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セッション定番曲その41:Brown Sugar by D’Angelo

ファンクセッションでの定番曲です。1995年発表なので、もう30年近く前の曲ですが、いまだに「新しい感覚の曲」として扱われているのが面白いですね。50年以上前の曲が定番曲になっているものも多いですが・・・
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:Brown Sugar

The Rolling Stonesの同名曲もロック定番曲で、どっちのことかちゃんと確認しておかないと、いざ曲が始まって大混乱になります。
(「Feel Like Making Love」とかもね・・・)

Brown Sugarは「黒砂糖」ですが、隠語として「ヘロイン(等の悪いおクスリ)」や「肌の黒いセクシーな女性」のことを指します。歌の中ではWミーティングで使われる場合が多いですね。おおっぴらにおクスリのことを歌うとラジオなどで流してもらいにくいので。

この曲でも「her name was Brown Sugar」と歌って、とても魅力的な対象として描いています。

ポイント2:ジャンルを横断~融合

D’Angeloのルーツは教会音楽/ゴスペルや70年代R&Bと言われていますが、当然ディスコ音楽やPrinceも通ってきている訳で、ジャンルの壁が崩れ始めていた1990年代に、密室的な環境で制作する音楽としては、自分の中にある様々な音楽要素を横断~融合したものなるのは必然的でした。

ヒップホップのループ感覚と隙間の多い音空間、R&Bの声の表現力、ファンクの粘り強い推進力、ジャズの「常に経過する」ようなコード感、教会音楽の酩酊感と高揚感。非常に世俗的なテーマを歌っているのに何だか神聖な世界を表現しているような裏返った感覚。「ネオ・ソウル」と呼ばれることになる要素が詰まっていました。

特にヒップホップのグルーヴについては、この時期以降のポピュラー音楽にとって避けて通れないもので、意識せずにヒップホップを耳にして育った世代の人達にとっては「自然と心地よいもの」として受け入れられていきました。(この話は別のところで掘り下げましょう)

ポイント3:後ろ髪引かれる・・・

この曲の特徴は、引き摺るようなリズムです。
ジャストで合わせていくファンクやロックに慣れている人だと「あれっ?着地点どこ?」と戸惑ってしまうような。元の音源を切って繋いでトラックを作ることから始まったヒップホップならではの「ズレ」の感覚。

A Tribe Called Questのメンバーが録音に参加していたことの影響が強かったのかもしれません。ヒップホップを「売れ線」に育てるのが上手かった人達なので。

そういう「偶発的」「機械的」な、譜面に書けないようなリズムを、人力でリアルタイムで演奏出来る人達が出現してきて、徐々に増えていったということですね。

この曲をジャムセッションでやると、その「後ろに乗っかる」感覚の見つけ合いになることがあります。「ここか?」「いや、もっと後ろ?」とドラマーやベーシストが自分の感覚をぶつけ合う。そういう遊び心。

原曲(スタジオ録音)はそんなに極端に後ろに乗っかっている訳でもないですが、セッション現場で演奏されているうちに「育った」感覚なのかもしれませんね。原曲を越えていくのがジャムセッションの醍醐味なので。

普段かっちりしたジャズやポップスを演奏している人達にもぜひ挑戦して欲しい曲です。

ポイント4:歌う時も

この曲を歌う時も上記の「後ろに乗っかる」感覚で歌うことが大事です。言葉が詰め込まれた歌詞なので、ついつい突っ込み気味になりがちですが、ゆったりとリズムに乗っかっていく。私もホストメンバーの黒人ベーシストに何度も注意されました。この曲では露骨にラップになっている訳ではないですが、歌詞の区切りや乗せ方はラップに近い箇所もあるのかもしれません。

コーラス部分の「Brown Sugar, babe, I gets high off your love, I don't know how to behave」も「Brown Sugar, babe」をいかにゆったりと後ノリで歌って「I gets high off your love, I don't know how to behave」を慌てずにリズムに乗せられるか。

「I want some of your brown sugar」も大きく後ノリです。演奏陣との着地点の探り合い。

ポイント5:言葉遊び~早口言葉

The way that we kiss is unlike any other way
That I be kissin' when I'm kissin' what I'm missin'
Won't you listen?

