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セッション定番曲その80:Alone Together

ジャズセッションでの人気定番曲。インストでも歌入りでもリクエストされます。「Alone」なのに「Together」ってどういう意味なのでしょうか。
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:マイナーだけど「演歌」っぽくない

マイナーキーのジャズスタンダード曲は沢山ありますが、気を抜いて演奏していると、なんだか「演歌」っぽくなってしまうことも。「演歌」は「演歌」でいいんだけど、ジャズを演奏する/歌う場合には一番避けたい落とし穴ですよね。

ちょっと脇道に逸れますが、「演歌(いわゆる「ムード歌謡」を含む)」の懐の広さってすごいですよね。小唄や大陸民謡などをルーツにして、1945年の敗戦後、日本の大衆の求める「流行歌」を作ろうとした時に、作曲を担ったのは実は古いジャズの素養のある人達。基本的にはペンタトニックを使った覚えやすく歌いやすいメロディー。ところがそれに非常に日本語的な「子音+母音」で構成されたベタな歌詞をうまくのせたところがユニークで、ジャズにあった「歯切れの良さ」や「シンコペーションを含むリズム」を諦めてしまった、と。演歌全盛期のテレビ番組やグランドキャバレーでのライブなどではジャズ系のビッグバンドが演奏を務めていましたね。「お仕事お仕事」という感じ・・・

この曲の構成はAABC ですが、Aパートがマイナーコードで始まり(Dm7)メジャーコードに解決する(Dmaj7)のがちょっとオシャレで、これが「演歌」っぽさを避ける要因にもなっている気もします。そういう進行ってポップス曲には沢山あるので、聴いていて違和感無いですし、少し「希望が持てるのかな」という雰囲気になりますよね。

ポイント2:「Alone」なのに「Together」

このふたりは「同じ(種類の)孤独」を感じているのでしょう。
だから世間ともどうもうまくやっていけないし、ふたりきりでいる時にだけ感じる強い結び付きがある。運命的な組合わせ。

要は、そういう内容を歌い手側が聞き手側(恋愛相手)に語り掛けているのです。だから「他の人なんか見ないで私だけを見なさい」「貴方にとっての運命の相手は私しかいないでしょ」と口説いている訳です。怖・・・

上記の「同じ(種類の)孤独」というのも歌い手の思い込みでしかないのかもしれませんが、そう言われてしまうと「そうなのかな」と思考停止してしまいますよね。それが狙い。

平易な言葉しか使われていない曲ですが、この印象的なタイトルから始まる歌詞には少し狂気を感じます。

ポイント3:歌のメロディーと歌詞の意味の区切り

Alone together, beyond the crowd
Above the world, we’re not too proud
To cling together, we’re strong
As long as we’re together

この1行ずつで歌のメロディーは構成されていますが、歌詞の意味的には

Alone together,
beyond the crowd, Above the world,
we’re not too proud, To cling together,
we’re strong, As long as we’re together

という解釈の方が分かりやすいと思います。
つまり歌っていて息継ぎが入る箇所で意味が終わっておらず、先送りされている感じです。用語的には何と言うのか分かりませんが、ミュージカル的な手法なんでしょうかね。

この Aパートは14 小節という変形で、12小節目までがマイナー進行で、最後の13小節目でメジャーに行きます。「As long as we’re to-gether」の太字部分。だから、この「together」という箇所に希望が宿っているような雰囲気になるんですね。

ポイント4:音域がちょうどいい

この曲、私もジャズを歌い始めた当初から好きでよく歌っているのですが、実は昔のジャズスタンダード曲って現代に比べるとキーが低く設定されているものが多くて、なかなか歌いにくくて、でもキーを上げてしまうと雰囲気が全然変わってしまう場合もあります。

現代的なポップスではなくて「ジャズを歌いたい」という人の中には「J-POPみたいな高い声は出ないから」という人もいるかと思います。確かに音域/声域が狭いジャズスタンダード曲も沢山あります。

この曲も、出だしは少し低めですが、途中で中音域や高音域もうまく使いながら、音域/声域としては比較的狭めに抑えられています。そういう意味では「歌いやすい」曲だと思います。

ポイント5:「4小節交換」の際のワナ

前述の通り、Aパートは14 小節、 BCパートはそれぞれ8小節で構成されています。なので、いわゆる「4小節交換」を行う際には事前の約束事が必要です。

・歌メロに合わせて「2小節」で相手に返すパターン
・歌メロには合わせず「4小節」で相手に返すパターン

どちらでいくか事前に少し相談しておくと、事故になりません。
(もし事前相談無しで始めてしまった場合は「歌メロに合わせて」が無難です)

