井上橙子

はじめまして。以前、二ノ宮橙子で活動していました。詩や思った事を書いております。よかっ…

井上橙子

はじめまして。以前、二ノ宮橙子で活動していました。詩や思った事を書いております。よかったらのぞいてやって下さい。今は、だいたい認知症の母の事を書いております。

最近の記事

かぜにふかれて、蕾

咲いてはいけない毒の種 うっかり飲み込んで白目() ンがんんって咳き込んだ けれどあれよあれよと 腹の中、芽が出て膨らんで しゅるるる茎がのびる 抑えても唇をこじ開けようと四苦八苦 それが象牙色の歯を砕いて とうとう世界へ蕾をつけた 腐ってやがる! はやすぎたんだ! 根腐れした蕾は哀れ ぼとりと首からもげて 爪先に転げおちる 黒紫の蕾の成れの果て 見る間に枯れて風に とばされそれっきり ※腐ってやがる!はやすぎたんだ! 「風の谷のナウシカ」より引用※

    • 現実とうつつの境界線は曖昧で漂うプランクトンである

      たゆとうなかであまりにも 不器用で、居場所をなくして行く 昨日まで楽しかったパブの店先、 全て攫われる予感にただ恐怖し 外れていく 輪から、 和から、 写真の笑顔はいつもかたくなで 口の中で弾けるキャンディになれない あいが無い、透けて見えるページで黒くぬりつぶして行く時よ。心臓が石を飲み込んで、鞄を持たずに出ていけるといい、そう思うのに、明日になればまた、逆戻りでたゆといながら、居場所をなくしていくのだ。

      • 夜光虫

        にじりと汗ばむ夜、砂浜へとやってきた。 昼間に海が赤銅色に染まったのを 見た時に既にこうすることを決めていた。 潮の匂いを含む、ねっとりと肌にまとわりつく風に少し辟易しつつ、太陽が支配していた時間とは違う顔を見せている海面を見つめる 暗い波打ち際、夜光虫ともいわれてるプランクトンが青白く発光して漂っている。 ルシフェラーゼという発光酵素を自らもつ小さな小さな命の灯火、これがみたかったのだ 短く切りすぎた髪、気にいっている。 耳朶のピアスに触れる、揺れる真珠が美しい 今どき数頁

        • 18.44(3)

          「高井、お前、ヤマナカファイターズの高井だな」 久しぶりの新入部員で、みんなが興奮している所に、聡がそう言った。 「え、もしかして、ヤマナカって…」 皆、小学生の頃から野球をやってきた連中だ。名の知れた少年野球チームが隣りの街にあることは知っている。ただ、中学の頃に、聡に誘われて野球をやり始めた俺とは高井を見る温度差が違う。俺は、期待の眼差しを向けるメンバーとは、真逆に足元がぐらついたのが分かった。聡の目が違う気がするからだ。俺の球を受けたあの時より、本気の色をしている

        かぜにふかれて、蕾

          18.44(2)

          顧問兼監督から廃部だと聞かされた時は、半分、やっぱりな、という気持ちと、嘘だろ?ってぽけんとした思い半分で。嘘だろ?って思う自分にびっくりするやら、意外やらで俺は、周りの部員が涙をこらえているのを、どこか遠巻きで見ていた。監督は野球帽を少し目深に被って目元を隠すようにしていたし、スコアラーの奴は目を真っ赤にしている。外野手や内野手の連中もそう。聡は、どうだろう。俺の真横に立っていた聡に目をやる。盗み見る。ひとり聡は肩の荷を下ろしてしまったような表情をしていた。誰よりも熱心に、

          18.44(1)

          朝靄が立ちこめる母校。俺はこの春、無事に高校を卒業した。古ぼけた壁の校舎、あまり手入れのされていないプール、今はネットが仕舞われているテニスコート、ゆっくりと眺めるグランドに、だけど野球の防球ネットは無い。いや、無くなったのだ。俺の通っていた高校の野球部は名ばかりのような物で、試合をしてもそうパッとした成績を収められず、甲子園なんて夢のまた夢だった。町費やOBの寄付で細々と賄ってきたが、それも廃れていくこの町にとっては、ただのお荷物に過ぎす、とうとう、俺達三年生が卒業を機に廃

          うろぼろす

          長いまつげが震えている 実る光る粒が甘く香って 舌のさきでなぞる 緩やかに息づくラインは 夕日に染まり ゆっくりと眠りを迎える 準備をしていた 引き寄せ ふたたび引きずり込んだ 時間の深さ 手探りの距離に 目が眩んで無我夢中に齧り付く 絡み合う白と黒の長蛇が ぬらぬらと濡れて水槽の硝子に 割れた赤を這わせる 羽が生えてもおかしくない くぼみを含んだうつくしさが 白すぎて明るい 獣の食欲をむき出しにかぶりつくと 尖った顎を綺麗にあおのかせ 吐息が耳を蕩かす 扇風機の

