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セッション定番曲その48:Cause We've Ended as Lovers (哀しみの恋人達)by Jeff Beck / Syreeta

ギターインストの人気曲。腕に自信のあるギタリストがリクエストしてセッションで演奏されることも多いですね。ところが・・・
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:哀しみの恋人達

作者はスティービー・ワンダー。
最初は当時の(元)妻のSyreeta Wrightの為に書いた曲です。つまり最初から作詞もされていた訳です。


原曲はキレイな声で歌う、ゆったりしたソウルバラード。
結婚生活は数年しか続かなかったようで、だからこそのタイトル「もう恋人ではいられないけれど」。なんかセツナイな、おい。

ポイント2:Jeff Beck

「Superstition」の項にも書きましたが、それがもともとはジェフ・ベックにあげた曲だったのをモータウンの薦めでスティービー・ワンダーが自分でもシングルカットしたら大ヒットしてしまい、借りがあったのを気にしていて、ソロになったジェフにこの曲を提供したようです。

「Blow By Blow」はBB&A後にソロとして、シンガー抜きでの活動を模索してたジェフ・ベックが発表したインスト・アルバム。ハードロック寄り?という予測もあった中で、完全に「ギターに歌わせる」ことに徹した、ある意味意外な作品でした。ファンク色の強いアルバムですが、ちゃんと耳に残るリフやメロディがあるのが人気アルバムになった要因だと思います。当人もレコード会社も意外なほど売れ、高い評価もされました。この頃から米国市場では完全に「ロックミュージシャンではなくジャズ(フュージョン)ミュージシャン」とカテゴライズされてしまったようです。

構成の複雑な曲も多いアルバムの中で、この「Cause We've Ended as Lovers (哀しみの恋人達)」はメロディのキレイさもあって覚えやすいのか、セッションイベントでも人気がありますね。ギタリストの腕の見せ所。


ポイント3:ギターに歌わせる

それ以前にもジェフ・ベックの奏でるギターの音は「人間の声のようだ」という評価がありましたが、それはバンドのボーカリストとギターの絡みで効果を発揮することが多かったと思います。ブルース~ブルースロックの場合、特に弾き語りでは「歌う声」と「ギターの音」が一体となって哀愁だったり悲嘆だったりを表現するギターボーカルのミュージシャンが大勢いました。

1960年代からあった「ギターインスト」のバンドは、ハンク・マーヴィンのザ・シャドウズだったり、スウェーデンのザ・スプートニクスだったり、それこそザ・ベンチャーズだったり、「いかにもエレキギターならではの音とテクニック」を聴かせる演奏で、日本でも特に人気がありました。器用な人なら自分でも弾けるかな、弾いてみたいなと思わせるレベルだったので、エレキギターのブームが起きましたね。

で、1975年のジェフ・ベックはそれらを遥かに超越する様々な技法を駆使して、「ギターであることを忘れさせる」ようにメロディを奏で、アドリブを演奏しています。自分が歌うかわりにギターに歌わせている感じ。ちゃんと聴くと、もともとは歌のある曲だったのが分かると思います。技を見せる為の技ではなく、歌心を表現する為の技。

その後のライブでもほぼ毎回演奏していましたが、徐々に技法も変わっていき、指弾きでフィードバックとトレモロアーム(ビブラート・ユニット)だけで音色と音程をコントールして繊細な表現も行うように。

1975年当時、ロックの流れで聴いていた子供の我々には唐突感がありましが、ジャズ~ジャズファンクの流れで聴いていた「大人」達には自然な流れで生まれた音楽という受け取り方をされていたようです。この頃から、それぞれ分かれていたロック系のミュージシャンとジャズ/ファンク系のミュージシャンのジャンルを横断しての交流が活発になっていきました。

ポイント4:ロイ・ブキャナン先生

忘れていけないのは、この作品は「ロイ・ブキャナンに捧げる」とクレジットされていたこと。ロイ・ブキャナンは最早忘れ去られた存在ですが、1960年代から様々な録音に参加したセッションミュージシャンで、1970年代にはけっこう売れたアルバムも出しているのですが、どうも「ミュージシャン達に評価の高いミュージシャン」の域を出ないまま終わってしまった印象です。ピックングハーモニクスを早い時期から効果的に使っていたことでも知られています。

日本盤の宣伝文句でも「エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、スティーブ・ハウ、デビッド・ギルモアらが口を揃えて、ロイ・ブキャナンこそ聴くべきだと言う」と謳われていました。