ポイント6:どう歌うか

まずはオーソドクスなミディアムテンポのスイング。歌詞の「物語」をのせやすい感じですね。歌う際の語尾に少しクセがありますね。

Carmen McRae

Alone together
Alone」も「together」も実は少し発音の難しい言葉。「Alone」の「n」音にちょっと余韻を持たせないと「Along together」に聞こえてしまって、何だかつまらない歌詞になってしまいますね。

この後も頻繁に出てくる「together」の発音https://www.youtube.com/watch?v=JW8R78u4dFE

これをちゃんと発音しないと歌の説得力が無いので、頑張りましょう。

最近のポピュラー音楽だと歌い出しにサビを持ってきたり、印象的なメロディーを持ってきたりしますが、この曲では低音域のあまり抑揚の無い歌い出しになっています。そこをぐっと我慢して後半部にクライマックスを持ってくるので、この歌い出しをどう印象つけるかが大事です。Carmen McRaeは流石で、この少し不思議なタイトルを豊かな声で歌い出して「この後の物語」を期待させます。

2回目のAパートでは「Alone together」の部分のニュアンスを少し変えて、飽きさせない工夫も。

beyond the crowd, Above the world,
どちらも、この「ふたり」が他のみんなからは浮いてしまっていて、馴染めない様子を歌っています。同じメロディーの繰り返しですが、比較的低音域で無妙なメロディーなので、ここもまだ少し「我慢」です。

「crowd」「world」は韻を踏んでいる訳じゃないですが、言葉遊びっぽい。「R」音と「L」音を自然に出しましょう。

we’re not too proud, To cling together
「not too proud」は色々な曲の歌詞に出てくるフレーズですが、

・解釈A:プライドが許さない訳じゃない=素直に受け入れる
・解釈B:それは恥ずかしいことだと思う(でも仕方ない)
の2種類の解釈が出来ます。普通に考えたら「A」ですが、「B」のニュアンスで使われている歌詞もあります。

「cling」は「しがみつく/くっついて離れない」みたいな感じです。だから「お互いに寄り添いあって離れないのを恥ずかしいとは思わない」と。

で、だから「we’re strong, As long as we’re together」だと。

2回目のAパートの最後は
「And what is there to fear together」と、「恐ることも一緒にやっていこうよ」と。どんだけ「together」が好きなんでしょう。

Bパートでようやく盛り上るメロディーが出てきます。
同じメロディーを全音下げて歌う(Bパートの1-2小節目、5-61-2小節目)というのはジャズでよくあるパターンですね。

Our love is as deep as the sea
Our love is as great as a love can be
ところがこの箇所の歌詞が陳腐というか、大昔から使い倒された表現で、ちょっと残念ですね。「海よりも深い愛」とか・・・

「Our love is as great as a love can be」は「愛の最上級(愛がなれる限りの最高の愛)」。これもテンポはいいけど・・・

最後のCパートは
And we can weather the great unknown
If we’re alone together

「weather」は「お天気」でみんな知っていますが、動詞としては「困難(荒天など)を乗り切る/乗り越える」という意味です。「ふたりで寄り添っていれば、未知の障害も乗り越えていけるよ」という力強い宣言で歌は終わります。これが相手に対する説得(口説き文句)だとすると、ちょっと怖いですね。独占欲強め!

「weather」の発音
https://dictionary.cambridge.org/ja/pronunciation/english/weather

確かに英国と米国で発音(語尾)が違いますね。

Cパート(8小節)はAパートの変形ですが、最後の最後で盛り上るので、ここまで我慢してきた気持ちをぶち上げましょう

ポイント7:様々なバリュエーションを聴いてみよう

Sonny Rollins(1959年録音)
なかなか主役が登場しないで、パーティーの途中で颯爽と。


Chet Baker, Bill Evans
おクスリ友達のふたりに何だかピッタリな曲。


Jim Hall, Ron Carter(1973年録音)
静謐


Oscar Peterson, Dizzy Gillespie
いつもは饒舌なふたりもこの曲では・・・


Julie London
誘われています。


Carly Simon(2005年録音)
こっちのお誘いは軽い感じ。


Ray Charles, Betty Carter
寄り添うふたりの歌声。


Alyssa Allgood(2018年録音)
気持ちよく技巧的。


◾️歌詞


Alone together, beyond the crowd
Above the world, we’re not too proud
To cling together, we’re strong
As long as we’re together

Alone together, the blinding rain
The starless night, were not in vain
For we’re together
And what is there to fear together

Our love is as deep as the sea
Our love is as great as a love can be

And we can weather the great unknown
If we’re alone together



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