墓・改

(2020/8/25「墓」より改稿)

ここに墓をたてよう
今までの時間のために
すべての痛みと悲しみのために
今は穏やかな仮面を被って
おとなの顔をしてみせている
ものがたりの一場面のために

ここに墓をたてよう
あきらめ顔でこれからを
生きていくかもしれない
あたしのために
すきなひとと手をつなぐ事も
優しいシフォンのスカートも
薔薇色の口紅もつけることは
賞味期限が切れた
あたしのために

ここに墓をたてよう
抗っても「ひとり」になる
これからの思い出のために

ふたりソファに座ったなんでもなく
笑った朝も
どことは言えずに背中を
引き止めた真夜中も
ちいさく上下する肩を見つめた息を詰めて
立ち尽くした朝方も
緑のソーダ水を飲んで
互いに舌をだしている夏の写真も

ぜんぶが思い出の彼方へいくために

そしてあたしは墓守をしよう
花を飾ろう
あのひとが大好きな桔梗の紫で
埋めつくそう

ここに墓をたてよう
いつかそこへゆくあたしのの名を刻み
成層圏を超えひろい宇宙(そら)に溶けて
やっとなまえがなくなるあたしのために


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