。」
紗和「要するに、小説のネタにしたいってことですね、私のこと。」
澪「まぁそうなったらいいかな。」
紗和「そんな面白いもんでもないですよ。」
澪「それは僕が決めるよ。」

間。

澪「話したくないんだったら無理強いはしないけどね、ほんとに、」
紗和「大丈夫ですって。ほんとに、つまんないから話せます。」

紗和、スマホを取り出し、澪に画面を見せる。

紗和「聴いてたたのはこれです。」
澪「お、乃木坂。」
紗和「知ってるんですね。」
澪「僕そこまでおじさんじゃないよ。」
紗和「…別にそこまで好きとかじゃないです。ただ、何となく聴いてただけ。ほら、つまんないでしょ。」
澪「誰が好きとかもないの?」
紗和「ないかなぁ。みんな可愛いし。」
澪「へぇ。」
紗和「おじさんさ、」
澪「はい。」
紗和「自分が嵐のメンバーだったらって、考えたことない?」
澪「なんで?」
紗和「嵐の5人ってさ、全員もう立派な歳でしょ、40近いでしょ?知らないけど。でも嵐だから、特別扱いされる。でも嵐じゃなかったら、そこらへん歩いてるただのおじさん。同じ時代生きてきた同じ人間なのに、嵐かそうじゃないかってだけで、人生変わる。」
澪「僕29だよ。」
紗和「それは…ごめんなさい。その、ものの例えで。乃木坂とか、私ぐらいの年の子なんてごろごろいる。みんな可愛くて、特別扱いされてる。…おじさん小説家だからわかんないか。」
澪「僕も売れっ子ってわけじゃないからわからなくはないよ。」
紗和「ほんと?」
澪「うん。特別っていいよね。」
紗和「…別に乃木坂になりたいとかじゃないよ。けど、違う人生もあったんだって。」

間。

澪「君は何か興味あることあるの?」
紗和「別に。明日は晴れか雨かくらい。」
澪「雨だったらどこに行くの?」
紗和「ヨーカドーかな。」
澪「あー、僕も高校の頃よくいったなー。今もよくいくけど。」
紗和「この話楽しいですか?」
澪「楽しいよ?興味深いね。」
紗和「学校行けって言わないの?」
澪「うん。」
紗和「なんで?」
澪「なんで。なんで?」
紗和「いや、普通言うでしょ大人なら。親が心配してるだの、ちゃんとしろだの。」
澪「それは担任とかの仕事だよ。」
紗和「は?」
澪「君と初対面の大人が言うことじゃないよ。てか、行かなくていいよ。」
紗和「…は?」
澪「その方が面白いじゃん。」
紗和「…変なの。」

間。

澪「僕さ、高校生の時、学校行っても1日中寝てたんだよね。寝てるか、マンガ読んでるかしてた。」
紗和「へぇ。」
澪「もったいなかったよねぇ。そんな時間あるんだったらもっとやりたいことやっときゃよかったと思うよ。」
紗和「…例えば?」
澪「…バンドだね。モテるじゃん。」
紗和「不純。」
澪「理由なんて不純なくらいがちょうどいいよ。あとはやっぱあれだな、映画とか撮りたかったなぁって思うね。」
紗和「映画?高校生で?」
澪「高校生が撮った映画とか、話題になりそうじゃん。まぁ話題目当てとかじゃないんだけど。思い出と、…経験としてね。」
紗和「そんなの、高校生で撮れるわけないじゃん。」
澪「撮れるよ。スマホ一つで撮れるよ。大人になったら逆に撮れなくなるよ。」
紗和「なんで?」
澪「”妖怪今忙しい”が出てくるから。仕事の締め切りに追われたり、日々のタスクに追われてね。大人になると生きるのって結構大変だよ。ハハッ。」

澪、笑いながらコーヒーを飲む。

紗和「そんな忙しい大人がこんなところで暇を持て余してる高校生の相手してていいの?」
澪「ほんとはマズい。やることしかないね今。」
紗和「何してんの。」
澪「でもそれより、君面白いから。仕事は何とかなる。」
紗和「面白い。」
澪「興味深いね。」
紗和「おじさん、大人っぽくないね。」
澪「子供だよ残念ながら。」
紗和「え?」
澪「心はずっと中学生のままだから。」
紗和「へぇ…。」
澪「引いた。」
紗和「すみません。」
澪「その方が面白いと思うよ。ちゃんとしなきゃとか、荷が重くて堅苦しくて無理。」
紗和「…私の周りは、そんな人ばっか。」
澪「…それは君にそうなってほしいんだよ。」
紗和「困る。押し付けないでほしい。」
澪「人の価値観って、押し付けられても困るよね。」
紗和「勝手にやってって思う。私は、私のなりたいような大人になる。」
澪「どんな大人?」
紗和「…」

