アンパンマンは実は弱い、だから正義になれる『やなせたかし 明日をひらく言葉』
幼い頃から自然とみていたアンパンマン。
いつも、ばいきんまんをアンパンチで撃退しているから強いと思っていた。
でも、やなせたかしさんはこのように言う。
アンパンマンは世界最弱のヒーロー
確かに、顔が水に濡れるとすぐにふにゃふにゃになって戦えなくなる。どこにでもある水で動けなくなってしまうのだから、いろいろなヒーローの中でも飛びぬけて弱い。
「どうして弱点だと分かっているのに、ジャムおじさんは改良しないんだろう」と小学校に上がるころには思っていた。
でも、ここまで弱いヒーローにした理由がある。
正義を行う人は強い人だとは限らず、普通に弱い。
でも、人がピンチのときには助ける。たとえ、自分の命が失われても。
強い人がヒーローになるのではなく、弱い人が勇気を振り絞って、人を助けようとするからこそ、ヒーローになる。
でも、弱いから、「全員助かりました!めでたし!めでたし!」とはならない。ヒーローは普通に傷つく。時には命を落とす。
やなせたかし作品のヒーローにはそういったメッセージが宿されている。
アンパンマンも、みんなに自分の頭を食べさせると、その部分は必ず、えぐれている。ジャムおじさんに新しい顔は焼いてもらえても、そのえぐれた部分は決して元には戻らない。
文字通り、アンパンマンは自分の身を削ってみんなに食べ物を分け与える。
幼い頃はこのシーンが怖かった。だけど、そのときは意味が分からなくても、「ちゃんとヒーローは無敵じゃなくて生身として傷つくんだ」ということを潜在意識の中に教えてもらえて本当に良かったと思う。
さらに、正義の話はここまでに留まらない。戦うときにも流儀がある。
戦うときは人を道連れにしない。
どんな場合でも責任は自分で負う覚悟が必要であるということと、大人数で戦うと集団心理が働き、悪いことまでしてしまうことがあるからだそうだ。
初めは、正義のため、弱いものを救うためにしていたこともその名分の上に恐ろしいことをしてしまうということは世の中にある。
戦争の時代を生きたやなせさんだからこそ言える、重い響きがある。
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人生論の本は「正論だけど、実際にそうするのは難しいんだよね……!」というものが多くて、私はなかなか最後まで読めない。
だけど、この本は「だから、アンパンマンはこういうキャラクターになっているんだ!」と納得しながら読める。
それだけではなく、その言葉は心の奥にも波紋をつくる。全く押しつけがましさがない。素直に波紋ができる。
こんな想いがつまったアンパンマンを多くの子どもたちがみているのなら、日本はきっと、まだまだ大丈夫な気がする。