まさに「ギターを歌わせる」演奏のお手本


ポイント5:この曲を歌う

で、もともとは歌のある曲なので、これを歌うのは当たり前なことですが、ジェフ・ベックの曲というイメージが強いので、リクエストすると「えっ、これ歌詞あんの?」「歌うの?」という反応が多いです。意外なだけに期待値も高くなりがち・・・。

演奏をしてもらうメンバーは、やはりこの曲をよく知っていて、インストでも演奏出来る人達に付き合ってもらいたいところ。イメージ的には「ギターの代わりに歌う」という感じになるので、原曲よりももっと表情を付けて歌いたいですね。理想的にはキーボード(揺れるエレピ)を弾きながら歌うと最高にいいかもしれません。ギターボーカルの人の場合には自分で歌とギターの掛け合いが出来るので、面白い出来になりそうです。

ポイント6:Does it mean that we each other can't be friends?

最初のパートの歌詞では2人の親密な様子が描かれています。

Sneaking kisses in the hall
Writing love notes on the wall

hall」と「wall」は韻を踏んでいるので、分かり易く発音したいところ。「Writie … on the wall」というのは単に壁に書くといよりも「しっかりと揺るぎないもの、不変なものにする」というニュアンスがあります。

Lovers walkin' in the rain
So close, we felt each other's pain

雨が降る中、寄り添って歩いて、お互いの痛みまでも分かり合えるほど親密な2人。この雨の情景はしっかりと歌で表現したいところ。ジェフ・ベックは歌詞を聴いてそれをギターで表現したのか、それともデモ演奏だけを聴いたのか分かりませんが、雨の情景がちゃんとギターでも表現されている気がします。歌詞のある歌が負けるわけにはいかないですね。

'Cause we've ended now as lovers
Does it mean that we each other can't be friends?

で、2人の関係が雲行き怪しくなって「もう恋人同士ではいられない」と。それでも「もう友達に戻るのも無理ですか?」と未練たっぷりです。

ポイント7:Tea for Two

I remember teaching you
On piano, "Tea for Two"
And how when playing wrong, I kissed your hand

彼女は彼に「Tea for Two(2人でお茶を)」というジャズスタンダード曲をピアノで弾くのを教えてあげたようです。ミスをした時には手に優しくキスをして、上手くなるおまじないをしてあげた、と。なんか上手い歌詞ですよね。技巧的ではないけれど、短い言葉で情景がすごく伝わります。

ここでの「you」と「Two」も韻を踏んでいます。

ポイント8:発音のポイント

平易な言葉が多くて、聞き慣れない固有名詞も無いので、全体的に発音し易いと思います。

・「kisses」
キスの複数形ってあまり使わないかもしれませんね。これは経験豊富なオトナなら、さりげなく発音したい単語。
ここで発音が聞けます。
Kissesの意味・使い方・読み方

・「rain」と「pain
も韻を踏んでいる箇所で、歌詞の中で大事な意味を持っているので意識してはっきりと発音したいですね。

・「'Cause we've ended now as lovers」
「'Cause」は「Because」を略したもの。
この一文はタイトルにもなっているような大事な箇所なので、噛まずにスムースに発音したいところ。「V」が2箇所、「L」音もあります。

・「playing wrong」
L」音と「R」音が続けて出てきますので、発音の差に注意。

ポイント9:アレンジ例

クルセイダーズ版がありました。冒頭部はジェフ・ベック版のコピーっぽい。演奏が手堅い分スリルをあまり感じないかも。

サックスのガトー・バルビエリ版。ここまでくると完全にイージーリスニングというかスムースジャズ。


フラメンコ風のアコースティックギター版。


この他にも色々なカバーバージョンを聴いていくと、結局いかにジェフ・ベックが突出した「表現者」であったのか分かりますね。歌版の方はまだ決定版が無いと思うので、是非チャレンジしてみましょう。

■歌詞


Sneaking kisses in the hall
Writing love notes on the wall
Bein' each other's all and all each day
Lovers walkin' in the rain
So close, we felt each other's pain
But now you say that love has died away

'Cause we've ended now as lovers
Does it mean that we each other can't be friends?
'Cause we've ended now as lovers
Does our love for one another have to end?

I remember teaching you
On piano, "Tea for Two"
And how when playing wrong, I kissed your hand
But when our love has gone and passed
Why does the good exceed the bad?
Well, that's one thing I'll never understand

'Cause I remember us in class
You always were the one to pass
And gave me answers right to see me through
But that was more than years ago
And who will love me, I don't know
It's sad for sure but true it won't be you



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