アメリカ大統領選挙の開票報道のひどさ（２）

これは（２）です。まだの方は（１）から読むのをおすすめします。

トランプ優勢かのような恥ずかしいテレビ報道

　ところが、テレビ報道などは、トランプが勝つ勢いであるかのように報道していたのである。事前世論調査でバイデンのリードはヒラリーのリードより大きかったことにも、投票先未定層の割合が4年前より少ないことにもほとんど言及していなかった。郵便投票でどれだけ圧倒的にバイデンが有利なのか（7割から8割がバイデンであった）もその時点ではほとんど言及していなかった。で、トランプが勝利する可能性が高いかのように浮かれたコメントを報道していたのである。アメリカに滞在している政治の専門家も、８：２でトランプ勝利、などという予想を出していた。

　しかし、事前の世論調査を分析し、選挙分析をある程度専門とする者は、この時点でも、バイデンが後で逆転するか少なくともかなりの接戦と考えており、トランプの当選確率が高いはと考えていなかったはずである。

さらに詳しい状況の補足

　さらに詳しく書けば、テキサス、オハイオ、フロリダでトランプが勝利していても、それはトランプの大統領当選確率が高いことを全く意味しないのは、アメリカの選挙の情報をある程度収集している人にとっては常識であった。テキサスはもともと共和党の牙城で、そもそも共和党が取るはずの州である（なのに、今回はかなりバイデンが健闘していた、というわけだが）。オハイオは、以前は、「オハイオを制する者が大統領選を制する」傾向があったが、現状はそうではない。今は共和党側に寄っている州である。フロリダは、世論調査に基づく予測では、バイデンが獲得する可能性もあったが、フロリダを取らなくても、バイデンは大統領選に勝つ可能性がそもそも十分に高かった（実際、フロリダは落としたのに、トータルの選挙人数で、それなりの差をつけてバイデンが勝利した）。これらの州で勝ったからと言って、トランプが優勢だということには全然ならないのである。繰り返すが、これは、大統領選のことをある程度知っている者には常識である。過去の認識に基づいて、フロリダとオハイオを取れなかったら苦しくなる、などということを言っているようでは、メディアとして失格である。赤面し、自らの不勉強を深く恥じたほうがいい。

　さらに言えば、そもそも共和党の牙城である、テキサス、アリゾナ、ジョージアなどでバイデンが健闘していた（結局、アリゾナとジョージアはバイデンが獲得した）ことにメディアは十分言及すべき状況だったと思うが、それもほとんどなく、トランプが優勢な原因の分析（フロリダではヒスパニックの移民がトランプに予想より多く投票した、など）のようなことばかり放送していた…。

選挙分析に詳しい人はけっこういる

　問題は、このような重要な選挙報道で、選挙分析の専門家に意見を求めなかったことであろう。選挙については素人だけで番組を構成してしまったのは大きなミスである。アメリカ政治の専門家・特派員などであっても、選挙分析の専門家ではないのだ（ちなみに、蛇足だが、トランプ優勢というコメントをしていた人たちは、心情的にバイデンよりもトランプに当選してほしそうな人たちが多かったように思えた。）。

　選挙分析を職業とする専門家でなくとも、趣味として選挙に関心を持ち、分析してTwitterなどで情報を流している（尊敬すべき）人たちがたくさんいる。自分はそういう人たちの発信からも重要な情報をたくさん得ている。そういう人たちも、当然、トランプの当選確率が高いわけではないことはよく知っていたはずである。選挙分析のプロというとごく少数しかいないように思われるかもしれないが、そうではない。選挙分析にたけた人は日本全国に相当数いるのである。テレビ局が、そういう人たちに助言を求めれば、あんな番組の流れにはならなかったであろう。

メディアは恥を知るべき

　あるいは、番組としては逆転に次ぐ逆転を演出する方がおもしろかったのかもしれない。しかしこうした報道は、誤った印象を視聴者に与える。また、その情報に基づいて株取引などをして、損失を出す人もいるかもしれない。

　こんな報道をしていては、ひいてはメディアの信用を落とすことにもなる。

そして、日本時間5日の朝には、ウィスコンシンやミシガンでバイデンの勝利が確定した。5日の番組では、「昨日とは情勢が完全に変わっていますね！」と、司会者などが驚いたような発言をしていた。何も驚くことはない。郵便投票が後からカウントされるのだから、当たり前だろう。何を言っているのだ。

　日本時間4日には、トランプが事前予測に反して大健闘！などとトランプが優勢のように報じ、5日になったら、バイデンが猛烈に追い上げ、大逆転！のような報道をしていたが、単に当日投票分が普通にカウントされ、郵送投票分がその後で主に開票され、通常の集計が行われていただけである。
そんなバカなことを堂々と発言して、メディアとしての恥じらいはないのか。…と自分は思った。

　自分は、おかしなネトウヨたちとは違い、大手メディアの報道を基本的には信頼しているが、今回の件は、取材力と分析力のなさを露呈したと言えよう。

　本当に、反省してもらいたい。

　今後はきちんとした選挙分析のできる者に解説、情勢分析のコメントをしてもらうよう切にお願いしたい。

（３）に続く！