          うろぼろす

          ごめんね

          今まで自分の内側にしか興味が無かった。 外傷以外は。 その痛みでさえどこが薄い紙1枚の向こう側のことで、ぼんやりとしていた。 (痛みはしっかり感じていたけど) 今回、生まれて初めて、子宮がんと乳がんの検査を受けた。 私自身のためでなく、介護している母の為に。(なんて犠牲的な思考) 子宮がんは、明日検査結果が出る。 乳がんはマンモグラフィとエコーだった。 医師の手が止まる度にドキリとして、皮膚の下がザワついた。 もしかして、私が私を放っておいた間に、私の身体は病に侵食されて

          ごめんね

          母の置土産

          母がまだ母だった頃、私達はすれ違っていた。いつも母は私を窮屈にしようとしていたと思っていたし、私は母を覚めた目で見ていた。いや、言葉を選ばないで言うなら母を下に見ていたのだ。若さもあったのかもしれないが、かなり、傲慢だったのだと思う。時間を、流されたり積み重ねしながら私は生きていた。その頃、私は「孤独感」と言う感情に苛まれ、まるで地獄を這いずり回っていたのだ。心臓より奥の奥、ぽっかり穴があって、それは底に穴の空いたバケツのようだった、というのがしっくり来る。長い長い時間、もう

          母の置土産

          詩 一篇

          「真夜中の蜜柑」 くたびれた月が中天に来るころ 台所で蜜柑を食べる あかりは豆電球で薄暗い 床に伸びる影はゆらゆら揺れて ポツ、と輪から外れた子供のようだ 母の車椅子にすわる ひと房口にする 匂いが立ち上り そして 全てのいない存在が さわさわとあつまる 鼻を鳴らして嗅ぎに来る気配がまとわりつく その気配が嗅ぎにくるのは 柑橘の爽やかな匂いでなく 乾いているのにじっとりしている 私のぽつねんとした、ひとりぼっち、だ そして母の孤独の匂いだ 今夜も蜜柑を食べる 母の車

          墓・改

          (2020/8/25「墓」より改稿) ここに墓をたてよう 今までの時間のために すべての痛みと悲しみのために 今は穏やかな仮面を被って おとなの顔をしてみせている ものがたりの一場面のために ここに墓をたてよう あきらめ顔でこれからを 生きていくかもしれない あたしのために すきなひとと手をつなぐ事も 優しいシフォンのスカートも 薔薇色の口紅もつけることは 賞味期限が切れた あたしのために ここに墓をたてよう 抗っても「ひとり」になる これからの思い出のために ふたり

          詩 一篇

          「おっぱいがいっぱい」 無機質な美術館で みつけた、おっぱい くちびるに 小さい笑みを浮べる オンナ それに全て明け渡し 眠る産まれたてのいのち タイトルは忘れたが 目にはしっかり焼き付いている あかんぼうも つかれた♂も ピリピリした♀も すべてわすれたろうじんも そして逝くひとも おっぱいはそのせかいをゆるめる 現実の交差点 顔をなくしたオンナとすれ違う しがみついているいのちは 必死に生きようとしていた あのひとの、おっぱいはたわわだろうか ただ、小さく笑んで

          詩 一篇

          夜の底の物語 常緑樹の緑から眞白な雪が 滑り落ちてきては積もっていく 場面転換 赤黒い木の実が点々と落ちている 白い、ただ白い平野 その先に小夜啼鳥の死骸が 小さく横たわっていた 木の実だと思っていたものは 最後と引替えにした血痕で 老いたカノジョの命が燃え尽きる 生への賛歌だった 暗転 暗転 そして 朝のうわずみ 遠くで鳥の声がしたのは 夢の残り香、だろうか

          アニムス

          むかしむかし 肌がぴんぴかだったころ 少年がいた、私の中に その年頃にありがちな 少女の媚の裏に 仄暗い目をした少年は ギラリと鈍く弾くナイフを 片手にしていた そのナイフは怒りだった 世界に吠えていた 他者への攻撃性ではなかったように 思うが定かではない よれたTシャツと汚れたジーパンを 履いた少年は、ひとつづつ 歳を重ねていくうちに、私の女性性に 取り込まれ溶け込んでいった。 今でも怒りに苛まれる時にはあの少年のナイフを思い出す。 彼は未発達のロゴス、私のアニムス

          アニムス

          未練・でも嫌いじゃないこんな自分

          はい、また書いております。詩という文章を。未練タラタラです。文章に片思いです。細々と現実の暮らしに打ちのめされながら、それでも、生きて、書いています。暑苦しくのたうちながら書いております。それでも書く、と言うことは書かずにいられないのでしょうね。まったくあつくるしい。でもこんな自分が案外、嫌いじゃないのに気づいてしまいました。

          未練・でも嫌いじゃないこんな自分

          抜け落ちた熱

          子供の頃から本が好きで、空想家で、でも、文章を書くセンスは無かった気がする。作文や、読書感想文なんか見れたものじゃ無かった。それでも書きたかった。いつか書けるのではないかと思っていた、信じていた。でも、こんなにも書けない。書いても書いている気がしない。これが産みの苦しみだというもので、皆、いつも苦しいのだろうか。書かなくなったら苦しくはなくなったけど、なにかを忘れてきたような、失った気がして。熱が抜け落ちたのかもしれない。最後になりたいものだった。それも叶わない。

          抜け落ちた熱