これはただの夏。
ずっと自由になりたかった。
休む暇もなく走り続ける毎日にうんざりしていた。
抜け出したかった。
ニートがとてもとても羨ましかった。
ニートになりたかった。
人が羨むものをすべて手に入れていた私は
周りからはキラキラして見えていたみたいだ。
だけど全然しあわせじゃなかった。
ブランド物を身につけて
イケメンな彼氏がいて
同世代より多くの収入を得て
花形と言われるキャリアで
20代でタワマンに住んでいた。
可愛くてスタイルも良くて完璧。
だけど心は空っぽだった。
開放されたかった。
すべてから。
TikTokをスワイプするように
インスタのフィードが流れていくように
TwitterのTLに読まずにいいねを押すように
キラキラしたように見えるものなんて
あっという間に消費されて
あっという間に忘れ去られていくものなんだ。
そんなものはいらない。うんざり。
お金もキラキラした生活ももういらないから、
一人にさせてほしい。
私はタワマンを出てキャリアを捨て、田舎に移住して、ニートになった。
色んなことから開放された。
もう気張らなくていいし、何にも頑張らなくていいんだ。自由なんだ。
のんびりと好きなことだけして暮らしている。
ああなんてしあわせなんだ、
そう思っていたのも数ヶ月。
忙しすぎてもだめだけど、暇すぎても人って病むんだなあ。
定年退職を心待ちにしていた人が、
定年退職した瞬間に鬱になることってよくあるらしい。
やるべきことも、誰かから必要とされる環境も、
今まで当たり前に与えられてきた。
そういう場所にずっといたら、そういうものを自分で見つけることってなかなか難しいんだ。
日本の夏がこんなに暑いなんて知らなかった。
当たり前にエアコンがきいている部屋にいて、
当たり前にサマーカーディガンを羽織って凍えていた。
扇風機と蚊取り線香のある夏なんて、何年ぶりだろう。
ヒールも履かず、化粧もせず、
すっぴんでビーサンを履いて外に出る。
自撮りもやめて、インスタもTikTokも更新しない。
キラキラなんてする必要ない、私のままの私でいたい。
合コンにも行かないし、誰かに妬まれることもない。
ああなんて爽やか。
こんな夏もあっていい。
飽きたらまた私は歩き出すから。今はまだここにいたい。
特別なんかじゃない。どこにもない私だけの夏。
そう。これはただの夏。
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