紗和、澪を見る。

澪「ん?」
紗和「…いや。やりたいことに追われてて、でもそれを楽しんでる大人…とか。」
澪「なにそれ人生楽しそう。」
紗和「きっといい人生な感じするよね。あとちょっとバカ。鈍感っていうか。」
澪「あーいいね。バカは地球を救うよ。」

紗和、少しにやける。

澪「何。」
紗和「いや、なんでも。」
澪「君のやりたいことって何なの?」
紗和「そこなんだよね。」
澪「ないのか。」
紗和「何がいいと思う?」
澪「え?」
紗和「おじさんなんかアイデア出して。」
澪「いや、こういうのって自分からポンっと出てくるものだよ。」
紗和「いいから。なんかヒントになるかもしれないじゃん。」
澪「僕が言うと偏るからなぁ。」
紗和「偏るって?」
澪「こう、理想像を押し付けてしまうというか。」
紗和「あるの?理想像。」
澪「いや、君のことはまだ何も知らないから、何だろう、僕が若い頃だったらっていう、押し付けになっちゃうから。」
紗和「言ってみてよ、興味ある。」
澪「えぇ…。」
紗和「興味深い。(澪をまねて)」
澪「いや、なんていうか…それこそほんと、映画を撮ってみたらどうかなって。」
紗和「…あー。」
澪「映画と言わなくても、ほんと撮ってみたいシーンとか、オリジナルじゃなくて、小説から抜き出したワンシーンだけとか。」
紗和「なんで?」
澪「…これは僕の意見と視点だから、気に入らなかったら、」
紗和「わかったから。」
澪「…世界が広がると思うんだよね。まず映画を撮るために君はきっと、色んな小説やドラマや映画とか、色んな作品に触れることになると思う。その時点で、すごく視野が広がると思うんだ。「あ、この世界にはこんな変な人もいるんだ」って。」
紗和「変な人?」
澪「誉め言葉だよ。そこから実際にもっと向き合ってみたい登場人物を決めて、その人の映画を撮る。誰かの人生と向き合うって、本当に面白いんだ。君がさっき言ってた嵐の例えみたいに、本当に色んな人生を歩んでる人がいるから。一緒じゃないんだよ。嵐以外のその他おじさんでも、それぞれにフォーカスすると、それぞれ輝いてたりするんだよ。面白いよね。」
紗和「…誰かの人生を知るために、映画を撮るってこと?」
澪「どっちでもいいと思うよ。映画を撮ったら、誰かの人生が知れたでもいいと思うし。何でもいいんだよ。でも、マジで面白いよ。人の人生を知るって。どんな風に生きてもいいんだって思えるから。」
紗和「…確かに、おじさんみたいな人が他にもいるんだったら、ちょっと面白そうかも。」
澪「そう言ってくれるのは嬉しいな。」
紗和「映画か。…なんかちょっとワクワクしてきたかも。」
澪「物語は作ってもいいからね。」
紗和「作ってもいいの?」
澪「もちろん。君がなりたい人とか、憧れた人がいたり、見た作品から引っ張り出してきて、新しくその登場人物の物語を作ってもいい。決まりなんてないんだから。」
紗和「…決まりなんてないんだ。」
澪「…きっと今から君が出会う新しい世界は、絶対君が想像したことのないくらい眩しい世界だよ。」
紗和「…まだあったんだね、知らない世界。」
澪「高校生で全部知れるほど、甘くないよ世界(笑)。僕だってまだ知らない。」

紗和、缶を一気に飲み干し、立ち上がる。

紗和「おじさん、暇?」
澪「暇じゃないけど、付き合うよ。」
紗和「本屋に行きたい。おじさんの小説買ってあげたい。」
澪「それはどうも。」
紗和「あと映画館に行ってフライヤーも貰っていきたい。」
澪「見なくていいの?」
紗和「今日はお金がない。」
澪「それは大事だね。」

紗和、鞄を肩にかける。
澪、紗和にハンカチを渡す。

澪「悪かったね、引き留めて。」
紗和「面白くなかったでしょ、私の話。」
澪「ううん。興味深かったよ。楽しかった。」
紗和「おじさん。ちょっと期待できそうかも。」
澪「何に?」

紗和、澪にとびきりの笑顔を向ける。

紗和「…人生。」

紗和「行こっ。」

紗和、前を向き、公園を出る。
澪、その姿に少し見とれた後、微笑み、紗和の後を追いかける。

まだ日は暮れない。1日は長い。
太陽と秋風が、二人を見守る。


おしまい


これを書き終えてから、この楽曲のMVを観ました。
まさか恋愛物だったとは…。(笑)
でも私はこのメロディーと歌詞を何度聞いても、
未来に希望のない若者×そこから救い出す大人
の構図しか浮かびませんでした。
私は作中の澪みたいな大人になりたいし、そんな大人が増えれば優しい世界になるんじゃないかな、なんて思ってます。
世界には希望しかない。


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