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セッション定番曲その82:In Walked Bud by Thelonious Monk

ジャズセッションでたまにコールされる曲。定番曲化して欲しいけどなぁ。その理由も書きます。モンクって「好きな人は好きだけど、そうじゃない人は避けて通る」ミュージシャンではありますが・・・
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:モンクはファンク

クセの強い曲、クセの強い演奏、散りばめられた不協和音の響き、変なところにアクセントが付いた構成。生き方もクセの強い人でした。

モンクが活動していた1940年代末頃にも既にモンクの音楽は異端でした。(彼の周りにいたいわゆる「Bebopのミュージシャン達」は理解していたはずですが)
もちろん「'Round Midnight」のような人気曲もありますけど。

でも僕らはその後、ジャズに限らず(ポピュラー)音楽がどういう変遷を辿ったのか知っています。いつのまにか、変拍子も当たり前、不協和音でアクセントを付けるのも当たり前、変なところにアクセントが付いた曲も沢山聴いてきました。ファンクやヒップホップを経由した、現代のポップス曲なんてそんなのばっかりですね。

その「耳」で文句の曲を素直に聴いてみると、「あ、これポップじゃん!」と感じることが出来ますね。特にこの「In Walked Bud」とか「Well You Needn't」とかは完全に「ファンク」曲として聴くことが出来ます。

だから、今こそ「歌う曲」としてもアリな訳です。

ポイント2:「ジャズの耳」から抜け出す


デューク・エリントンが好きな人、チャーリー・パーカーが好きな人、ビル・エヴァンスが好きな人、ロバート・グラスパーが好きな人、それぞれに「好きなジャズ(音楽)」のイメージがありますよね。

現在ジャズが流れている場所というと、某スタバのようなカフェか夜の薄暗いバーでしょうか。完全に「背景」に溶け込むBGMとして流されているので、耳障りな選曲はあり得ませんよね。(実はよく聴くと刺激的なのも混じっていることもありますが。)
ホテルのラウンジやレストランで、インストで生演奏されたり、ボーカル入りで演奏される場合もありますが、やはりその場の雰囲気を壊さないように、音量も表現も抑えめ。

いずれにしても「うるさくない音量で聴く音楽」=ジャズ ということになっていている訳です。音量だけでなく、聴きやすいメロディやスムースな4ビート(無意識にリズムを取ってしまう)などの要素もこれに含まれます。

ところがジャズファン向けの生演奏をしている店(大体狭い)に行くと、意外なほど大きな音で演奏されています。ピアノもドラムもうるさくて(「うるさい」というと語弊がありますね・・・)迫力があります。ステージとの距離の近さもあって、ガンガン響いてきます。それぞれのパートのソロ演奏も本気で刺激的ですし、音の殴り合いもあります。リズムもどんどん自由に崩してきます。ボーカルもここでは本気なので「聴いて!観て!感じて!」という表現で歌います。

ジャズ=BGM という変な「ジャズの耳」が出来てしまっていると、「本気のジャズ」に馴染むまで時間がかかります。「うわぁ、ウザい」と感じるかもしれません。

モンクの音楽も大半はこの「ジャズの耳」に馴染みにくいものですね。聴きずらさのある音楽。だからこそ記憶に残るし、中毒性が高い。で、今の時代なら、耳慣れた「ファンク」という解釈を入り口にして聴くことも出来る訳です。

ポイント3:ジョン・ヘンドリックスが付ける歌詞

いわゆるヴォーカリーズの人ですが、多くのインスト曲に歌詞を付けています。ただし、ちゃんとした「詩」になっていないものも多くて、過去のジャズミュージシャン達のエピソードを並べてようなものもあります。この曲なんてまさにソレ。

Dizzy , he was screamin'
Dizzy Gillespie

Next to O. P. who was beamin'
Oscar Pettiford

Monk was thumpin'
Thelonious Monk

Suddenly in walked Bud
Bud Powell

Mr. Byas blew a mean axe
Don Byas

という調子で固有名詞(人名)が並びます。
彼らがスタジオ(か誰かの部屋)に集まって何か新らしいことをやろうとしていた、と。

ポイント4:歌詞と発音のポイント

歌詞の末尾に「・・・in'」というのが並びます。韻を踏んでいますね。
演奏でもここがアクセントになっているので、リズムにのって歯切れよく歌いましょう。「ing」の「g」を省略してしまったものですが、ノリ的には無い方が合っているかと思います。
この曲はこのアクセントのところで一瞬リズムが止まる(ブレイクする)のが特徴で、クセになるポイントなので、自分でリズムを作るつもりで歌いましょう。練習していると段々気持ち良くなってきますよ。

2番の「mean sax」「mean axe」も韻を踏んでいます。
meanは「意地悪い」とか「エゲツない」という意味ですが、ジャズの演奏を表現している場合は当然「褒め言葉」で「ヤバい」ぐらいのニュアンスです。

Every hip stud really dug Bud
Soon he hit town

stud」は「ヤリチン」という意味もありますが、ここでは単に「男/野郎」という意味。
dug」は「dig」の過去形ですが、「dig = like」みたいな意味です。

という訳で、歌詞にはあまり深い意味は無くて、リズムに合わせた言葉遊びみたいな感じで、ジャズセッション〜レコーディングの様子が描かれています。

ポイント5:元ネタは「Blue Skies」?

この曲の元ネタは1926年にIrving Berlin先生が書いた「Blue Skies」だと言われています。「Blue Skies」もジャズスタンダード。コード進行というか、ベース音が半音ずつ下がっていく感じも参考にしたんでしょうね。

「In Walked Bud」の方はとにかく上物のコードが「Fm」にステイしている場面が多くて、そこがジャズミュージシャンを悩ませるところだし、逆にワンコードを聴き慣れているファンク音楽ファンには違和感が無いところ。

モンクも古いスタンダード曲を弾いて遊んでいる時に、自分なりのリズム感を加えてみたら・・・おっ、面白いじゃないか、と。

Blue Skies
In Walked Bud


ポイント6:様々なバリエーションを聴いてみよう

Carmen McRae
スキャットがグルーヴありますね。演奏は少しおとなしめかな。


Isis Damil
ノリが「ファンク以降」という感じがします。
ボーカルアドリブ/スキャットをする為にテーマを歌っている印象。


John Hendricks & Co
いかりや長介・・・ではありません。


西村知恵
ちょっと荒れ気味の声が曲に合っていて、ヤクザれた感じを出していますね。


Art Blakey & The Jazz Messengers

ちゃんと「熱い」曲になっています。


Joshua Redman · Brad Mehldau


Ari Hoenig
ぐっとテンポを落とした妖しい演奏。


参考:Blue Skies

Ella Fitzgerald


Nicole Henry · Eddie Higgins Trio


◾️歌詞


Dizzy , he was screamin'
Next to O. P. who was beamin'
Monk was thumpin'
Suddenly in walked Bud
And then they got into somethin'

Oscar played a mean sax
Mr. Byas blew a mean axe
Monk was thumpin'
Suddenly in walked Bud
And then the joint started jumpin'

Every hip stud really dug Bud
Soon he hit town
Takin' that note nobody wrote
Puttin' it down

O. P. he was screamin'
Next to Dizzy who was beamin'
Monk was thumpin'
Suddenly in walked Bud
And then they got into somethin'


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