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『詩』月の昏い夜には

月のくらい夜には南の空の
秋のひとつ星より高い所に 幽かに白い
大きな長方形のスクリーンを張って
サイレント映画を掛けましょう
あなたがずっと好きだった ジョルジュ・メリエスの
あのフランスの無声映画や
喜劇や悲劇や恋愛映画を
一緒に幾つも楽しみましょう


あんまりスクリーンが明るいと
秋の夜空の邪魔になるし 星空が
透けて見えてしまっては
キャストの顔があばたになるし
加減がとっても難しい


暑かった夏がやっと終わって
夜は急に冷えてきたので
ストールやらショールやら
ブランケットが役立つでしょう めいめいに
寝椅子やクッションソファを持ち込んで
夜闇よやみに浮かべ
暖かくしてご覧ください


ひとつひとつはほんの短い
十五分ばかりの映画です その代わり
映画と映画の合間には
雄大な夜空一面に
アンドロメダやケフェウスや
たくさんの星座が煌めいて
神話や歴史の物語を
演じてくれることでしょう


映画のバックグラウンドには
ピアノ曲がお似合いです
あの背の高い鈴懸の上に
八十八鍵のキーボードを置いて
ハモニカのように木を鳴らしましょう
夜闇にずっと鳴いている
虫の声に合わせるように
三等以下の星々と 比べられないよう
そっと音色が混ざるように


ときには俳優たちの顔を
流れ星がぎるでしょう 幾つもの
小さなエピソードの上で 音のない
歌になったり 涙になったり
キャストの想いが燃え盛るように
夜の間 流れ星が
光を放ち スクリーンを
素早く横切ってゆくのです


長い長い夜を過ごして
空が白み始めるころ 上映会は
ようやく終わりを迎えます
夜空が明るくなるにつれ スクリーンに
徐々に映像も溶け込んで
薄くなってゆくでしょう そして
国際宇宙ステーションが スクリーンの
下の縁をなぞるように
南から東へと移動して
プログラムは無事終焉です
朝陽を受けて
鈴懸が紅葉を始めるでしょう





満月のときはこんな詩になったのですが、

今回は秋の夜空を愛でる詩です。
と言っても、そこは素直じゃないので、夜空に巨大なスクリーンを広げてそこに映画を映し出そうという・・・昔、車に乗ったまま映画が見られる「ドライブインシアター」というのが流行ったけれど、あれよりSFチックな発想で、スクリーンも観客も宙に浮いてる・・・映写機はどこにあるんだ! って感じですけど。でも、秋の夜長には似合いそうじゃないですか?

ジョルジュ・メリエスは、SFの先駆的なサイレント映画『月世界旅行』を作った人。月の片目にロケットが刺さった絵をご覧になった方も多いのではないでしょうか? Youtubeにこんな動画がありました。


『スターウォーズ』のような壮大な映画も嫌いじゃないですけど、昔のサイレント映画も好きですね(と、似たようなことを前にも書いた気がする)。このごろは、以前はあまり好きでもなかったピアノ曲を聴くようにもなって、

サイレント映画に合わせるとしたらピアノがいいんじゃないかしらん、そんなふうにもおもってしまいました。でもチャップリンはそこまで好きじゃない。

「秋のひとつ星」というのは、「みなみのうお座」という星座の、魚の口の部分にあたるという、秋の夜空では唯一の一等星、フォーマルハウトのことです。こちらのページなど詳しいですね、今年の情報じゃないですけど。


秋の夜長には、そんな夜空を眺めてみるのもいいんじゃないでしょうか。




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