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【解説】ファントムの自己肯定感の低さとクリスティーヌの求める異性の影【オペラ座の怪人】

公開20周年を記念し、現在リバイバル公開中の『オペラ座の怪人』。
音楽もキャストも大道具小道具も、素晴らしいの一言。

ここでは、作品における展開の不可解さについて解説を行う。
ファントムはなぜあのような行動に走ってしまうのか?
クリスティーヌはなぜなかなか決断できないのか?

まだ観ていない、気になっているという方はこちらをご参照のこと。


主な登場人物

ファントム:顔の傷によって、幼少期から忌み嫌われる。外に出ることは殆どなく、オペラ座の地下に住処をもち音楽家や建築家、デザイナー、マジシャンとして活動を行う。オペラ座のことは隅から隅まで知っている。

クリスティーヌ:オペラ座のバレエ団の一員。容姿端麗、透明感のある声を持つ。幼少期に父親を失い、常に孤独であった。マダム・ジリーは母親の代わり。その娘メグとも仲良し。

ラウル:貴族。爵位(公・侯・伯・子・男)の第4番目にあたる子爵である。劇場の存続を支援する目的でオペラ座へ赴いた。幼い頃にクリスティーヌと夏を共に過ごした過去があり、彼女のことを守りたいと思っている。


ファントムが求めるもの

ファントムが何よりも求めているのは美。そして光。
彼は美への執着や憧れを強く抱き、それを求めている。

そして、それらが元々自分には備わっていない(と決めつけている)ため、
自分の美であり光であるクリスティーヌにそれを投影しているという状態。

孤児としてオペラ座にやってきたクリスティーヌの潜在価値を
はやくから見抜き、育て上げたという意味では先見の明がある。


ファントムの願望

ファントムの次の仕事は、自分の教えで歌も上達し
美しく育ったクリスティーヌを大舞台に立たせること。
しかし現在は歌姫カルロッタの一強状態で
待っているだけではチャンスは巡ってこない。

そこでオペラ座のあらゆる仕掛けを使い、
カルロッタの機嫌を損ねることに成功。
これが、クリスティーヌがデビューするまでの運び。


なぜ姿を現したのか?

突如主役を任されたクリスティーヌの舞台は大成功。
ファントムとしては、これを心から喜ぶはずだった。
しかしこの状態は、
デビュー前から推していたメンバーがソロでヒットしたようなもの。

この露出により、クリスティーヌの昔の友人ラウルが登場。
恩師である自分よりもラウルへ心が傾く彼女を目の当たりにし、
ファントムはいよいよ姿を現したのである。

もっと早くから(ラウルが現れる前から)
クリスティーヌと接点を持っていれば・・
と思うかもしれないが、
怪人には顔の傷という大きすぎるハンデがある。
怪人にとって、目の前に姿を表すのは最後の手段

声だけで彼女を洗脳するのはもはや難しいと判断したため
直接語りかけることを決行したわけだ。

言うなれば、この「直接姿を現してしまった」ことが
ファントムの先走ってしまった部分。
(しかも、あのマネキン見せちゃうのはちょっと・・・)

恋愛対象としての異性ではなく
師という役割
を貫いていれば、
関係に終わりはなかったのかもしれない。

しかし、クリスティーヌもすべて
怪人に踊らされていたわけではない。
父のいない彼女にとって
異性の影を追い求めるのは自然
なこと。

母代わりはいますが、
女性と男性から受けるエネルギーは異なる。
だからこそ、ファントムの声に関心を抱いたのだろう。


The Point of No Return

舞台上でファントムとクリスティーヌが歌うこの曲は
いわばメタ構造であり、これまでの2人の歩みを反芻したもの。

「前にも後ろにも行けない」
「待つのはただ一筋の道」とあるように、

すべてを私(ファントム)に委ねるしかない
実際そうだとわかっているのだろう
、と
クリスティーヌに理解させるまでの歌だ。

作品のクライマックス前でありながら
最上級にエロティックで生々しい場面。

作曲者がファントムということもあり、
多少荒削りで挑戦的な音楽が印象的だ。

しかし、ここでも感情が昂りすぎたファントム。
彼女がラウルとの愛を誓った歌(All I ask of you)を歌うことで
クリスティーヌを正気に戻らせてしまう。


出会いから今までずっと好き

「オペラ座の怪人」をはじめて目にしたのは
おそらく小学生、世界名作文学の一冊からだった。

ひょんなきっかけで劇団四季のオペラ座を鑑賞し
その虜に。

好きが高じて、大人になってからフランスへ一人旅し
オペラ座を隅から隅まで見て回ったのは楽しい思い出だ。

クリスティーヌは女性性に溢れていると思う。
父がなく、どうしようもなく男性性に惹かれる自分を
肯定できない様子に胸が締め付けられる。

クリスティーヌはいままで
多くの人に演じられてきたが、
不安に揺り動かされる様子がここまで自然なのは
本作品が一番ではないかと感じる。
(少しいらいらするくらいが丁度良いとも思っている)

みなさんは、どの曲がお気に入りになっただろうか?
Think Of Me、Angel Of Music、
花形のThe Phantom Of The Operaなど様々あるが
わたしのお気に入りは「Prima Donna」。

クリスティーヌもファントムも歌ってないやつ・・なのだが
単純にメロディがキャッチーで後半への盛り上がりが素晴らしく、
カルロッタがプリマとしての自信を取り戻していく様子が
なんとなく「良いな」と思えるのだ。

2位を決めてもいいなら「Think Of Me」。
クリスティーヌらしく純情あふれていて
「できればわたしを思い出して」と謙虚な歌詞がたまらない。
はじめて主役を演じたクリスティーヌの
ほのかな自信に支えられた表情も素敵。

好きを語りすぎてしまったが
今回のリバイバル上映で「オペラ座」を観て「素敵だった!」と感じる方が
一人でも増えたなら幸いだ。

フランスのオペラ座はすべてが本物の輝きで
めまいがするほどなので
ご関心がある方はぜひ。

ではみなさま、お元気で。
素敵な作品との巡り合わせを。

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