『詩』ほんの狭い世界のなかで
ほんの狭い世界のなかで
あやとりのように指先で
誰かが言葉を操っていると 幾何学模様の
格子のなかに嵌め込まれて
何も見えなくなってしまう
光の反射で空は青く見えるなどと あやとりの
格子のひとつひとつで行き場を無くした
知識たちが 時間をかけて腐ってゆく
ではそのあやとりの 糸は何色?
格子が次第に小さくなって
動悸が徐々に激しくなって 仕方がないので
私はあやとり糸で締め付ける
お釈迦様のように真っ直ぐに立った
あなたの白い十本の指!
その細い指先に けれど
言葉も一緒に絡めとられて
私は息をすることもできない それで
私はすぐに後悔をする、してはならない後悔だけれど
泣き出しては駄目! 悪いのは
ほんの狭い世界のなかで あやとりのように
言葉を弄んだ誰かさんのせい?
あやとり糸は細過ぎて
橋を掛けることすらできやしない おまけに
複雑に絡んだ幾何学模様が 粉々に
言葉を切り刻んでしまうので
私はへたり込んでしまう きらきら光る
砕けた薄いガラスのような
三角形や台形や 四角形や十字形を ぼんやりと
掬い取っては落としながら
もう一度 あやとり糸を紡ぐために
私は知識を拾い上げる 腐ってしまった
知識は半ばぐずぐずと崩れ
そこに汚物のようにあるけれど
その実<ずくし>のような芳香を放って どんよりと
黄色い眼で私を見返してくる
悪いのはすべてあいつらのせい
ほんの狭い世界のなかで あやとりのように
言葉を操ったあの連中の
空が十字に切り取られて赤い血を流す あやとり糸は
あれで染めるのがいいかしら?
あやとりは世界中に、作られる形のバリエーションがあるそうです。僕は不器用で、子どもの頃姉たちに教えてもらったことがあるけれど、何度やっても覚えることができませんでした。
取材やデザインの仕事の関係で高齢者施設を訪問したとき、認知症予防にとご入居の方々が皆でやっていらっしゃいましたね。今の子どもたちはやるのでしょうか?
<ずくし>は完熟した柿のことで、谷崎潤一郎の『吉野葛』で知ったのが最初です。
<ずくし>はおそらく熟柿(じゅくし)のことではないか、と書かれてあり、物語の舞台である吉野のあたりのご馳走なのでは、みたいなことも書かれてあったように記憶しているけれど、ちょっと調べてみると、結構あちらこちらにあったりして、今でも食べることができるみたいです。僕は硬いのより柔らかくなった柿のほうが好きなので<ずくし>は一度食べてみたいとおもうけれど、硬いのが好み、とおっしゃる向きにはお口に合わないかもしれないですね。『吉野葛』の中では、あと数日置いておくと溶けて水になってしまう、ともあったようなので、完熟を通り越してほとんどゼリー状になったものなのかもしれません。
今回もお読みいただきありがとうございます。
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