ゴッホ展──響きあう魂 ヘレーネとフィンセント:5 /東京都美術館
(承前)
■ゴッホ都へ行く パリ時代(1)
ゴッホの暮らした場所・時期が、そのまま本展の章の区切りとなっている。
いまこうして改めて整理してみると、それぞれの地で過ごした時間があまりにも短いことに驚かされる。
このわずか10年足らずのあいだに、2000点以上もの作品が残された。
多くの人がイメージする彩り豊かなゴッホの絵は、パリ移住後の4年ほどで描かれたことになる。パリへやってきたことは、短い画業における最大のターニングポイントとなったのだ。
この時期の作品をみれば、青年ゴッホが大都会から受けた影響がいかに大きかったか、容易にわかってしまう。
そんな、あけすけで素直なところにも、わたしはたいへんおもしろみを感じたのだった。
《青い花瓶の花》の鮮やかで茫洋とした色づかいはルノワールのようであり、背景に用いられた点描にはスーラやシニャックら新印象主義の影響がみられる。まるで「合いの子」といった描きぶりで、思わずくすっとしてしまった。
《レストランの内部》は、点描への意識が前面に出された作品。
太く荒々しい筆致はなりをひそめ、工夫を凝らして点描の技法に取り組もうとしているさまがうかがえる。
スーラやシニャックほどの理知性はないが、考えこまれた色みの選択、丹念に打たれたひとつひとつの点に、画家の苦心と新しい感覚の開花が認められる。
描かれているのは、街のレストラン。休日のお昼にちょこっとランチでもしてみたいなと思わせる、こぎれいな室内風景だ。隣の席で談笑する声、カトラリーが磁器の皿に触れるかたっという音が、いまにも聞こえてくるようだ。
明るく、整ったこの画面の前で、点から点へと目を凝らしていく……そのひとときは多幸感に満ち、筆舌に尽くしがたい。わたしはこの絵がすきだ。(つづく)
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