18.44(2)

顧問兼監督から廃部だと聞かされた時は、半分、やっぱりな、という気持ちと、嘘だろ?ってぽけんとした思い半分で。嘘だろ?って思う自分にびっくりするやら、意外やらで俺は、周りの部員が涙をこらえているのを、どこか遠巻きで見ていた。監督は野球帽を少し目深に被って目元を隠すようにしていたし、スコアラーの奴は目を真っ赤にしている。外野手や内野手の連中もそう。聡は、どうだろう。俺の真横に立っていた聡に目をやる。盗み見る。ひとり聡は肩の荷を下ろしてしまったような表情をしていた。誰よりも熱心に、黙々と練習に励んでいた聡が、まさか、そんな表情をしているなんて。俺は見てはいけないものを見た気がして、慌てて野球帽を目深に被った。

それに気づいた野球部のヤツらが俺の肩に腕を回した。涙でぐしゃぐしゃの顔をしてさ。アオハルだなお前。俺は泣いてなんかない。他の人間から見たら突然の廃部に、愕然とするたった一人のエース、なんてそんな見出しが頭の中に書かれていて、余計に涙を誘うのかもしれないが、俺は、さっきから聡の事ばかり気にしていて、慰めの言葉にも、無言のままだ。何処か、ホッとしてた聡。中学の時の、あのキラキラした眼差しはとっくの昔に俺を見ていなかったのだろうか。お前は俺のエース、それが、聡の口癖だった。けど、俺にはわかってたんだよ、球が軽いって。スピードは、確かにあった。でも、バットの芯に捕まると面白いように飛んで行ってしまう。変化球は肘を痛める、と言ってあまり聡がいい顔をしなかったので、俺が覚えたのは緩いカーブくらいなもんだ。シュートやらスライダーやら、こっそり練習しては聡に止められた。それだけ、俺の事を大事に思っていてくれていたんだ、なんて当時の俺は感動までしてたけど、聡が大事だったのはピッチャーだって思い知らされたことが起きたのは、2年前の春、驚くべき事にこの弱小野球部にひとりの新入部員が入って来た事だった。

しかも、ピッチャー志望の。なんてこった。

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