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夜光虫

にじりと汗ばむ夜、砂浜へとやってきた。
昼間に海が赤銅色に染まったのを
見た時に既にこうすることを決めていた。
潮の匂いを含む、ねっとりと肌にまとわりつく風に少し辟易しつつ、太陽が支配していた時間とは違う顔を見せている海面を見つめる
暗い波打ち際、夜光虫ともいわれてるプランクトンが青白く発光して漂っている。
ルシフェラーゼという発光酵素を自らもつ小さな小さな命の灯火、これがみたかったのだ
短く切りすぎた髪、気にいっている。
耳朶のピアスに触れる、揺れる真珠が美しい
今どき数頁の恋愛を失くしたくらいで髪を切るオンナはいない、全て自分の為だ。
それでも、数頁の恋愛を失くして夜に海にひとり出かけるオンナは他にもいるのかもしれない。
いつか見に来ようとの約束を髪を撫でられ交わした、あの頃を。
終わったキャンディーバーの甘さを未練たらしくいつまでもしゃぶっている子供のように探しに来たのではない、そう思いたい。
ぼおっと光を放つ小さな命に慰めを求めに来たのか。何をしても今は心が持って行かれているのだ。しばらくは諦念の中で思い出を貪り続けて、喰らい尽くしてしまえばいい、漂う青い星のように、日々をたゆとうて行こう。それでも沈まぬ命の様に。

#詩


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