ここは「in'」「en」で韻を踏んだ言葉遊びになっていて、早口言葉みたいですね。誤魔化しが利かないので、ちゃんと意味が通じるように口が回るように練習しましょう。

他にも
Stick out my tongue and I'm 'bout
Ready to hit this pretty gritty
Bitty with persistence
この箇所も同様に早口言葉です。

ポイント6:Brown Sugarを慈しむ

とにかく「Brown Sugarはいいものだ」という内容の歌です。

I want some of your brown sugar (Sugar)
僕たちは「おクスリ」を念頭に置くことは難しいので、「肌の黒いセクシーな女性」の方をイメージしながら、それを(ベッドの中で)慈しみ尽くす感じで表現してみましょう。肌を指で撫でながら、舌で味わいながら。

全編に流れる「Sugar」というファルセットのコーラスも特徴的ですね。
コーラスの重ね方は一時期のマーヴィン・ゲイみたいです。マーヴィンも「s〇x」そのものをテーマにした官能的な曲を沢山歌っていて、通じるものがありますね。

ポイント7:nixxas

Hope my niggas don't mind
という箇所がありますが、われわれ日本人は(意味は分かっていても)使わない方がいい単語だと思います。

Hope my guys don't mind
とか
Hope my buddies don't mind
とか
言い換え出来るので。

黒人が黒人に対して「よう!」と意図的に呼び掛けるのはアリとして、そうでない場合にはよほどの関係性が出来上がっている必要があります。

ポイント8:ここから広がる世界

ヒップホップがいまだにちょっと特殊なところに留まっていて、一般にはいまだに初期の「Yo, Yo」なイメージが強い日本の音楽市場ですが、この「Brown Sugar」をセッションで演奏することをキッカケにして、その後の広がりがどうだったのか追ってみるのも面白いと思います。

その時代(1995年)には特殊で突出したものに見えても、実は水面下では同じような試みがあちこちで行われていた筈。

D’AngeloのパートナーだったAngie Stone


次のアルバム「Voodoo」で組んだソウルクエリアンズ/クエストラヴ~The Roots


同じく「Voodoo」でベースを弾いたピノ・パラディーノ


ジャズの世界から関わっていたロイ・ハーグローブ


さらに捩れたグルーヴを追求したJ・ディラ


ディアンジェロがもたらした“新しいリズムの革命”とは?

いわゆる「ネオ・ソウル」に留まらず、1990年代後半から現在に至るポピュラー音楽の裏街道を聴いていくことで、まさに今何が起こっているのか、これからのポピュラー音楽に「その先はあるのか?」を考えるキッカケになるかもしれませんね。

そんな可能性を秘めた1曲がこの「Brown Sugar」です。

ポイント9:歌詞のポイント

気になりそうなところをいくつか。

I met her in Philly and her name was Brown Sugar
「Philly」は「ペンシルベニア州フィラデルフィア」、1970年代にはポップなディスコ寄りのソウルミュージックを生み出した土地ですね。

Always down for a ménage à trois
ménage à trois」は「2人の同性と1人の異性による婚姻関係」で単なる三角関数よりも踏み込んだ状態。こんな内容でもフランス語で言うと何故かカッコよく響きますね。

Ready to hit this pretty gritty
Bitty with persistence
「gritty」は「砂みたいにザラザラした」
「bitty」は「すごく小さい」
「with persistence」は「しつこく」
そういう風に舌で味わっている、という描写になっています。
とすると、やはりおクスリか、女性の黒い肌か・・・

Live


■歌詞

Let me tell you 'bout this girl, maybe I shouldn't
I met her in Philly and her name was Brown Sugar
See, we be making love constantly
That's why my eyes are a shade blood burgundy
The way that we kiss is unlike any other way
That I be kissin' when I'm kissin' what I'm missin'
Won't you listen?

Brown Sugar, babe, I gets high off your love
I don't know how to behave
I want some of your brown sugar (Sugar)
I want some of your brown sugar (Sugar)
I want some of your brown sugar (Sugar)
I want some of your brown sugar (Sugar)
Ooh, ooh

Oh, Sugar, when you're close to me
You love me right down to my knees
And whenever you let me hit it
Sweet like honey when it comes to me
Skin is caramel with the cocoa eyes
Even got a big sister by the name of Chocolate Thai

Brown Sugar, babe, I gets high off your love
I don't know how to behave
I want some of your brown sugar (Sugar, oh)
I want some of your brown sugar (Sugar)
I want some of your brown sugar (Sugar)
I want some of your brown sugar (Sugar)
Ooh, ooh

Now that'd be how the story goes
Brown Sugar got me open, now I want some more, huh
Always down for a ménage à trois
But I think I'ma hit it solo
Hope my niggas don't mind
Stick out my tongue and I'm 'bout
Ready to hit this pretty gritty
Bitty with persistence
Yo, I don't think y'all hear me

Brown Sugar, babe, I gets high off your love
I don't know how to behave
I want some of your brown sugar (Sugar)
(Oh, baby)

I want some of your brown sugar (Sugar)
(I want some of your brown sugar, baby)
I want some of your brown sugar (Sugar)
(Oh, babe, oh, yeah)
I want some of your brown sugar (Sugar)
(Oh, gimme some of your brown sugar, baby)
I want some of your brown sugar (Sugar)
(Baby, oh, babe)
I want some of your brown sugar (Sugar)
(I-I, oh, babe)
I want some of your brown sugar (Sugar)
(Ooh, babe, ooh, oh, babe)
I want some of your brown sugar (Sugar)
(Brown sugar, so sweet, baby)
I want some of your brown sugar (Sugar)
(Baby, so good to me, baby)



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